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コラム vol.447
  • 不動産市況を読み解く

2023年地価公示を読み解く地価上昇は地方へも波及

公開日:2023/03/31

POINT!

・2023年の公示地価は、全国の全用途平均で+1.6%(住宅地+1.4%、商業地+1.8%)と大きな伸びを示し、2年連続上昇となった

・三大都市圏では、全用途で前年からプラス幅が拡大した

・都道府県別では、住宅で上昇が目立ったのは北海道+7.6%、3年連続1位となった

・今後の地価の見通しは、昨今の不動産市況を支えてきた金利動向次第と考えられる

2023年(令和5年)分の地価公示が3月22日に国土交通省より発表されました。景気が緩やかに持ち直している中で、どれくらい地価が回復あるいは上昇しているのかに注目が集まりました。 毎年3月恒例の「地価公示を読み解く」をお届けします。

2023年地価公示の全国俯瞰

2023年の公示地価(価格時点:1月1日)は、全国の全用途(住宅地・商業地・宅地見込地・工業地)平均で+1.6%となり、ミニバブル期の最終局面(その後にリーマンショック)の2008年の+1.7%に匹敵する大きな伸びを示しました。昨年は+0.6%でしたので、2年連続の全国平均上昇となります。これは、都市部の牽引が大きかったことに加えて、地方においても前年からの変動率でプラスになった県が増えたことが要因です。

図1:公示地価 前年平均変動率(住宅地)

全国平均を用途別にみれば、住宅地は+1.4%(前年は+0.5%)、商業地では+1.8%(前年は+0.4%)といずれも上昇幅が大きくなりました(図1・2参照)。
新型コロナウイルスの影響で、2021年は落ち込みが見られましたが、2022年には回復傾向が見え始めました。2023年は地域や用途に差はあるものの、都市部を中心に上昇幅が拡大、地方へ上昇範囲が拡大しており、コロナ禍前への回復基調、あるいはそれを超えるエリアも出始めてきました。 住宅地地価の上昇の背景には、共働き世帯が増えていること、住宅ローン減税が効いていること、低金利が続いていることなどから、住宅需要の堅調が続いているからでしょう。また、地方都市でもこうした傾向から、地方中心都市の周辺部でも地価上昇が見られました。

図2:公示地価 前年平均変動率(商業地)

商業地地価上昇の背景には、三大都市や地方大都市での再開発事業が多く、この影響で利便性・繁華性が向上することの期待感から地価上昇が継続しています。また、コロナ禍が落ち着き、繁華街に人が戻り、加えて2022年後半からはインバウンド観光客も増えていることから、商業地地価は回復傾向にあります。

地価公示の役割と算定について

ここで、「地価公示は何の為に行われるのか」など、制度の概要について簡単に説明します。
地価公示は、国土交通省土地鑑定委員会が年1回、定められた標準値(全国に26,000地点)の1月1日時点の正常な地価(=土地について自由な取引が行われるとして、その取引において通常成立すると認められる価格:地価公示法第2条第2項)を公示することで、一般の土地取引の指標(売り手にも買い手にも偏らない客観的な価値)として、また公共事業などでの取得価格算定の規準とされることを目的としています。
正常な価格の判定(=鑑定)は、建物がある場合や使用収益を制限するもの(例えば、抵当権や地上権など)がある場合は、それらがないものとして(=つまり更地として)算定されます。また、地価の算定については、1つの標準地において2人の不動産鑑定士により行われます。
7月に公表される路線価や、固定資産税評価額は、この公示地価に基づいて価格算定されます。こうした意味でも、一物四価(公示地価、路線価、固定資産税評価額、基準地価)といわれる地価の中で、最も重要な地価という位置づけといえるでしょう。

三大都市圏の状況

三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)全体では、全用途は+2.1%(前年+0.7%)、住宅地は+1.7%(前年+0.5%)、商業地は+2.9%(前年+0.7%)と、いずれも前年からプラスの幅が拡大となりました。

