賃貸住宅経営のメリット。メリットを享受できる条件とは
公開日:2023/09/29
人口減少に伴う少子高齢化による人口構成の変化、新型コロナウイルス感染症の感染拡大をきっかけとしたリモートワークの増加など、賃貸住宅を取り巻く環境は大きく変化しています。
同時に、賃貸住宅の在り方、求められる賃貸住宅に対するニーズも変化しており、メリットやデメリットも変化していると言えます。現在の賃貸住宅経営のメリットを正しく理解し、そしてメリットを享受するための条件を把握しておくことが何よりも大切です。
賃貸住宅経営のメリット(1)長期的な収益
賃貸住宅経営は、長期的な収益を得ることができることが大きなメリットのひとつでしょう。その理由を挙げてみます。
家賃の安定性
長期的な収益を得られる第一の理由としては、家賃の安定性が挙げられます。賃貸住宅の家賃は、景気の波や社会情勢の影響を受けにくく、変動が起こりにくい特徴を持っています。
政府統計の消費者物価指数「家賃」を見ても、家賃指数はここ10年間、わずかな逓減に留まっています。また、新型コロナウイルス感染症の影響があり、多くの経済指数が落ち込んだ2020年においては、2019年よりもわずかに微増しました。
築年数が古くなっても家賃は下がりにくい
以下の表は東京カンテイの資料で、「2022年度に募集が終了した事例の賃料」を築年数別で集計したものですが、賃貸住宅の賃料は、特に都市部においては、築年数が古くなっても賃料が下がりにくいという結果が出ています。つまり、賃貸住宅の賃料は、社会情勢の変化にも強く、築年数の経過にも大きな変動もなく推移するということが言えそうです。
図:築年別管理費共益費込賃料単価
(出典)東京カンテイのデータベース:2022年度に募集が終了した事例の賃料・シングルは1R・1K・1DK、DINKSは1LDK・2DK、ファミリーは2LDK・3DK・3LDK
世帯数は増加
すでに日本では人口減少に入っていますが、賃貸住宅に影響するのは、人口よりも世帯数です。基本的に1世帯で1戸の住居となるからです。
その世帯数を見ると、まだ増加を続けています。人口減少にもかかわらず世帯数が増加しているのは、単独世帯が増加しているからで、2020年に行われた総務省統計局国勢調査(2021年11月30日公表)によれば、全世帯のうち、38.1%が単独世帯となっています。
また、多くの単独世帯は、賃貸住宅に住みます。全国では、「持ち家」に住む単独世帯が36.2%、残り63.8%は賃貸住宅です。大都市に限れば、賃貸住宅に住む単独世帯の割合は東京都73.3%、愛知県68.7%、大阪府68.1%、福岡県70.8%となっています。つまり、賃貸住宅に入居する単独世帯は、増加傾向にあり、多数は賃貸住宅に住むことを考えれば、基本的な賃貸住宅ニーズは存在することになります。
国も賃貸住宅オーナーを保護
賃貸住宅を経営していくにあたって、大きな関心事のひとつが管理業務をどうするかということでしょう。賃貸住宅経営の管理には、契約はオーナーとご入居者が直接締結するものの、管理業務管理会社に委託する「管理委託」と建物所有者がサブリース会社にマンション一棟を賃貸し、サブリース会社が入居者と転貸借契約を締結する「サブリース」の2種類があります。
サブリースは賃貸住宅オーナーにとっては多くのメリットがある仕組みですが、これまでオーナー側にとって収支が悪化してしまったり、トラブルになってしまうケースもありました。
そこで、オーナー保護を目的に、国は2020年12月15日、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律として、「賃貸住宅管理業務適正化法(サブリース新法)」が施行されました。
こうした法律の整備は、賃貸住宅オーナーとしても、安心して経営ができるように進められていると言えるでしょう。
賃貸住宅経営のメリット(2)税務対策
評価額による納税額の違い
土地には、「一物四価」と言われるように、複数の価格が存在しています(基準地価を含めて「五価」と言われることもあります)。それは、固定資産税評価額、相続税路線価、公示価格、実勢価格の4つですが、4つの価格を大まかにまとめると次のようになります。
固定資産税評価額 | 相続税路線価 | 公示価格 | 実勢価格 | |
---|---|---|---|---|
目的 | 固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税などの課税額決定 | 贈与税・相続税などの課税額決定 | 適正な地価の形成 | 実際の土地の売買などで使用 |
主体 | 各市区町村 | 国税庁 | 国土交通省 | 時価 |
方法 | 固定資産評価基準に基づいて評価 | 道路(路線)に面する宅地1平方メートルあたりの土地の評価額 | 二人以上の鑑定士に都市計画区内に設置された「標準地」の価格評価を依頼 | 実際の取引 |
基準時期 | 毎年1月1日 | 毎年1月1日時点 | 毎年1月1日時点 | - |
公表時期 | 3月(3年に1度) | 毎年7月1日 | 毎年3月下旬 | - |
評価額の目安 | 公示価格の約70%程度 | 公示価格の約80%程度 | - | 売主と買主の合意額 |
預貯金や有価証券などは額面の価値がそのまま相続税を計算する評価額となりますが、土地の相続税や固定資産税を算出する際には、それぞれの評価額が存在します。そしてこれらの評価額は、公示価格の7~8割を目安に定められています。
