回復したのか?2021年新設住宅着工戸数分析と2022年の見通し
公開日:2022/06/30
POINT!
・2021年の新設住宅着工戸数は、総戸数が86万戸前後で着地し、昨年を上回ると予測
・2021年1月~10月の新設住宅着工戸数「持ち家」は、2020年対比でプラス10%、実数でも6月以降は月2万6000戸台をキープした
・「貸家」は、まだ回復していないものの、首都圏の投資用賃貸物件は好調を維持している
2021年の住宅市場は、2020年に大きく落ち込んだ反動もあって、おおむね活況といえる状況 でした。特に、首都圏の分譲マンション価格は、バブル期を超えるレベルに(不動産経済研究所:21年11月分まで)大きく上昇しています。また、長く続く金融緩和政策により、賃貸住宅投資市場も活況で、直近のキャップレートは東京城南エリアでは4%前後((財)日本不動産研究所「不動産投資家調査21年10月分」)で推移、マン ション投資熱は熱狂に近いような水準となっています。 今回の不動産市況レポートでは、2021年の新設住宅着工戸数の状況と着地予測、そして2022年の賃貸住宅・貸家市場について考えてみたいと思います。(執筆時点:2021年12月21日)
2021年の新設住宅着工戸数はどれくらい回復したのか?
「新設住宅着工戸数」は毎月末に前月分が国土交通省から公表されます。執筆時点で2021 年10月分までの公表数値となりますが、2021年の状況がおおむね見えてきました。 2021年1月~10月の新設住宅着工戸数は、総数71万4677戸、持ち家23万7515戸、貸家26万9335戸、分譲(マンション・戸建の合計)20万3204戸となっています。単純にこれを年換算すれば(12/10を掛ける)、2021年の年間の総数は約85.8万戸、持ち家約28.5万戸、貸家約32.3万戸、分譲約24.4万戸となります。月単位で総数をみれば、2021年1月、2月は前年同月比でマイナスでしたが(2020年1月、2月には新型コロナウイルスの影響がほぼ見られなかったため)、以降はずっとプラスが続いています。また、「持ち家」と「貸家」は年間を通じて2020 年の前年同月比でプラスとなっています。
図1:新設住宅着工戸数の推移
国土交通省「新設住宅着工戸数」より作成
図1は、新型コロナウイルス感染症の影響がなかった2019年と影響があった2020年、2021年(1月~10月)の新設住宅着工戸数の推移を示しています(出所:国土交通省。以降新設住宅着工戸数は国土交通省データより)。 昨年の新設住宅着工戸数は、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかったため大きく落ち込みました。昨年同時期の本レポートでは「80万戸を割る可能性もある」と予想しましたが、20年11月~12月に持ち家を中心に持ち直しがあり、総数は約81.5万戸となり80万戸以上をキープしました。 2021年は昨年を上回ることは確実で、86万戸前後で着地するものと思われます。私個人の見解としては、昨年の反動があり、2019年の90.5万戸を超える可能性もあると思っていましたが、そこまでは届かないようです。予想通り86万戸前後で着地すると、前年比で約5.5%増となり、そこそこの回復という状況です。 個別にみれば、「持ち家」は年換算では28.5万戸程度になり、昨年から10%近い増加となります。昨年控えた購入層が戻ってきた反動増と言えるでしょう。一方、「分譲」は昨年とほぼ同水準となっています。なかでも、分譲マンションは、2021年8月、9月、10月とも2020年よりもかなり低くなっています。都市部を中心に新築分譲マン ション供給の回復が見られず、分譲マンション適地が不足している現状がうかがえます。
ウッドショックと住宅ローン減税の改正
「ウッドショック」と言われた世界的な木材価格の上昇により我が国においても木材を多く使う住宅建築の工事費が上昇しました。日本銀行の企業物価指数における「木材」の費用は、2021年年初と11月を比べると約1.6倍になっていました。また、木造系住宅の工事費は、2021年に入り上昇が見られ、21年5月以降は大きく上昇しています。
図2:工事費デフレータ(木造住宅)
国土交通省「建設工事費デフレータ(2015年度基準)より作成
これにより、注文住宅が主となる「持ち家」の着工戸数が減る可能性があると懸念されていました。しかし、図3をみれば、この懸念が杞憂だったといえそうです。図3は、2021年1月~10月の新設住宅着工戸数「持ち家」の月別の推移と2020年同月比です。
図3:新設住宅着工戸数(持ち家)の月次推移
国土交通省「新設住宅着工戸数」より作成