図3:3大都市圏 公示地価 前年平均変動率(住宅地)

なかでも住宅地は、新型コロナウイルスの影響がなく、2008年以降最高の伸びを示していた2020年を超える伸びとなりました。

一方、商業地ではプラスの幅が拡大しましたが、住宅地のように2020年の伸びを超えるまでには至っていません。観光需要が旺盛なエリア、再開発エリアなどの伸びが目立ちました。

図4:3大都市圏 公示地価 前年平均変動率(商業地)

東京圏の状況

東京圏(東京都区部や多摩地区、神奈川県・千葉県・埼玉県の主要地域など)では全用途平均で+2.4%(前年+0.8%)、住宅地は+2.1%(前年+0.6%)、商業地は+3.0%(前年+0.7%)となり、いずれも昨年より上昇幅が拡大。
住宅地は、昨年に引き続き23区すべてで上昇し、上昇幅も全区で拡大しました。とくに駅前再開発の進む中野区や、足立区の綾瀬駅周辺などで大きな伸びが見られました。
商業地は、昨年は23区のうち中央区・港区・千代田区はマイナスでしたが、今年は23区すべてでプラスとなりました。再開発が進んで利便性の向上した地域、新型コロナウイルスの影響が薄れた繁華街、観光需要が旺盛な地域の上昇が目立ちました。中央区銀座地区がマイナスからプラスになり、浅草地区の大きな伸びが目立ちました。

大阪圏の状況

大阪圏(大阪府全域、兵庫県・京都府・奈良県の主要地域など)では、全用途平均で+1.2%(前年は+0.2%)、住宅地は+0.7%(前年は+0.1%)、商業地は+2.3%(前年±0%)となりました。

住宅地では、大阪市は+1.6%、神戸市は+1.2%、京都市は+1.2%と、関西三大都市はすべてプラスとなりました。大阪市の中心街である梅田へのアクセスがよい福島区、神戸市の中心街である三宮へのアクセスがよい灘区などの上昇が目立ちました。また、奈良市の近鉄大和西大寺駅周辺では再開発が進み、近隣住宅地は10%以上の上昇となりました。
商業地も3年ぶりにプラス。大阪市では昨年のマイナスからプラスに転じました。JR大阪駅北側(旧梅田貨物ヤード)の再開発(うめきた2期)が進み、またそのエリアの地下にJR大阪駅地下ホームが開業するなどの期待感から、梅田周辺での地価が大きく上昇。京都市では、前年の+0.7%から+3.3%に大幅上昇、国内外からの観光客が戻り、市内の商業地での価格下落地点はゼロでした。観光客が多い京都市祇園エリア、奈良市中心部(奈良公園周辺など)、大阪市道頓堀エリア、大阪市梅田周辺などいずれも大きな伸び(あるいは回復)となりました。

名古屋圏の状況

名古屋圏(愛知県の主要地域、三重県の一部など)では、全用途平均で+2.6%(前年+1.2%)、住宅地は+2.3%(前年+1.0%)、商業地は+3.4%(前年+1.7%)となりました。全用途、住宅地、商業地、いずれも三大都市圏で最大の伸びとなりました。
住宅地では名古屋市中区の+11.1%、東区の+6.5%、東海市の+7.8%などが目立ちました。 商業地では、名古屋市のすべての区(16区)で上昇幅が拡大しました。名古屋市の繁華街の中心地である栄地区での再開発が、商業地上昇を牽引しているようです。

