「所有者不明土地」関連法改正の行方(1)所有者不明土地になることを“予防する”
公開日:2021/01/06
POINT!
・所有者不明土地を解消する3つの視点は、「予防する」「減らす」「整理する」
・予防策のひとつとして、2017年から「法定相続情報証明制度」で面倒な相続手続きを簡素化できるようにした
管理不全の空き家や空き地問題が顕在化しています。特に所有者不明土地が問題になっていますが、その理由として「相続」が大きく影響していることを前回コラム「『所有者不明土地』とは? ~増加する理由と問題点について~」でお伝えしました。
所有者不明土地問題は、「所有者が誰だかわからない」「所有者が何処にいるかわからない」という「未登記」を前提にした問題と、登記はあっても話し合いの相手が多くてまとまらなかったり、共有者が誰かわからなかったり、行方不明になっていたりという「共有」の問題が考えられます。
結果として、誰も管理しないという管理不全の状態となり、個別の不動産に限らず、地域、社会全体の大きな問題となっています。
考えられている3つの視点は?
2020年(令和元年)12月3日に公表された「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)
等の改正に関する中間試案」(法務省)を見ると、国はこのような所有者不明土地問題を解消するために3つの視点から対応策を考えているようです。
まず、1つめの視点は、所有者不明土地になることを“予防する”ことです。
これは「相続登記の申請を義務化」することで所有者を確定させる、「遺産分割の期間制限」を図り一度決めた相続が後戻りしないようにすることが考えられています。
2つめの視点は、既に所有者不明となっている土地を“減らす”ことです。
これは、「土地所有権の放棄」をできるように管理不全土地を公益的に利用できるようにする、「共有を解消」しやすくし、私的に利用しやすくすることが考えられています。
そして、最後3つの視点は、「相隣関係規定」を“整理する”ことです。
誰が持っているのかわからず、地域住民が迷惑をしている未利用や低利用の土地利用を円滑化し、周辺への悪影響を最小限に止めようという動きです。
この3つの視点によって、所有者不明土地の解消を図っていこうとしています。
図1
出典:内閣官房 所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議(第6回) 法務省 配付資料(2020年7月3日)
1つめの視点:所有者不明土地になることを“予防する”こと
そもそも、(相続)登記が任意なのは、なぜでしょうか。
それは、民法で定められている「所有権」の規定に由来します。そもそも民法は、土地所有の問題で人々の間で争いがあったときにその問題解決のための指針となるものです。
日本の民法は1896年(明治29年)にできた古い法律で、登記についてはドイツのように所有権を得るための必須条件ではなく、フランスのように所有権を持つ際の対抗要件としての役割を果たすものとされました。ですから、前提条件として“登記をしなくても”所有権を持つことができるわけです。
ただ、登記をしないと、当事者以外の他人(第三者)に「自分が所有者だ」とは言えないことになってしまいます。
ですから、人は登記をするだろうという性善説に立って、不動産取引の制度は成り立っています。
実際、日本人の人口が増加し、経済成長も右肩上がりだった時代には、土地保有のニーズは高く、不動産の価格=価値も上昇し、土地神話の存在もありました。ですから「ほとんどの人は登記をする」「登記するのは当然」という空気の中で行動しており、大きな問題にはなりませんでした。
ところが、1990年代のバブル崩壊後に不動産価格が下がり、また21世紀に入ってからは、少子高齢化と人口減少社会の到来が明確化した影響で、利便性を基準にした不動産価格(価値)の二極分化が鮮明になりました。
不動産価格が低く、価値が少ない不動産においては、登記をするには一定の費用と時間など手間が掛かるため、お金や時間を掛けて登記しても無意味と判断され、相続時に登記がされないまま放置され、時を経て、所有者不明土地
が発生した。ということになったケースが多いと思われます。
また、そもそも相続の際に家族間の信頼関係が高ければ争いになることもないので、立地の良い不動産であっても、相続しても登記しないままで良いという方もいたはずです。
しかし、自治体から見れば、未登記土地の場合、そもそも権利を持っている人を探し出す費用や手間が甚大であり、諦めてそのまま放置するしかない状況に陥る可能性があります。
そこで、2017年(平成29年)から、全国の登記所(法務局)で、各種相続手続に利用することができる「法定相続情報証明制度」が始まりました。この制度は、登記所(法務局)に戸除籍謄本等の書類一式、相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を事前に提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付し、その後の相続手続は、法定相続情報一覧図の写しを利用することで対応できる仕組みになっています。
今後の予測
ここ数年の時代の変化、特に取引のグローバル化により、不動産、相続に関する大きな法改正が続いています。直近では2020年4月に契約(債権)に関するルールが大改正され、今後大きな影響が出てくると思われます。また、前述の通り、相続登記についても義務化する方向で検討されています。
具体的には、相続により不動産を取得した人に対して、取得した日から一定の期間内に相続登記の申請を義務付けるという内容です。申請義務に違反した人に対しても過料など制裁も検討されています。
ただし、登記申請をする際の作業など大きな負担がかかるのも事実です。そのため、相続人の氏名や住所のみの報告的な「相続人申告登記」制度(簡易な申出による登記)の新設も検討されています。また、転居など住所変更等の登
記の申請も義務付けることも検討されており、行方不明者を出さないような仕組みに変えようとしています。
外国に居住する所有者に対しては、投資目的で持たれている方も増えているため、確実な税収確保の目的もあり、国内の連絡先を登記する制度の新設や住所確認書類の見直しについて検討されています。
これらは、「登記名義人が誰か?」「何処に居るのか?」の所在が確認できれば、その後の対応がしやすくなるため、簡易的な登記の制度による柔軟な対応をしようとしています。
このように、登記申請の義務化だけでなく、さまざまな方策を組み合わせて不動産の登記情報の更新を確実に図ることで、所有者不明土地の解消に乗り出そうとしています。
新型コロナウイルスの影響もあり、10年後にはオンラインを活用した、今まで想像もしていなかった商取引を私たちは経験しているはずです。
残り2つの視点についても今後、解説していく予定です。