PREコラム
「空き家問題の解決は地域の活性化を生む」(1)地方における空き家の現状
公開日:2017/10/17
POINT!
・空き家問題の底流には、人口減少や高齢化など、いわゆる過疎問題がある
・地域内の空き家問題には個別の事情がある
地域再生における「空き家問題」について考えてみます。地域にとって、不動産を活用すること(PRE戦略)は、地域を再生するにあたって大きな課題の一つですが、現実は、活用どころか、空き家が増加している地域も多くなっています。
空き家問題とは何か
空き家とは、通常居住していない住宅のことで、長く放置されると、景観上の問題や衛生上の問題、倒壊などによる保安上の問題、犯罪に利用されるなどの防犯上の問題を引き起こし、地域住民としては、いち早く解決を求めたい課題です。とはいえ、住宅は所有者の私有財産であるため、個人や法人、自治体等が勝手に処分することができません。これが、いわゆる「空き家問題」です。
国は、5年ごとに「住宅・土地統計調査」(以下、「統計調査」という)を実施しており、直近の調査は平成25年に実施されました。それによると、全国の空き家は約820万戸といわれ、住宅総戸数約6063万戸の13.5%を占めています。この結果を受けて、20年後には空き家率が30%を超えるのではないかとの推計もあり、にわかに対策の必要性がクローズアップされています。
ここで、空き家の内訳を、詳しく見てみます。
統計調査では、空き家を大きく「二次的住宅」「賃貸用住宅」「売却用住宅」「その他の住宅」の四つに区分されています。その内容と構成比は、表1のようになります。
表1:全国における空き家の内訳
空き家区分 | 空き家区分 | 構成比 | 区分説明 |
---|---|---|---|
(1)二次的住宅 | 412,000 | 5.0% | 別荘や、普段は住んでいないが、たまに寝泊りするような住宅 |
(2)賃貸用住宅 | 4,291,800 | 52.4% | 新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅 |
(3)売却用住宅 | 308,200 | 3.8% | 新築・中古を問わず、売却のために空き家になっている住宅 |
(4)その他の住宅 | 3,183,600 | 38.8% | 上記以外で、居住世帯が長期にわたって不在の住宅や取り壊すことになっている住宅など |
空き家合計 | 8,195,600 | 100.0% | 上記(1)~(4)合計 |
出典:総務省統計局「住宅・土地統計調査」
空き家の内訳を見ますと、「二次的住宅」は別荘や会社の仮宿泊所のことで、一般的には「空き家」とは呼べない住宅でしょう。また「賃貸用住宅」や「売却用住宅」は、いわゆる不動産業界における流通在庫で、将来的に空き家化する危険はあるとしても、にわかに「空き家」とするには無理があるような気がします。したがって、私たちが日常生活で「空き家」と認識するの「空き家問題の解決は地域の活性化を生む」(1)地方における空き家の現状は、「その他の住宅」ではないでしょうか。これを「狭義の空き家」と呼ぶことにし、その比率を算出すると、その空き家率は全国で5.3%となります。
東京都の(広義の)空き家率は11.1%で、10戸に1戸は「空き家」ということになりますが、東京で生活している方にとっては、この数値には違和感があるでしょう。しかし、狭義の空き家率では2.1%になり、100戸に2戸程度となり、感覚的には、こちらの方が納得できる数値ではないかと思います。
いずれにしても、空き家率が右肩上がりで年々増加していることは確かですし、マンションや賃貸住宅で、「最近空室が増えている」と感じる方々も多いと思います。空き家問題に対する対応は、避けられない課題であることに違いはありません。
空き家をもたらす根本的な要因とは
空き家が増加する根本的な要因とは何でしょうか。統計調査の都道府県別の空き家率を見ると、一番高かったのは山梨県の22.0%です。逆に低かったのは沖縄県の10.4%です。なお、最も低かった宮城県(空き家率9.4%)は、東日本大震災による住宅需要の上昇が影響していると考えられるため、比較対象から除外しました。また、東北各県の中で山形県が空き家率10.7%と低い値を示しています。これら3県に東京都を加えて、人口や世帯数の増減率、高齢化率を比較したものが表2になります。
空き家率が低い沖縄県は、東京都のような大都市圏以外で、人口や世帯数が大きく増加し、高齢化率が低い特徴があります。また、山梨県は、人口が減少し、世帯数の増加率が低く、高齢化率も平均より高い傾向があります。一方、人口が減少し、世帯数の増加率が低く、高齢化率も高い山形県は、広義の空き家率は低いのですが、狭義の空き家率をみると平均とほぼ同じ数値となっており、楽観視できない状況が窺えます。
