不動産オーナーのための民法改正のポイント(2)遺言の方式が大きく緩和される
さくら税理士法人 代表 田中 英雄
公開日:2019/12/26
自筆証書遺言の見直し
2019年の民法改正において、相続が絡む相続法と、賃貸借契約に関連する債権法の改正が不動産オーナー様にとって、大きく関わる改正となりました。税務に関する分野では、相続法に配偶者居住権ができたことに次いで、遺言において方式の緩和が行われ、パソコンで自筆証書遺言の目録を作ることができるようになり、保管制度が創設されたことが、大きな改正といえるでしょう。
遺言で大きく変わったのは、目録です。今までは財産目録をすべて手書きで書く必要がありました。署名は必要ですが、税理士がパソコンで自筆証書遺言の目録を作ることができるようになりました。パソコンが苦手な人は通帳のコピーを財産目録とすることも可能ですし、不動産であれば登記簿謄本でも可能です。目録1は誰で、目録2は誰、という振り分けを指定する部分は自筆の必要がありますが、この様式の変更で税理士業務は非常に楽になりました。
また、法務局での自筆遺言証書の保管制度が創設されます。そのため、今後は、税理士は遺言書の検索という業務が確実に増えてくると思います。施行後は、法務局に保管されている自筆の遺言書がないか確認する必要があります。
相続法の改正により、自筆遺言証書を、ほとんどコストをかけずに作ることができるようになります。税理士などに作成してもらう場合は別として、基本は紙と鉛筆があれば作ることができます。法務局の保管もおそらく数千円で済む程度だと思われます。ほとんどコストがかからずに遺言書を作成できて、保管をしてくれるというのは、今回の改正の大きなトピックスです。
現在、公正証書は数万件しかないように、これまでは公正証書というとハードルが高いと感じる方が多かったと思まれます。この改正がきっかけとなり、財産が少ない人でも遺言書を意識するようになるでしょう。今まで遺言書を書くべきなのに書いていなかった方々も、約10万円かかっていたものが数千円で済むようになれば、ハードルも下るでしょう。これから一大ブームになるかもしれません。
不動産オーナー様は、遺言書を全員書くべきだと思います。
2016年に最高裁で、「賃貸住宅の家賃収入分を法定相続人で割りなさい」という判決が出ました。母親と長男、長女での分割で、賃貸住宅の相続は長男だと決まっていたとしても、分割協議は時間がかかりますから、決定するまでの家賃は母親と長女に渡さなければなりません。そうなると、収入金額によりますが、母親の医療費が今まで1割だったのが3割になったり、介護保険料が上がったり、確定申告の必要も出てきます。長女も扶養から外れてしまう場合もあるでしょう。そういったさまざまな問題が出てしまう可能性がありますから、この機会に遺言書を書かれることをお勧めします。
遺言書を作成するタイミングは、いつまでという期限はありませんが、私はできる限り早くとお伝えしています。気をつけなければならないのは認知症です。認知症になると作れなくなってしまうからです。
私どもの事務所であれば、何かがあって間に合わないことがないように、スピーディにやりますし、通常の自筆の場合であれば2ヵ月間くらいで作成します。今回の改正で手間もかからず、さらに簡単にできるようになりました。
ただし注意も必要です。遺言書の作成は法律行為になります。私どもの事務所は行政書士登録をしているので、遺言書の作成業務と請求はそちらで行っています。税金の知識があり、なおかつそういうことができる税理士、行政書士、司法書士と一緒になって作れば安心ですから、オーナー様はその点を確認することもポイントです。
遺留分減殺請求から遺留分損害請求への変更
遺留分減殺請求が遺留分侵害額請求に変更になりました。これまで遺留分請求においては、金銭以外の財産でも指定することができました。「自分の遺留分が侵害されている」と判断される場合、「あの土地がほしい」「あの株がほしい」などと指定することができたのです。そのため、遺留分請求をおこされた場合、指定されたものを渡さなければならず、自社株を請求される、代々引き継いでいる不動産を請求されるといった問題が起きていました。
今回の改正により、遺留分は金銭で渡すように変更されました。つまり、遺留分が金銭債権化されたということです。それでも現金ではなく不動産で渡すというケースもありえますが、その場合、今後は譲渡として扱われますので、ケースによっては、所得税がかかることもあります。これまでは遺留分請求を受けて渡す限りでは譲渡にはならず、財産を相続で渡すという扱いでした。今後、金銭債権を渡すところを、不動産を渡すとなると、その人に売却しているという扱いになり、譲渡所得がかかってしまいます。ですから、これからはますます遺留分は現金精算するようになるでしょう。この制度は、遺留分請求をされる方の保護の意味合いが強いと思われますが、キャッシュで清算ができるように、現金や保険などの準備が必要です。また、そもそも遺留分請求をされないよう、遺言書を用意しておくことがもっとも大切です。