CREコラム
不動産証券化のトレンドを追う高齢化社会と不動産証券化
公開日:2017/09/20
全国の病院で施設の老朽化が進んでおり、耐震化などを含めた建て替え需要が高まっています。高齢化社会の中、国の資金に依存しているだけでは医療機関の建て替えニーズに対応するのは難しく、民間の資本を導入する医療関連不動産の証券化が今後進むのは間違いありません。ヘルスケア施設の充実と合わせ、高齢化社会と不動産の証券化はますます結びつきが強まりそうです。今回はこの問題を考えてみましょう。
病院の老朽化が進んでいる
国土交通省の資料によれば、我が国における病院の着工件数は1970年代後半の年間3万件をピークに年々減少し、2000年の介護保険制度導入で2万8千件と一時的に増加したものの、1980年代以降は病床規制が導入されたことで年間1万5千件程度にとどまっています。病床規制とは、病院のベッド数を制限して医療費が増えるのを防ぐ仕組みで、都道府県が地域ごとに定めています。こうした規制の結果、病院施設の老朽化が進んでいると言われています。
70年から80年代に建築された病院は築30年から40年を経過しており、1978年の宮城県沖地震を契機に強化された耐震基準以前の建物が多く、老朽化と同時に安全基準の上からも建て替えが求められています。
ところが、国や地方の自治体は慢性的な財源不足が続いており、国公立病院の改築費用を捻出するのは容易ではありません。私立病院は人口増加で経営が安定していた高度成長期には銀行の融資も受けることができましたが、少子高齢化が進んで患者が減少し、経営基盤がぜい弱化して銀行融資の審査も厳しくなっています。そこで注目を集めているのが病院など医療関連不動産の証券化、リート化です。
登場したヘルスケアリート
2014年11月、医療関連施設で得る収益を分配して投資家に還元するわが国初のヘルスケアリートが登場しました。現在、上場しているヘルスケアリートは3社。組み入れられている医療関連不動産は有料老人ホーム、介護付有料老人ホームなどのサービス付き高齢者向け住宅、いわゆる「サ高住」です。ヘルスケアリートは、一般のリートの不動産賃貸収入に当たる部分は、患者や施設利用者が払う医療費や介護施設利用料から得ることになります。いずれも国から出る診療、介護報酬が原資となります。
医療・介護施設の供給は、高齢化社会が進展するにつれ大きな課題になっていますが、国の資金ではその需要に追いつくことができません。国土交通省は2014年に「高齢者向け住宅等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン」、2015年に「病院不動産を対象とするリートに係るガイドライン」をまとめました。ヘルスケアリートでは介護などの専門知識を持った人、病院リートでは病院関係者と多方面での調整ができる専門職を関与させることをリート運営会社に求めています。
「サ高住」などの介護施設や病院は、一般の不動産と違い、医師や看護師など専門家による医療面でのサポートが不可欠です。また、施設の管理運営においても医療機器設備の導入や維持など、単なる不動産管理にとどまりません。それだけに、リートの運営会社においても、医療の専門知識を持っている人材の登用がガイドラインに盛り込まれました。
医療モールは有望な証券化案件
介護施設や病院などの医療関連施設における証券化は、リートという形式を取らなくても、複合的な医療関連施設の集合体である「医療モール」のような規模の大きい物件ならば、単体でも証券化は可能と思われます。
医療モールは、同じ建物やエリアに、複数の診療施設や調剤薬局などが集まり、それぞれが専門性を活かして質の高い医療サービスを提供する狙いで作られた施設です。1つのビルに複数のクリニックや薬局が入居しているものや、一定の敷地のなかに戸建ての診療施設が複数存在しているビレッジ型、ショッピングモールの一角にクリニックなどが集積している複合商業施設型などのタイプがあります。こうした物件ならば、高い収益性が期待できるので、あえてリート形式を取らなくても、単体で証券化が可能でしょう。
介護・医療不動産証券化のメリットとデメリット
介護・医療関連不動産の証券化は、どんな長所・短所があるでしょうか。 介護・医療関連施設は診療、介護報酬を原資とするため、また施設の性格上、景気動向や不動産市場の影響を受けにくいため、長期安定的な配当が期待できます。加えて介護施設や病院の経営者は、資金繰りなどの経営面はSPCやリート運営会社に任せ医療に専念できることから、専門性が高まります。またそのことで施設の評価にもつながり、SPCやリート運営会社は銀行からの融資が受けやすくなるでしょう。
反面、診療報酬は過去の例を見ても分かる通り、診療報酬制度がたびたび改正されており、制度改正リスクが存在します。取りはぐれはないものの、制度改正によって期待通りの収益が確保されない事態もないとは言い切れません。また、介護施設や病院の経営に失敗し破たんするケースもあります。
オフィスビルや一般の住宅を対象にしたリートまたは証券化ならば、立地や建物の状態に応じて賃料水準の相場は決まりますが、ヘルスケア施設の利用料は事業運営者(オペレータと呼ばれます)の技量やサービス水準によって大きく左右されるといわれます。不動産自体の価値だけでなく、ヘルスケア施設でどのようなサービスを提供するのかが投資価値に影響します。
その点、上場しているヘルスケアリートならば、オペレータがどんな技量を持ち、どんなサービスを提供しているのといった情報開示がされているので、投資リスクは低いといえるでしょう。病院リートならば情報開示で病院運営の透明性が高まり、医療サービスレベルが向上するなど、病院利用者にとってのメリットも出てきます。
介護施設や病院の証券化は、投資する人だけでなく、利用する人に対してもメリットを提供する可能性を持っています。不動産証券化は、高齢化社会において重要な役割を果たすと言えるでしょう。