相続税・贈与税の基本(2)押さえておきたい土地評価のキホン
公開日:2023/11/30
不動産を相続する場合、相続税はその不動産の評価額によって決まります。したがって、不動産の評価額の仕組みを知ることが、相続税対策の第一歩となります。 シリーズで、「相続税・贈与税の基本」についてご紹介します。
1画地の評価は相続分割後の状態で行う
1画地ごとの評価は、相続分割後の利用状況によって評価しますので、分割方法によって評価額が変わることがあります。
1画地の基準
1画地になるかどうかは主に次のような基準によって判断します。 なお、登記している土地の1つの単位を1筆といいますが、同じ地目の2筆以上の土地が一体利用されていれば全体で1つの評価単位となりますし、1筆の土地が2以上の利用形態であればその利用単位ごとの評価単位となるのが原則です。
- (1)宅地を居住用、事業用の2つの用途に利用していても、その所有と利用を自ら行っている場合には1画地とします。
- (2)一団の宅地のうち、一部を貸地、残りを自己使用という、それぞれが利用している場合にはそれぞれを1画地とします。
- (3)貸家建付地を評価する場合において、貸家が複数あるときは、原則として、各棟の敷地ごとに1画地の宅地とします。
- (4)一団の宅地の一部について普通借地権や定期借地権を設定させ、残りを貸家の敷地としている場合には、それぞれを1画地とします。
- (5)普通借地又は定期借地で土地を複数の者に貸している場合には、同一人に貸し付けられている部分ごとに1画地の宅地とします。
- (6)複数の土地所有者から土地を普通借地や定期借地で賃借して一体として利用している場合は、全体を1画地として評価します。一方、貸主側の貸宅地としての評価に当たっては、各貸主の所有する部分ごとに区分して、それぞれを1画地として評価します。
- (7)1棟の建物の敷地の用に供されている宅地は、その全体を1画地として評価します。
複数相続人が相続したケースでの評価額計算例
被相続人が保有していた土地を、子であるA、B、Cが被相続人から土地を無償で借りて、それぞれ自分の家を建てて住んでいたとします。相続でそれぞれが住んでいる敷地を分筆した上でそれぞれが相続し、被相続人が住んでいた土地をAが相続した場合を考えてみます。
図1:使用賃借中の土地を複数相続人が相続した場合
以下の表のように、3人がそれぞれ相続した場合のほうが、78万円評価額が下がります。評価額が下がり、かつ、それぞれの利用形態が独立するかたちになります。 また、Aがすべての土地を相続し、今までどおり土地を無償でBとCに貸した場合には、評価額は敷地全体を一体評価する1億7,604万円となります。
相続開始前の評価額 | 相続後の評価額 | |
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評価単位 | A、B、Cそれぞれの自宅の敷地は地代を支払っていない「使用貸借」のため、被相続人の自宅の敷地と同じ用途と判断され、全体の敷地を一体で評価。 | AはAの自宅の敷地と被相続人の住んでいた家の敷地を相続しますので、この2つの土地を一体で評価。B、Cはそれぞれの家の敷地を相続しますので、その敷地が1画地。 |
評価の違い | 全体を1画地として評価しますので、側方加算の影響が全体に及び評価が高くなります。 | Bの1m2当たりの評価額は上昇しますが、A及びCの1m2当たりの評価額が下がり、合計では78万円評価額が下がります。 |
計算式 |
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更地と建物の敷地は同じ分割でも違う評価額
更地の土地を複数の相続人に分割すれば、別々に評価することになります。しかし、全く同じ条件の土地で、更地状態の土地と敷地全体に建物が建っている場合とでは、同じように分割しても評価額が異なります。
更地を利用可能な2つの土地に分割して相続 | 建物を分離するように分割して相続 | |
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評価の違い | 相続によって取得した土地ごとに評価しますので、A土地、B土地それぞれを1評価単位として評価します。 | 建物の敷地をA土地とB土地に分割して、それぞれ違う相続人が相続しても、この土地は建物の敷地全体で利用していますので一体で評価します。 |
計算式 |
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相続で上手に分割するには事前準備が重要
一つの土地を複数人が相続する上では、必ず土地を分筆してそれぞれ土地が別々地番の土地として登記した上で、各相続人が相続しなければなりません。区画整理で換地を受けた土地以外は、分筆の際には隣地との境界確定をし、測量した上で登記しなければならないことも多く、その場合には相当な費用が必要になります。 相続が起きてからでは、これらの費用は相続財産から控除することができません。将来の相続に備え、評価引下げ対策と争いのない分割をするための準備として、被相続人が元気なうちに分筆しておけば、これらにかかる費用が相続税の課税対象から除外できます。分筆することが決まっているなら、相続開始前に実行しておきたいものです。
「地積規模の大きな宅地」の評価
面積が一定規模以上の土地に対しては、「地積規模の大きな宅地の評価」という評価方法が適用でき、単純に路線価×地積で計算した評価額と比較して、約6~8割の評価額に減額することが可能です。 「地積規模の大きな宅地の評価」の適用を受けるためには、次の2つの要件を満たさなければなりません。中層の建物や大規模店舗が建っていても、これらの要件を満たしていれば適用を受けることができます。
- 地積要件
- 次の区分に応じそれぞれの面積以上であること
- イ 三大都市圏に所在する宅地・・・・・500m2
- ロ 三大都市圏以外の地域に所在する宅地・・・・1,000m2
(注)三大都市圏の範囲については国税庁ホームページをご確認ください
- 地区要件
- 「普通住宅地区」「普通商業・併用住宅地区」に所在する宅地であること。ただし、次のイ、口、ハのいずれかに該当するものについては対象外となります。
- イ 市街化調整区域に所在する宅地(ただし、開発行為が可能な地域を除く)
- ロ 都市計画法に規定する工業専用地域に所在する宅地
- ハ 容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地
相続した土地が、住宅地にあり、面積が1,000m2(三大都市圏の場合500m2)以上であれば、「地積規模の大きな宅地の評価」を利用することで、相続税の評価額が下がる可能性があります。 この評価方法が適用可能かどうかは、所在地(区域)について要件が細かく定められていますので、国税庁が提供する下図のフローチャートなどの活用をおすすめします。
図2:適用対象の判定フローチャート
国税庁資料より作成