CREコラム
急拡大するESG投資(5)7つの手法【3】サステナビリティテーマ投資型など
公開日:2021/01/29
今回ご紹介するESG投資の手法は、7つの手法のうち残りの3種類です。グリーンボンドが注目を浴びている「サステナビリティテーマ投資型」、投資によって社会に影響を与えることを重視する「インパクト投資型」、“モノ言う株主”が主導する「エンゲージメント・議決権行使型」の3つです。
ESGに対する積極スタンスの投資手法
前回までにご紹介した4つの手法は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対して比較的消極的な
取り組みスタンスを取っています。ネガティブスクリーニング型はESGに背反する事業者の排除に重点を置いており、ポジティブスクリーニング型は積極的なESG評価を目指しますが、対象企業が少ないデメリットがあります。国際規範型は外部の評価に準拠したもので主体的にESGに関わる姿勢は必ずしも大きくありません。統合型は財務情報との両にらみを主眼にしています。今回ご紹介する3つの手法は、ESGに対するスタンスが積極的、実践的といえるでしょう。
サステナビリティテーマ投資型は、再生可能エネルギーや持続可能な農業を展開しているプロジェクトや企業に対して投資を実行します。なかでも、グリーンボンドといわれる一連の環境改善事業向けの債券が近年注目を集めています。
ESGのうち、S(社会)は人権や正義、平等など極めて人間的な概念の領域であり、難しい対応を迫られます。G(ガバナンス)は主に企業の経営全般に対する改善・改革を要請するもので、社会的な支持が広がりにくい側面があります。
しかしE(地球環境)に対する支援は世界中で関心が高まっており、SやGに比べてより広範な社会的支持が得られやすいメリットがあります。
ESG投資の中ではまだ残高は少ないのですが、伸び率は年々上昇しています。それをけん引しているのがグリーンボンドです。
(図1)
グリーンボンド原則と4つの要素
国際資本市場協会(International Capital Market Association=ICMA 本部・スイス)
が2014年に「グリーンボンド原則」を策定したのを契機に、起債が拡大しています。社会貢献の側面が強いESGとはいえ投資の一環ですから、何らかのリターンを追求するのは当然です。わが国でも各地で行われている大規模再開発事業「スマートシティ戦略」プロジェクトでグリーンボンドが大手企業などによって発行されるケースが増えています。
ICMAが定めるグリーンボンド原則は4つの要素からできています。債券を発行する企業は、(1)どのような環境保護及び改善対策に資金を投資するのか(2)プロジェクトを評価・選定した判断に誤りはないか(3)調達した資金は環境対策に適切に運用されているか(4)調達した資金の使途に関して最新情報を提供できているか――を投資家に示す必要があります。そして
ICMAはグリ―ンボンドの発行企業に対して4つの要素をクリアしているかどうか、外部の機関による検査を受け、その結果を報告することを求めています。
(図2)
コロナ禍で投資拡大の動きも
インパクト投資型は、社会的課題に対してその改善や解消を目的に取り組む企業へ投資し、その結果どの程度の影響度合い(インパクト)があったかを測定する手法です。同時に財務的な成果(運用収益)も求めるので、統合型のESG投資と類似しているといえるでしょう。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけにESG投資は加速しているといわれています。世界中でコロナ禍に苦しむ人々が増加する現状と、外出自粛による日常生活の中で内省的な感情を抱く傾向が高
まっているのが背景にあるのではないでしょうか。
教育における投資も生まれています。世界第二の人口を抱えるIT先進国のインドは英語による高等教育を行っていますが、英語能力を身に付けるためには私立学校に通う必要があります。
つまり、経済的に余裕のある家庭の子どもだけが英語教育を実践している私立学校に通学して教育的な恩恵を受けており、貧富の格差が教育の格差を生んでいるといわれています。
そこで私立学校を設立するための融資を行うベンチャーキャピタルが登場し、機関投資家から資金を調達して「貧困による教育格差の是正」という社会的な課題に取り組みながら、投資家に一定の収益を還元している例があります。インパクト投資はESGの国際団体であるGSIAの2018年調査でも7つの手法のうちで最も残高規模は小さいですが、コロナを契機に社会課題の解決につながる企業への投資意欲は高まっていくと思われます。
課題と向き合い長期的解決に期待
エンゲージメント・議決権行使型は、GSIAの2018年調査では「ネガティブスクリーニング型」
「ESG統合型」に次いで第3位の投資残高があり、ESG投資をリードする手法のひとつとなっています。この手法は、G(ガバナンス)に対する改善提案、異議申し立てという投資行動に由来します。当該企業の株式を保有する株主が議決権を使ってその企業の経営全般に対して意見を述べ、株主利益に沿った経営を求めるものです。そこにE(環境)とS(社会)の2つのカテゴリーが加わったものと見ることができます。つまり、新しい投資概念であるESG投資の中に新たに組み込まれた既成の投資の類型と見ることができるのではないでしょうか。
こうした行動に向かう投資家(株主)は“モノ言う株主”などと呼ばれて市場の注目を集めます。
該当企業及び経営陣への直接取材などを行って建設的な提言を表明し、企業サイドに適切な対応を求めます。「エンゲージメント」は相互の関係を密にする、絆を深めるといった意味があり、該当企業に対する株主の立場を維持するのが原則です。
しかし一方で、株主であることを放棄し、ESGの観点から見て問題があると判断すれば投資資金を引き上げる「ダイベストメント」の動きも拡大しています。ただし、この動きは課題を放置するだけとの批判があり、新たな投資家が出てくれば問題が先送りになるとの指摘もあります。そこで、投資家が自らの権利を行使して積極的に関与していくこと(エンゲージメント)のほうが、長期的に見れば良好な投資効果を生むのではないかとの意見もあります。