建設工事費デフレーターの状況と建設業における2024年問題
公開日:2023/01/31
POINT!
・「働き方改革関連法」の建設業への適用は、建設会社に大きな課題となっている
・2022年後半から建設工事費の価格上昇幅が低下し始めているが、「建設業における2024年問題」が予想されることから、建設工事費は長期的に高止まりすると考えられる
土地活用として賃貸用物件の建築を計画されている方にとっては、建築工事費の状況は費用総額(投資総額)に直結しますので、気になるところです。
今回のコラムでは、2020年以降の建設工事費の状況を分析しながら、今後の展開を検討してみたいと思います。その際に、重要なキーワードの1つが「建設業における2024年問題」です。
2020年以降の材料別建設工事費デフレーターの推移
図:建設工事費デフレーター 建て方別前年同月比の推移(2020年1月~)
2020年以降の建設工事費がどのような状況かを見てみましょう。
図は、2020年1月から執筆時点(1月17日)最新のデータである2022年10月までの建て方別の建設工事費デフレーターの推移を示しています。
これを見れば、新型コロナウイルス感染症の世界的なまん延により、建築需要が低下することに伴い、建設工事費は2020年の後半にかけて低下しました。ただ、2013年以降おおむね右肩上がりに(2015年~16年は横ばい)上昇が2020年年初まで続いていましたので、「一時的にやや低下しているものの、高止まりしていた」という言い方が適切でしょう。
しかし、2021年半ばから状況は一転します。どの建て方の建設工事費も大きく上昇しました。とくに顕著なのは木造住宅の建設工事費でした。それまで見合わせていた住宅建築需要が低金利を背景に世界的に高まったこと、また中古戸建流通が主流のアメリカで流通量が増えたこと(中古戸建を購入された多くの方がリフォーム工事を行うため、そのリフォームに使用する木材需要が高まった)に加えて、山火事などによって木材供給が減少しました。当時「ウッドショック」と呼ばれたこの木材価格の上昇は、需給のバランスが崩れたことが原因でした。
これらに加えて、為替相場が円安に振れたことで、建設原材料の大半を輸入に依存する我が国においても、住宅建設工事費が高くなりました。
しかし、データをみれば2021年半ば以降上昇幅が拡大していましたが、2022年後半からは価格上昇幅が低下し始めています。直近では、住宅ローン金利の上昇に伴いアメリカでの住宅流通が減少しています。そのため、木材あまりの現象も見られ始めており、木材原材料価格下落の可能性も出てきました。また、非木造の鉄鋼資材の価格も一時より価格の高騰が鈍化している状況です。
では、「この先、原材料費が安くなれば、住宅建設工事費は下落するのか」といえば、「どうもそうならない」と思われます。その理由は、建設工事費デフレーターのもう一つの大きな構成要素である労働人件費が上昇していることです。
建設業の2024年問題
建設関連における労働人件費の増加の背景としては、「新型コロナウイルス感染症の影響で入国が難しくなったこと、円安により日本で働くうま味がなくなったことなどにより、海外からの建設関連に携わる方々が不足していること」がこれまで指摘されていました。
これに加えて、この先労働人件費が高くなる可能性をもたらすのが、「建設業の2024年問題」と言われていることです。
2019年4月に「働き方改革関連法案」が施行され、我が国において「労働環境の抜本的な改革」が進められています。長時間労働の是正、正社員非正規雇用間における公正かつ公平な待遇、女性の社会進出の促進、高齢者の定年後の就業促進などがその柱となっています。これに関して、建設関連業は5年の猶予が与えられていましたが、2024年4月からは、「時間外労働の上限」などが施行されます。
これに伴い、「労働人材確保が難しくなる、現行よりも1人当たりの労働時間を短くせざるをえない」などの理由により、労働人件費の増大可能性が高まっています。これが「建設業の2024年問題」といわれているものです。
2024年4月に控えた「働き方改革関連法」の建設業への適用は、建設会社にとって喫緊の大きな課題となっています。これまで常態化していたと言われる建設業における残業ですが、他の業界と同じように「月45時間、年360時間」の上限が設けられます。建設業で働く方にとっては、勤務環境が改善される兆しとなりそうですが、その一方で機械化等の企業努力は行われると思われるものの、生産性の向上はすぐに進むわけではありません。残業ができない分、納期や人件費に大きな影響が出てくると見られます。ただでさえ、建設業界では人手不足が深刻化しています。人件費が高騰すれば、さらに建設・建築費を押し上げることにもなるでしょう。
このようなことを鑑みれば、建設工事費は、よほど需要が落ち込まないかぎり、長期的に高止まりすると思われます。
土地活用として賃貸用物件の建築を考えている方は、「もう少し待てば」とは考えない方がよいと思います。