表2:4都県の空き家率、人口増加率、世帯増加率、高齢化率の比較
対象 | 空き 家率 ランキング |
広義の 空き 家率 |
狭義の 空き 家率 |
人口 増減 率 |
世帯数 増減 率 |
高齢 化率 |
---|---|---|---|---|---|---|
全国 | - | 13.5% | 5.3% | -0.8% | 2.9% | 26.3% |
山梨県 | 1 | 22.0% | 8.0% | -3.3% | 1.0% | 28.1% |
東京県 | 42 | 11.1% | 2.1% | 2.7% | 4.8% | 22.2% |
山形県 | 45 | 10.7% | 5.1% | -3.9% | 1.2% | 30.6% |
沖縄県 | 46 | 10.4% | 3.9% | 2.9% | 7.7% | 19.4% |
人口増減率、世帯数増減率:平成22年及び27年国勢調査結果より増減率を算出
高齢化率:平成27年国勢調査結果より、65歳以上人口の割合を算出
空き家率:平成25年住宅・土地統計調査結果より算出
これらから考えると、空き家問題の底流には、人口減少や高齢化など、いわゆる過疎問題があります。しかし一方では、地域ごとの立地や地勢的な違いから、空き家に関連する要因は違っていると思われます。また、地域における官民連携による空き家問題への取り組みには、温度差や時間差もあるものと考えられます。
次ページの表3・表4は、空き家率の推移です。山梨県と山形県を比較すると、平成20年以降の空き家率の上昇に差が出ています。このあたりに何が潜んでいるのかを読み解くことで、空き家問題への対応策の糸口が見つかるかもしれません。
表3:4都県広義の空き家率の年推移
対象 | 平成 10年 |
平成 15年 |
平成 20年 |
平成 25年 |
---|---|---|---|---|
全国 | 11.5% | 12.2% | 13.1% | 13.5% |
山梨県 | 14.8% | 19.4% | 20.3% | 22.0% |
東京県 | 11.0% | 10.8% | 11.1% | 11.1% |
山形県 | 7.1% | 9.6% | 11.0% | 10.7% |
沖縄県 | 11.1% | 10.0% | 10.3% | 10.4% |
表4:4都県の狭義の空き家率の年推移
対象 | 平成 10年 |
平成 15年 |
平成 20年 |
平成 25年 |
---|---|---|---|---|
全国 | 3.6% | 3.9% | 4.7% | 5.3% |
山梨県 | 4.5% | 4.9% | 6.4% | 8.0% |
東京県 | 2.1% | 2.3% | 2.8% | 2.1% |
山形県 | 2.9% | 3.8% | 4.7% | 5.1% |
沖縄県 | 3.8% | 3.4% | 3.9% | 3.9% |
地域内の空き家問題には個別の事情がある
なぜ過疎化によって住宅が空き家になってしまうのか。地域で生まれ育った子どもたちが、進学あるいは就職によって大都市へ移動し、その後、子どもたちは大都市で世帯を持ち、定住していきます。残った実家には年老いた両親が残りますが、さらに高齢化が進むと、介護施設へ入所したりお亡くなりになったりして、居住者のいない住宅となります。
居住者のいなくなった住宅は、比較的に老朽化が進んでない場合(市場価値がある場合)は、相続権者が継続して居住したり売却することが可能です。老朽化が進んで居住が難しい住宅は、取り壊さなければなりませんが、「何らかの理由」で放置されたものが、空き家問題の対象物件ということでしょう。その「何らかの理由」は、地域や所有者の個別の事情ですので、事例を集約することで課題や対応策を模索しなければなりません。
一方、都市部における空き家問題は、そのほとんどが、所有者が特定できないか、所有者の経済的な問題に起因しているようです。
その他にも、広い意味での空き家問題として、商業地域の空き店舗問題があります。いわゆるシャッター商店街の問題です。商業地域の使われなくなった店舗が放置されたり、住居兼店舗が閉店して住宅となっていく現象が、地域活性化の障害となっている事例が全国に多くあります。
空き家や空き店舗といっても、個人あるいは法人の私有財産ですので、公共の利益に反するからといって、強制的に課徴金を課したり、改造や撤去などはできません。その場合は、まず国や自治体が合理的な理由と方法で法律を定める必要がありますが、所有者個別の事情を考慮しつつ、有効性のある制度を作ることが現実的に可能なのかはわかりません。
平成22年以降、国全体の人口が減少に転じ、過疎化もさらに進行することが予測される今、空き家は確実に増加傾向にあります。
やはり基本的には、空き家所有者の利益を尊重し、再活用に向かう意欲を増進させるような活用方法を、官民連携で考えていく必要がありそうです。