PREコラム
「空き家問題の解決は地域の活性化を生む」(6)都市部における空き店舗活用事例
公開日:2018/03/31
中小企業庁では、地域商業自立促進事業を活用した商店街組合等の取組事例を、「全国商店街の挑戦」という事例集に取りまとめて毎年公表しています。今年も2月に中小企業庁のホームページに掲載されました。
「平成28年度地域商業自立促進事業モデル事例集~全国商店街の挑戦~」(中小企業庁編)
空き店舗は都市部においても例外ではありません。地域コミュニティが中心となって、空き店舗を活用して地域課題の解決に取り組んだ事例を紹介します。
都市部における来街者の回遊促進の取組事例
神奈川県横浜市中区石川町は横浜市の中心部にあり、その昔、洲干湊(しゅうかんみなと)と呼ばれた入り江の南岸に位置していましたが、順次埋め立てられ、横浜港開港後は一帯すべてが陸地化し、当時は外国人居留区となっていたこともあり、隣接する元町や山手地区・中華街地区などとともに、国際色豊かなモダンでレトロな町並みが広がっています。
その石川町にある「ひらがな商店街」は、東横線石川町駅南口から通り沿いに東西に延びる、小店舗で構成された商店街です。駅より東側は、元町・山手地区・中華街地区の玄関口として観光客も多く、一定の来街者によって賑わいを見せていますが、西側は住宅地となっているため、地元住民の買い物需要に支えられている状況でした。そこで、西側から東側へ流れてしまう来街者、あるいは東側からの来街者を商店街内で回遊させる方策を探るため、青年部有志が町内会と連携してニーズ調査を行ったところ、子育て支援施設やカルチャーセンター等教養施設など、住民がゆったりと利用できる場所を求める意見が多かったとのことです。それを受けて、商店街では空き店舗を借り上げ、コミュニティカフェ「マーケットテラスカフェ石川町」をオープン、カフェ兼イベントスペースとレンタルルームを整備しました。カフェの中には「小箱ショップ」という小さなボックス型の出店スペースを設置し、地域住民などが自作の商品を気軽に販売することができるそうです。ここでは、地域の幼稚園、小学校、中学校等と連携して、小箱ショップスペースを利用した展示会を開催するなど、利用促進のPRにつなげています。また、レンタルルームには、トイレやキッチンを備えられ、ワークショップやミニ講演会等、多様な目的での利用が出来るようになっています。このような取組により、住民が集う場所として施設が認知されはじめ、来街者の集客効果を生んでいます。
商店街や商業地域内で来街者の集客力に格差が生まれている地域は、よく見かけます。この事例は、空き店舗を利活用して来街者の回遊導線を平準化する取組として、参考になるのではないでしょうか。
大都市圏における地元商店街活性化への取組事例
埼玉県越谷市は、江戸時代には日光街道の「越ヶ谷宿」として栄え、鉄道や道路の整備が進んだ現在では、東京のベッドタウンとして宅地化が進み、居住者が増加している地域です。越谷新町商店街は、その越谷市JR越谷駅東口の旧日光街道沿いに位置しています。
地域には、多目的広場「ふれあい広場」があり、これまでも、商店街青年部が中心となり商工会議所内の組織である「越ヶ谷TMO」と連携しながら「宿場まつり」などのイベントで宿場町の伝統をPRする取組を続けています。しかし、大都市圏に所在する商店街によく見られることですが、交通の利便性が高いことで、特に若い世代が大都市に昼間流出する、いわゆるストロー現象の影響や、道路が整備されることで郊外大規模商業施設に客足を奪われることで、足元の商店街への来街者は減り続けています。そのため、小売店は減少し、商店街の組合会員数も減っており、後継者の維持も難しくなっていました。
そこで商店街では、「越谷新町商店会活性化計画」を策定し、各個店の商店会への参加意識の向上と地域住民の多様な利用を促進する目的で、「越ヶ谷サード・プレイス(家や職場とは別の居心地のよい第3の居場所)事業」を立ち上げました。
その一環として、商店街の空き店舗をコミュニティ&ベーカリーカフェ「Café803(カフェハチマルサン)」として整備し、さらに若い世代の来街を促すために、「Café803」で商店街の精肉店のコロッケや、豆腐店のおからを活用したメニューを提供することで、商店街の味を気軽に知ってもらい、商店街各個店のPR・利用促進につなげていく取組を始めています。さらに、店内には無料で利用できるボードゲームや絵本、小説などが備え付けられ、家族連れなどがゆっくり過ごすことができる場となっているほか、レンタルキッチン・レンタルスペース・ギャラリーの機能もあり、料理教室や英会話教室、ライブなど様々なイベントで利用できるようにすることで、地域住民の憩いの場になっているそうです。
地方都市における人口減少による商店街衰退の問題も深刻ですが、人口が増加傾向にある大都市圏にあっても、地域間競合に端を発する商店街の存続問題は、地域の伝統や文化を維持するうえでも、重要な課題です。
いずれの取組も、「街の衰退を憂う有志が地域コミュニティを再生していること」「空き店舗を地域活性化推進の資源として利活用していること」が大きな特徴と言えます。やはり、地域課題解決の底流には、地域の人々の想いが始めにあって、コミュニティを再生することで大きな動力源となっているのだと思います。