地方圏の状況

次に地方圏の様子を見てみましょう(図5・6参照)。 地方中核4市(札幌・仙台・広島・福岡)では、全用途平均は+8.5%(前年+5.8%)、住宅地は+8.6%(前年+5.8%)、商業地は+8.1%(前年+5.7%)となり、すべて10年連続してプラスとなりました。
地方圏全体では、全用途平均は+1.2%(前年+0.5%)、住宅地は+1.2%(前年+0.5%)、商業地は+1.0%(前年+0.2%)となりました。
地方4市を除くその他の地方圏では、全用途平均は+0.4%(前年-0.1%)、住宅地は+0.4%(前年-0.6%)、商業地は+0.1%(前年-0.5%)となりました。
このうち、その他地方圏の住宅地がプラスとなったのは28年ぶりです。これは、地方中核4市の住宅地の上昇率が拡大しており、これら中心部の地価上昇に伴い、需要が波及する形で、周辺の市などで高い伸びとなったことが要因でしょう。

図5:地方圏 公示地価 前年平均変動率(住宅地)

昨年に続き、札幌周辺都市での地価上昇が目立ちました。住宅地変動率上位10はすべてこのエリアで、北広島市、江別市、恵庭市の地点となっています。商業地においても、ベスト10は北広島市、恵庭市、江別市、千歳市の地点となっています。

図6:地方圏 公示地価 前年平均変動率(商業地)

都道府県別の住宅地・商業地の変動率

次に、各都道府県別に住宅地の地価を見てみましょう(図7参照)。 住宅地でプラスとなったのは24都道府県でした。昨年は20都道府県でしたので、大きく改善しています。
上昇が目立つのは、昨年に続き北海道+7.6%(前年は+4.6%)で、3年連続して都道府県別で1位でした。次に福岡県で4.2%、宮城県4.0%、沖縄県3.6%と続きます。

図7:都道府県別 地価公示変動率(住宅地)

次に商業地を見てみましょう(図8参照)。

図8:都道府県別 地価公示変動率(商業地)

商業地ではプラスとなったのは23都道府県で、昨年は15都道府県でしたので、こちらも大幅に改善となりました。

基準地価=都道府県地価調査との共通地点で見る、22年前半と後半の変化

最後に、基準地価との共通地点(住宅地1120、商業地501、合計1621地点)を見てみましょう。基準地価は毎年9月に発表されますが、価格時点は7月1日で、公示地価の価格時点が1月1日ですので、ちょうど中間の値となります。

住宅地を見ると(図9参照)、全国、三大都市圏、地方圏、いずれも前半よりも後半の上昇率が高くなっています(地方圏における4市を除くその他の地域では横ばい)。これは、住宅地価格が、後半ほど伸びが顕著だったということ。つまり、住宅地地価は全国的に上昇基調にあるといえます。

図9:都道府県地価調査との共通地点:半年ごとの地価変動率(住宅地)

商業地を見ると(図10参照)、こちらも住宅地よりも顕著に後半の上昇率が高くなっています。
商業地においても、全国的に上昇基調(あるいは回復基調)にあるということになります。

図10:都道府県地価調査との共通地点:半年ごとの地価変動率(商業地)

まとめと2024年への展望

昨年の地価公示発表の際には、「少なくとも2022年内の大きな金利上昇可能性は低いと思われるため、2023年に発表される地価公示はさらに回復基調が見られる」と予測しましたが、2023年の地価公示は、おおむね予想通りの状況となりました。
この先の地価の見通しですが、昨今の不動産市況を支えてきた金利動向次第といえるでしょう。
2023年4月に日銀総裁が10年ぶりに交代します。金融緩和路線は引き継ぐと思われますが、どこかのタイミングでの緩和縮小を行うことが求められるでしょう。そのため不動産市況に大きな影響を与える金利という観点からは、さらに地価が上昇するかもしれません。
また、アメリカでの銀行破綻などから金融不安がささやかれています。今のところ(執筆時点3月23日)動揺は限定的で、3月のアメリカFOMCでは、予定どおり0.25ポイントの金利引き上げが行われました。リーマンショック時と同じ轍を踏まないように、世界の中央銀行が金融不安回避に向けて動けば、こうした影響も少ないのではないでしょうか。

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