不動産DX入門(7)マーケティング【2】
公開日:2022/10/31
不動産DXはデジタルの力で経営を革新し収益に結び付けることにあります。そのためには現状を分析して洗い出された課題を改善し受注に繋げる手法とツールが不可欠になります。前回に引き続いてマーケティングを取り上げます。
代表的なマーケティング「STP分析」とは?
「マーケティング」という用語は、単に「市場分析」の意味で使われていた時代もありましたが、現代では「商品やサービスが売れる仕組みを作ること」と解釈され、全ての産業で必要不可欠な戦略志向になっています。したがって不動産DXを推進するうえでマーケティングは避けて通れないテーマです。
マーケティングの世界には多くの手法が存在していますが、代表的なツールのひとつに「STP分析」があります。Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)という英単語の頭文字を取って名付けられています。市場の全体像を把握したうえで細かく分け(S)、その中から自社が狙う市場を選択し(T)、競合他社との違いを明確にして自社の立ち位置を決めます(P)。こうした作業によって顧客のニーズを整理し、自社のサービスを明確にして他社と差異化するポイントをつかんで販売推進戦略の土台を作ります。
不動産DXを推進するうえでのマーケティング、つまりデジタルマーケティングを実施していくにあたって、「STP分析」による基本戦略があいまいだと、効果的なデジタルマーケティングツールを選択することはできない可能性が高いでしょう。
セグメンテーションは顧客をいくつかの視点で分離してグループ分けし、対応するニーズを設定する作業です。不動産業ならば、例えば顧客が「単身世帯」なら「ワンルーム中心の賃貸マンション」、「子育て世帯」であれば「ファミリータイプの賃貸住宅、郊外の新築分譲マンション、中古一戸建て」など、世帯・家族構成に対する住宅ニーズがあります。また、人口動態による変数だけでなく、「都市部で利便性の良い暮らしをしたい―賃貸・中古マンション」「郊外で子育てを中心にした暮らしがしたい―郊外戸建て分譲住宅、中古一戸建て」「自然に囲まれて暮らしたい―地方の中古一戸建て」などの地理的、心理的な変数によるグループ分けなどがあります。
ターゲティングでは、どのセグメントにアプローチするのかを決めます。例えば2LDKで比較的狭い賃貸マンションの入居者募集ならば、30歳代や40歳代で子どもが2~3人いるような世帯よりも、子ども1人の若い家族や高齢者夫婦など入居可能性の高い顧客層に絞り込むなど、優先順位を付けます。
ポジショニングは、自社の強みをわかりやすく見せてユーザーからの支持をより多く得ることです。自社の強みを知る、あるいは定めるツールとして「ポジショニングマップ」があります。異なる2つの評価軸を設定して自社の立ち位置を確認するものです。例えば不動産の賃貸仲介ならば、「扱い物件数」や「物件価格」などを軸に作成し、自社の立ち位置を再確認します。分かっているようでいて把握できていないのが自社のセールスポイント。ポジショニングマップはPC上で無料のツールがありますので、利用して見るのも手でしょう。
KPIを正しく設定する
WebサイトやSNS、メールマガジンなどを活用するデジタルマーケティングでは、目標達成のための指標を正しく設定することが必要です。なぜなら、仕組みを構築したあと、往々にして自己満足に陥りがちだからです。そこでKPI(Key Performance Indicator=重要業績指標)の設定を行います。
例えばWeb広告の場合、問い合わせや資料請求、メルマガ登録などの成果があった割合(コンバージョン率)や、SNS広告ではアクセス数などの数値に関して、「3カ月後にメルマガ登録数を15%アップさせる」「SNSのアクセス数を前月比5%増やす」などとなるかもしれません。マーケティングをDX上の戦略の一環と捉えて目標を立てて実践し、その過程で変更の必要があれば柔軟に対応することが求められます。
ただし、必ずしもアクセス数の最大化だけが目的ではありません。いかに契約につなげていくかのプロセスを重視しながら、KPIを設定していくことが大切です。最初から適切なKPIを設定することは簡単なことではありません。試行錯誤を行いながら、より適切なKPIの設定をすべきでしょう。
また、デジタル広告の効果分析は専門用語が多く、とても専門的な領域です。コスト的には比較的安価で普及している分析ツールなどでも、明示された分析結果を理解し、施策に展開するのは決して容易ではありません。したがって、Webに精通した人材が社内にいなければ育成したり、専門人材の導入(中途採用)、あるいは外部の専門会社との業務提携、業務委託も視野に入れておくべきでしょう。
デジタルマーケティングのツールもさまざまです。ツールの特性を見極めながら、自社の「STP」に合ったものを選択することが必要です。