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コラム No.29-8

CREコラム

不動産証券化のトレンドを追う第8回 民泊新法と不動産証券化

公開日:2017/07/28

訪日外国人の増加とともに国内での宿泊事情が変化しています。民泊新法がこのほど成立し、来春の法施行に合わせて民泊事業の環境整備にメドがつきました。民泊ブームに連動して、伝統的な古民家を再生し、投資用の宿泊施設に模様替えして証券化商品にする動きも出ています。民泊ニーズが新たな不動産証券化を生んでいる、とも言えそうです。

民泊新法が成立、シェアリングエコノミーが進展

6月上旬に「住宅宿泊事業法」、いわゆる民泊新法が成立しました。同法は、2020年に開催する東京五輪など、増加する訪日外国人旅行者の宿泊ニーズに対応するもので、民泊サービスの健全な普及を図るための事業化ルールを定めたものです。

民泊は、個人が保有する遊休資産を有効活用して低料金でモノやサービスを受けるシェアリングエコノミーの代表選手で、ライドシェア(自動車の相乗り)などとともに新しい生活スタイルを創造する経済活動です。民泊が普及すれば、外国人旅行客の宿泊ニーズを満たすだけでなく、地方自治体が頭を悩ます空き家対策の解決策のひとつになる可能性があります。

民泊は、住宅の空き部屋やマンションの一室を利用して旅行者を有料で宿泊させることですが、我が国で民泊を事業として始めるには、旅館業法の宿所免許を取って営業認可を受けるか、2016年に国が国家戦略特区で定めた「特区民泊」で自治体の民泊条例を活用するかのいずれかの方法しか選択肢はありませんでした。しかし、民泊新法は、旅館業法の適用対象外の施設として認められ、所定の届け出をすれば年間180日以内の営業日数を条件に民泊業を始めることができるようになります。

ただし、新法はできましたが、民泊施設がある地域の自治体の条例を遵守することが必要です。180日という営業日の上限が、地域にある既存の宿泊施設を保護する狙いから、自治体によっては引き下げられることもあるかもしれません。ちなみに、年間営業日数の180日という数字の根拠は、「社会通念上、半年を超えると一般民家とみなせなくなる」として設定されたといわれています。民泊は国の法律と自治体の条例という、ダブルスタンダードで展開されていくことになり、民泊の営業基準は地域によって異なることも予想されます。

また、民泊を現場で管理する事業主だけでなく、代行業者である住宅宿泊管理業者、住宅宿泊仲介業者も国土交通省などへの登録が義務づけられます。一部の無許可民泊施設および利用者と地域住民の間でトラブルが起きていましたが、今回の法整備で、民泊事業におけるこうした不適切な環境が改善・整備されることが期待されています。

楽天など新規参入組も増える

民泊新法は早ければ来年1月にも施行予定ですが、これに合わせて、新規参入が相次いでいます。楽天は6月下旬、住宅・不動産ポータルサイトの「LIFUL」と合弁で、民泊事業に関する新会社「楽天LIFUL STAY」を設立、国内における民泊事業に参入しました。
約9000万人の会員を誇る楽天と、約800万件の不動産・住宅情報を有するLIFULが組んで、民泊市場でシェアリングエコノミー・サービスの展開を図っていくものです。

京王電鉄は、民泊で最も早い取り組みを行っている東京都大田区に民泊向けマンションを2月にオープン。鉄道会社として初の参入を果たしました。また、みずほ銀行は民泊を仲介する世界最大手の「Airbnb(エアビーアンドビー)」と業務提携する方針を固めた、との報道も出ています。

ある民間の調査では、民泊の国内市場規模は2015年時点で130億円でしたが、2017年には830億円、そして東京五輪が開催される2020年には2000億円規模にまで急成長すると予想されています。

「京町家」証券化の動き

民泊の拡大に合わせ、証券化の動きも出てきました。外国人旅行客の利用が増加して安定的な宿泊収入が見込めるとの判断から、伝統的な宿泊施設を証券化して小口投資を展開するのです。京都の伝統的な家屋である京町家などを購入して改装し、運営を行うためのファンドを組成して一般投資家に販売します。

国は2020年の東京五輪開催の年に4000万人の訪日外国人観光客を取り込む目標を掲げており、全国各地の観光地ではこうしたインバウンド需要が高まっています。なかでも、外国人に最も人気のあるスポットの一つである京都は、京町家と呼ばれる古民家が多く点在していますが、その保存と運営に経費がかかることもあって、必ずしも宿泊施設などとしては活用されていませんでした。

実は、京町家の証券化事業は以前、行われていました。京町家は、1950年以前に建てられた木造家屋のこと。老朽化や改築の資金難から取り壊されることが多く、所有者の力だけでは町家の保存は難しい状況から、証券化の手法が考案されました。

資金を調達して町家を保全・再生させ商業店舗として賃貸し、その賃料収入を配当にする仕組みでした。 市民から1口10万円の出資を募り、地元金融機関などからも融資を受けて2004年に証券化がスタートしました。 2010年に京町家の証券化事業はひとまず終了しましたが、訪日外国人の増加と民泊新法の成立など、屈指の観光地・京都のインバウンド収益を当て込んだ証券化案件として、再び脚光を浴びているのです。

京町家の不動産証券化事業が民泊をテコに軌道に乗れば、伝統的な家屋の保存・再生に頭を悩ます他の観光地でも同様の動きが広まることも予想されます。

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