賃貸住宅経営最大のトラブル!建物明渡の強制執行等について
公開日:2020/02/28
POINT!
・契約を解除したにもかかわらず、賃借人が退去しない場合でも、オーナー様が自ら強制的に立ち退かせることはできない
・強制執行を行うためには、賃貸住宅の明渡しや滞納賃料の支払いを求める訴訟を提起する
賃貸住宅を経営するうえで大きなトラブルのひとつに、賃借人が契約終了しても退去せずに居座ってしまうケースがあります。家賃不払いが起こり契約を解除したにもかかわらず、賃借人が退去してくれない、あるいは、合意したにもかかわらず、実際に賃借人が約束通り退去してくれないといったケースがあります。
これらのケースにおいて、具体的に賃借人を退去させるためには、どのような手続きを採らなければならないのかについて説明します。
自力救済は禁止されている
賃借人が、賃貸借契約が終了したにもかかわらず、退去せずに居座ってしまうようなケースでは、賃料の回収ができていないケースが大多数です。これをそのまま放置した場合には、オーナー様には多大な経済的損失が生じることになってしまいます。また、当初計画していた賃貸住宅の建替え等の計画も実行できなくなってしまいます。
そこで、オーナー様においては、可及的速やかに賃借人を退去させる必要がありますが、だからといって、オーナー様自ら賃貸住宅の鍵を変える、また、賃借人の荷物を強制的に持ち出すということは、法治国家である我が国においては、自力救済の禁止として認められておりません。このような場合、面倒ではありますが、法的な手続きを履践することが原則となります。
訴訟提起等の法的手続きの実施
賃借人が任意に賃貸住宅から退去しない場合には、強制執行の手続きにより退去させることになります。強制執行とは、債務不履行の債務者に対して、裁判所を通して強制的にその債務を実現することであり、賃料不払いに対しては、強制執行の手続きにより賃借人の給料の一部を差し押さえたりすることができます。賃借人が賃貸住宅を任意に明け渡さない場合にも、建物明渡の強制執行手続きを行う必要があります。
強制執行を行うためには、「債務名義」といわれる文書が必要になりますが、これは確定判決や裁判上の和解調書、調停調書等が該当します。そのために、強制執行手続きを行う前提として、まず、訴訟提起等の法的手続きを講ずる必要があります。
そこで、オーナー様は、賃借人を被告として、賃貸住宅の明け渡しや滞納賃料の支払いを求める訴訟を提起することになります。なお、賃貸借契約において連帯保証人が付されている場合には、上記訴訟提起の被告に連帯保証人も加えて、同時に訴訟手続きを行う必要があります。
我が国の訴訟においては、判決まで行かずに、和解で終了することが圧倒的に多いのが実情です。建物明渡を求めるような事案においても、原則、裁判官からは和解を試みる話があり、賃借人である被告がきちんと裁判所に出頭し、協力する姿勢を示しているような場合には、裁判上の和解によって訴訟を終了させることも一つの方法となります。それは、そのような協力姿勢を示している賃借人は、裁判所を通じて行った合意(和解)を遵守しようとする意思があるのが一般的であり、賃借人が任意に賃貸住宅を明け渡してくれるのであれば、強制執行手続きまでとる必要がなくなるからです。
これに対して、賃借人が裁判所に出頭しなかったり、これまでの態度から賃借人がいたずらに時間稼ぎばかりして、ことごとく約束を反故にしてきたような事情がある場合には、和解は拒否したうえで、直ちに判決をもらうことになります。
このように、訴訟提起のうえ、裁判上和解をするか、確定判決を受けることにより、「債務名義」といわれる和解調書、確定判決を取得することができます。
建物明渡の強制執行手続き
(1)強制執行の申立ての準備
上記のとおり、債務名義を取得した場合には、次に「執行文」を付与してもらう必要があります。執行文とは、債務名義の執行力の範囲を公証するため、執行文付与機関が債務名義の正本の末尾に付記した公証文言のことをいい、債務名義が確定判決の場合には、裁判所書記官に申立てを行い、判決の末尾に執行文を付けてもらう手続きが必要になります。
また、強制執行手続きの申し立てのためには、「送達証明書」も必要になりますが、これも裁判所書記官が証明してくれることになります。
(2)建物明渡の強制執行手続きの流れ
①強制執行の申し立て
強制執行の申し立ては賃貸住宅の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に対して、執行文の付された債務名義の正本、送達証明書等の書類を添付した申立書を提出します。なお、執行官とは、裁判の執行などの事務を行う、各地方裁判所に所属する裁判所職員のことをいいます。
②執行官打合せ
明け渡しの催告期日、断行日の日程調整、動産執行を同時に行う場合には、動産の運搬の方法、動産の保管場所等の打ち合わせをします。明け渡しの強制執行においては、実際に荷物を搬出・保管する業者を執行補助者として利用することになりますが、通常は、オーナー様側で利用する執行補助者をあらかじめ決めておきます。ただし、利用する執行補助者が決まっていない場合には、執行官が執行補助者を紹介してくれます。
③明け渡しの催告
執行官は、賃借人に対して、建物明け渡しの強制執行の申し立てがなされてから原則2週間以内に、明渡執行の催告をします。具体的には、催告から1か月後の日を引渡期限とし、それまでに自主的に退去するよう告知します。
④明け渡しの断行
執行官、執行補助者らとともに、賃貸住宅所在地に赴き、建物内から家具等の動産の搬出を行ったり、鍵を付け替えたりし、賃借人を退去させます。退去の際、妨害等が予想される場合には、あらかじめ警備会社や警察に連絡し、同行してもらうことになります。
建物明渡のための強制執行手続きに至るまでの概要について説明しましたが、専門的な知識やノウハウが必要な部分もありますので、このようなケースに遭遇した場合は、弁護士に相談する、もしくは代理人として依頼して進めるべきでしょう。
ただし、これらの手続きには当然相応の費用が掛かりますので、オーナー様においては、最終手段としての知識としてこのような手続きを理解したうえで、極力そのような事態にならないよう普段から不動産管理会社と連携を深めることが必要です。