続々・建設工事費は近年どれくらい上昇しているのか?~住宅工事費にフォーカス~
公開日:2022/02/10
以前、「建設工事費は近年どれくらい上昇しているのか?」(2018年8月)
「続 建設工事費はどれくらい上昇しているのか?」(2020年11月)と二度、グラフを用いて解説しました。いずれも、かなりの方々に読んでいただいているようで関心の高さがうかがえます。この二つのコラムでは「工事費デフレーター」のうち、最も大きな枠の「建設工事費」の指数を用いて解説しました。国土交通省から毎月公表される建設工事費デフレーターは、もう少し細分化された数字も公表されています。「建設総合>土木総合・建築総合>住宅総合>木造住宅・非木造住宅>SRC造・RC造・S造」とざっとこのような枠組みになっています。
今回は、建設工事費デフレーターのうち、住宅カテゴリーに絞って、「近年、どれくらい工事費は上昇しているのか」について解説したいと思います。
2015年度からの住宅工事費の変化
建設工事費デフレーターは月単位の数字と年度単位の数字が国土交通省より公表されています。まずは年度単位での住宅工事費の変化を見てみましょう。(以下、本文、図表データとも出所は国土交通省「建設工事費デフレーター」より)
図1:建設工事費デフレーター(住宅総合)
図1は、建設工事費デフレーターのうち「住宅総合」の指数の推移をグラフ化したものです(注:2015年度基準での指数、また国土交通省によれば2019年度、2020年度は変更の可能性がある暫定値として公表されています。以下各図表とも)。これによると、住宅関連の工事費は、図1のグラフにはありませんがリーマンショックが収まりつつあった2010年度から上昇し始め、いったん2014年度~2016年度あたりは横ばいとなります。しかし、2017年度から2019年度は上昇し、新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃く出た2020年度は、やや減少(ほぼ横ばい)となっています。
新型コロナウイルス感染症が広まって以降の住宅工事費の推移
それではここからは、新型コロナウイルス感染症が広まった2020年以降の数字を月単位で見てみましょう。
図2:建設工事費デフレーター月別(住宅総合 2020年以降)
図2は、建設工事費デフレーターの住宅総合カテゴリーの2020年1月~2021年10月までの推移を示しています。これを見ると、新型コロナウイルス感染症の影響が初めて広がった2020年4月、5月に少し下がります。その後2021年1月ごろから上昇が続いています。これは、「ウッドショックは木造住宅工事費にどれくらい影響があったのか?」(20221月)
(https://www.daiwahouse.co.jp/tochikatsu/souken/scolumn/sclm377.html)で解説したように、ウッドショックの影響が大きかったものと思われます。木材価格の高騰は2021年11月には、いったん横ばいになっていますので、今後公表される2021年11月以降の建設工事費デフレーター(住宅総合)でも上昇は止まる可能性があります。
木造住宅と非木造住宅における工事費デフレーターの違い
建設工事費デフレーター(住宅総合)は木造住宅と非木造住宅に分けられて指数が算出されています。
図3は、2020年1月~2021年10月までの、木造住宅と非木造住宅の建設工事費デフレーターの推移を示しています。
図3:建設工事費デフレーター(木造住宅と非木造住宅)
非木造住宅が少し高くなるポジションでおおむね同じように推移しています。しかし、2021年6月に木造住宅が逆転し、その後10月まで続いています。非木造住宅といえども、一定程度は木材が使われていますが、木造住宅は躯体を含めて木材を使うため使用量が多く、少し差がついたものと思われます。
このように住宅工事費は、近年上昇を続けています。木材価格の高騰が背景にあることは間違いないのですが、労働人件費の上昇も加わっていると考えられます。新型コロナウイルス感染症の影響による住宅のペントアップ需要(繰越需要)はこの先も予想されていますので、まだしばらくは、住宅工事費は高い水準が続くものと思われます。