相続税に関する土地の評価は、相続税路線価や固定資産税評価額のいずれかを採用して行います。路線価とは、毎年7月に国税庁から当年度のものが発表されるもので、道路ごとに付けられた路線価に、土地の面積をかけ、様々な調整要素を加えて土地の評価額を算出します。相続税の課税対象となる路線価は、国税庁のホームページで確認することができます。
固定資産税評価額は、土地と家屋の評価方法を定めた「固定資産評価基準」に基づいて、各自治体が個別に決定しているもので、主に固定資産税を決定する際に用いられます。
建物の場合、新築の場合の標準的な評価額は、契約した工事費の50~60%程度と言われていますが、住宅の規模・構造・築年数などによって評価額は異なります。
このように、土地や建物の場合、実際の取引価格よりも低い評価額となるため、金融資産などよりも相続税が低く抑えられると言われる理由です。
貸家建付地による評価減
同じ評価額の土地であっても、貸家建付地の場合、自用地(自己使用の土地)よりも評価が下がります。貸家建付地とは、貸家の敷地として使用されている土地のことですが、貸家(賃貸住宅)を建てた土地の場合、賃貸用の建物にご入居者がいますので、自分の土地であっても売却がしにくいなど、流動性が低くなるためです。この貸家建付地の評価額は、借地権割合として地域ごとに30%~90%と定められています(国税庁ホームページの「路線価図・評価倍率表」の各都道府県のページより確認できます)。
借家権割合
実際に賃貸住宅を経営している場合は、借地権割合に加えて、借家権割合も評価されます。借家権割合は、全国一律で30%と設定されています。
つまり、賃貸住宅を経営し、ご入居者が住んでいる場合の評価額は、「土地(自用地)価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」で計算することができます。
賃貸割合とは、実際に契約し入居されている割合です。誰も住んでいない場合は、ゼロとなります。
小規模宅地の特例
小規模宅地の特例は、相続税の負担によって、相続人が住まいを失うことがないように定められた特例です。「被相続人の事業の用に供されていた宅地等の要件」「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の要件」という要件を満たす場合、限度面積まで相続税評価額を80%または50%まで減額されます。
所得税、住民税
所得税には、所得の合計額に課税される「総合課税」と、個別の納税となる「分離課税」がありますが、賃貸住宅経営で得られる所得は「不動産所得」で総合課税の対象となります。よって不動産事業で赤字が発生した場合でも、給与所得などと損益通算することができます。損益通算とは、マイナスの所得をプラスの所得に合算して全体の所得を小さく計算できる制度ですので、結果として、所得税が減額されることがあります。
※これら税務に関することがらは、税理士などの専門家にご相談ください。
賃貸住宅経営のメリットを享受するために注意しておくべきこと
立地条件を吟味する
賃貸住宅経営は、どのような地域でも上手くいくわけではありません。立地条件や周辺環境に大きく左右されます。単純に人口の問題だけとっても、増加している地域と、既に人口が減り続ける地域では、明らかに経営の難しさは異なります。
具体的には、「最寄り駅が徒歩圏内に多い」「スーパーやコンビニなどの商業施設から近い」「病院や学校などの施設が近い」「生活環境が良い」「企業や工場が近い」などといったことが挙げられますが、入居いただく方がいるかどうかを調査することが重要です。
また、現在は賃貸住宅需要があっても、将来、企業や学校の移転などが起これば、周辺の賃貸住宅需要は大きく減少することになりますので、将来のことも考慮しなければなりません。
賃貸住宅経営のメリットを多く享受するためには、原則として立地の良い場所で行うのが基本であり、今後、賃貸需要がほとんど見込めないと判断される条件の土地であれば、その土地は売却し、賃貸住宅需要が見込める土地を購入し、賃貸住宅を行うのも対策の一つとなります。
周辺のニーズに合った施設の建築
立地条件に加えて、周辺のニーズ、将来性を考慮した上で、クオリティの高い、快適な住まいが実現する施設であれば、長期的な収益を生む可能性は高まります。リモートワークを行う方もまだまだ多数存在しており、家で過ごす時間は、コロナ以前よりもはるかに増加していると言われています。周辺の方々のニーズに合った間取りや設備、デザインを持つ施設を建てることも重要です。
適切な管理と修繕
築年数が経過すると、建物や設備が老朽化しますので、周辺に新築の施設ができれば、どうしてもご入居者は新築の方へと流れてしまう可能性があります。
その対策として、価値が下がりにくいように定期的な修繕やメンテナンスが必要となります。賃貸住宅オーナーは、計画的に修繕費やメンテナンスの費用を見込んだ上で、賃貸住宅経営を行わなければなりません。
信頼できるパートナー
賃貸住宅経営は、適切な経営を行うことで、さまざまなメリットを享受することができますが、市場調査から計画、経営まで何もかも一人で行うことは難しいものです。
賃貸住宅経営は長期にわたります。オーナーのニーズをくみ取り、収益を上げるための対策から税務対策、相続に関することなど、長期的に適切なアドバイスをもらうことができるパートナーの存在を欠かすことはできません。