不動産DX入門(8)働き方改革
公開日:2022/11/30
一般的なビジネスパーソンが休みのときに書き入れ時なのが不動産業界。土日祝日が勝負の世界で仕事の進め方を根本から変えるのは、大変なエネルギーが必要になります。デジタルの力でどの程度変革していくことができるのでしょうか。
業界の伝統的な商習慣に切り込む
戸建やマンションなどの住宅販売や賃貸物件を扱う会社は休日や祝日に出社するのが基本で、不動産業界の伝統的な商習慣でもありました。
仕事を休んで物件を見学する顧客は少なく、休日を利用する人が大半。業者のほうが休むわけにはいきません。しかし、若い世代のライフスタイルが変化していく中で土日に休みを取れないとなれば、採用にあたって不利になり、将来的な人材不足は避けられません。他の産業並みに休日が取れるようにすれば、人材確保はよりスムーズになります。
デジタルの力でテレワークが実現できれば、働き手はより多様化した働き方を選択できるようになり、育児や介護との両立や通勤時間、居住地がネックになって働けなかった階層を取り込むことにもつながるでしょう。通勤時間を削減することができれば、仕事以外の時間を増やすことができます。こうした改革を機に、それまであまり顧みる機会のなかった従業員のワークライフバランス(仕事とそれ以外の過ごし方の割合)に対して改善する格好の契機にもなるでしょう。
不動産業界は高額物件を扱う業種であり、その特性から成約に至るまでの時間的負担が大きい仕事のひとつです。ストレスが残らず柔軟な発想を生むような、より良い職場環境を構築するためのデジタルによる働き方改革は業績向上にもつながるはずです。働き方改革は、将来にわたる人材の確保と従業員の満足度向上につながり、業績アップにも寄与するでしょう。
顧客のニーズの変化に対応するには
DXを導入する狙いは数多くありますが、そのひとつに顧客ニーズの変化に対応することが挙げられます。不動産の場合、わが国では木造一戸建ての住居から公団住宅やマンション、そして高層マンション、さらにはコロナ禍で都心部から比較的遠い郊外物件にも人気が出ています。
街の不動産屋さんに顔を出す人が減り、住宅物件はインターネットで見て回り、これはと思ったところにメールを出したりしてVR内見を希望する人が増えるなど、サイト上で完結する時代に入ってきています。こうした消費者のニーズの変化に対応するには、自らも変わらなければ、経営は立ち行きません。特に中小の不動産会社はデジタルで武装していかないと時代の波に乗り遅れて埋没してしまいます。
第一歩はテレワーク、国や自治体の助成金も
不動産業界の中でも、大手企業ではデジタル技術を利活用した「働き方改革」を展開しているところが増えています。しかし、業界の大多数を占める中小の不動産業者では、デジタル化は着手しはじめたばかり。国が推進する契約書類の電子化や不動産物件のデータベース化というDXの入口に立った状況で、大企業を除いては不動産業界のテレワークはまだまだ進んでいないように見えます。
働き方改革の第一歩は、テレワークの環境整備です。
まず全従業員が自宅で業務を遂行できるようにスマートフォンやPCを購入し、各種のクラウドサービスなど安全なネットワークセキュリティを構築する必要があるでしょう。情報共有のためにWeb会議システムやチャットツールを構築する一方、勤怠管理システムを導入してテレワーク環境を整えます。
テレワーク構築にはそれ相応のコストがかかりますが、国や自治体の助成金を活用できます。
厚生労働省および総務省の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」は、テレワーク用ハードウェアの購入費用を支援しています。この助成金はテレワークの専門家からアドバイスを受けた場合のコンサルティング費用も対象になっており、従業員がテレワーク研修を受けた場合の外部研修費用も助成対象になっています。助成の上限は1企業あたり100万円で、従業員1人当たりの上限助成額は20万円。いずれか低いほうが助成総額の上限となります。
また厚労省・総務省では、テレワーク導入に際しての無料コンサルティング(3回)を実施しています。企業のテレワーク導入に従事した経験者や専門家がテレワーク導入時の人事・労務管理(就業規則の策定・改訂など)や導入時のシステム機器に関して指導します。コロナ禍で自宅勤務者が多い東京都には「テレワーク促進助成金」制度があります。30人~999人規模の企業は上限250万円、2人~30人の企業は150万円です。
テレワークシステムの構築は近年、AWS(アマゾン・ウエブ・サービス)などのクラウドサービスが主流になっています。クラウドサービスの導入費用は少し複雑で、従量課金制をベースにサービス内容によって異なります。AWSには200以上のサービスがあるといわれ、導入時のプランは慎重に検討すべきでしょう。