木材価格、木造系住宅建築の工事費上昇が顕著になった5月以降、持ち家着工戸数は2020年対比でプラス10%、実数でも6月以降は月2万6000戸台をキープし、新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年と比較しても、ほぼ全ての月で2019年を上回っています(2019年8月のみ2万8000戸台)。確かに木材価格の上昇傾向は見られたものの、ハウスメーカーの企業努力などで価格転嫁が最小限に抑えられ、建築工事費の上昇が一定範囲内だったことが奏功したといえそうです。また、2020年に購入を検討した方がいったんペンディングして、2021年に動き始めた事、つまりペントアップ需要(堰き止められたものが一気に出てくる)も大きな要因となっているようです。
また、夏ごろから一部報道で「住宅ローン減税打ち切りか」と報じられました。結局、一部変更がありましたが継続となりました。住宅ローン減税はかなり大きな税効果インパクトがありますので、報道が出た夏~秋にかけて、「住宅ローン減税が使える間に…」と駆け込んだ需要があったのかもしれません。
省エネ住宅がどこまで広まるか?が、カギ
2022年の「持ち家」の着工戸数見込みの予測は難しいですが、ペントアップ需要が収まり つつある一方で、低金利が続けば、おおむね2021年並みになると思われます。注目すべき点を挙げると、令和4年度税制改正大綱における「住宅ローン減税」では、「ZEH水準省エネ住宅」や「省エネ基準適合住宅」「認定低炭素住宅」、改正が予定されている「認定長期優良住宅」に税の優遇が行われます。省エネ住宅の建築価格は標準的な住宅建築の工事費に比べると高くなると思われますが、今後このような時代の要請に応えた住宅が一般化することになると思います。このような住宅が広まるかどうか、その元年になるかどうかが注目されます。
2021年貸家の新設住宅着工戸数と2022年の賃貸住宅投資市場見通し
次に、貸家(賃貸住宅)について見ていきましょう。図4は、2021年の1月~10月の新設住宅着工戸数「貸家」の着工戸数と前年同月比を並べたものです。
図4:新設住宅着工戸数(貸家)の月次推移
国土交通省「新設住宅着工戸数」より作成
2021年貸家の新設住宅着工戸数は、新型コロナウイルスの感染者が拡大していた年始から2
月ごろは、低調でした。また、2020年同月比で見ても、2020年1月、2月は新型コロナウイルスの影響がほぼなかったので、特に1月はマイナスが大きくなっています。しかし、2021年3月以降は実数が増え始め、2020年大きく落ち込んだこともあり、前年同月比では10%を超えるプラスの月も多く見られました。
しかし新型コロナウイルスの影響が出る前の2019年と比較すると、2021年の1月~10月の合計は23.75万戸(月平均2万3750戸)に対して2019年1月~10月は28.59万戸(月平均2万8590戸)でしたので、貸家の新設住宅着工戸数は、「まだ回復していない」と言えます。
貸家は主に「土地活用や投資用として」建築しますので、「個人が自宅を建てる」ことと異なり、ペントアップ需要がそれほど大きく起こらなかったとも言えそうです。
投資用賃貸物件の熱狂は続いている
新型コロナウイルスの影響が色濃く出た2020年の貸家建築は、全国的に多くの都市で落ち込
みましたが、その後の回復は地域ごとに差が出ました。そのような中でいち早く回復したのが東京都の数字でした(出所:国土交通省「新設住宅着工戸数2020年分データ」)。2021年においても、東京都を中心に首都圏の貸家着工戸数は比較的好調でした。その背景には、投資マンション市況が新型コロナウイルスの影響があまりみられ
ず、好調が続いているからだと思われます。
不動産投資のアレンジを行う企業へのヒアリングによれば、主に不動産ファンドや富裕層が購入するような居住用の1棟物件は好調を維持しているようです。また、国内投資家に加え、海外投資家も(アジア圏だけでなく欧米のファンドも)積極的に居住用物件の「買い」に走っているようです。こうした方々への売却を当て込んだ物件
の建築数が増えたことが東京での貸家着工戸数が堅調だった要因と思われます。
日本での金融緩和がいつまで続くか?が、カギ
この熱狂の傾向は2022年も続きそうです。不動産投資家のアンケートをみても賃貸住宅物件
への投資意欲は旺盛です。ただ、2021年と異なるのは、すでに米国ではテーパリング(量的緩和策の縮小)が始まり2022年には利上げが予定されています。また英国などでは、2021年12月に利上げが行われました。このような流れが日本でも見られると金利上昇の可能性が出てきます。
しばらく続いた低金利からの離脱の可能性が見えてくれば、熱狂状況に少し変化が見られるかもしれません。