CREコラム
急拡大するESG投資(12)ESG投資を巡る諸課題
公開日:2021/08/31
ESG投資が普及・発展するには、投資対象である企業がESGに積極的に関与し、その取り 組みや成果によって企業の価値や評価が決まる状況を生み出すことが重要です。産業界では近年、ESGあるいはSDGsを取り込んだ経営を展開するようになってきましたが、まだまだ充分とはいえません。ESG投資を巡る諸課題について考えます。
コロナ禍で叫ばれる「グリーンリカバリー」
新型コロナウイルス感染症の感染が拡大したことで生産活動が停滞し、世界経済が低迷しています。こうした状況のもと、景気浮揚の手段として地球温暖化など気候変動への対応を軸にした経済活動を展開し、雇用拡大や業績向上を実現させる景気刺激策「グリーンリカバリー」が各国で注目されています。
フランスでは2021 年4月、列車ならば2時間半以内で行ける距離の国内航空路線を廃止することを決めました。コロナ禍で経営難に陥った航空大手「エールフランス-KLM」が国内路線の4割削減を条件に巨額融資を受けたことが背景にあるといわれています。マクロン政権には抽選で選ばれた150人の市民で構成する気候変動市民評議会があり、温室効果ガス削減のために、4時間以内の列車移動が可能な国内航空路線を廃止することが提案されていました。こうした環境改善の動きも国内線廃止を後押ししました。
航空路線における乗客1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量は列車の数十倍にもなり、列車のほうが料金も安く所要時間もあまり差がないことなどから、欧州各国では航空便から列車への転換が急速に進んでいます。10万人超の従業員を抱える欧州最大クラスの航空会社を財政支援して雇用を維持する一方、地球環境改善にも寄与することになります。
カナダ政府は2020 年5月、コロナ禍で経営不振になった年間売上高3 億カナダドル( 約234 億円)以上の国内企業に対し、救済資金を提供する条件のひとつとして気候変動関連の財務情報を開示する報告書を毎年発行することを求めました。同国政府は国内の企業などに対して、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする目
標の達成に貢献することを求めています。イギリスやアメリカでも水素や脱炭素に関する巨額の投資を実施することで雇用の維持拡大、景気浮揚を狙う政策が展開されており、グリーンリカバリーはいまや世界的な経済活動の一大潮流になりつつあります。
「グリーンウォッシュ」(見せかけESG)に注意
新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の「災害」に対し、環境改善を旗印にしながら経済の活性化を図る一方で、偽善的な環境対策が存在すると警鐘を鳴らす動きがあります。「グリーンウォッシュ」または「グリーンウォッシング」と呼ばれています。近年はSDGsやESGに対する関心の高まりを受けて、消費者に対する広告宣伝活動の中にこうした要素を組み込むことが一種のトレンドになってきています。
グリーンウォッシング(Green Washing)とは、うわべを取り繕うことを意味する「ホワイトウォッシング
(White Washing)に環境やエコロジーを意味するグリーンを掛け合わせた造語。うわべだけのSDGs、見せかけのESGというわけです。一見すると環境保護に熱心に見えて、実態が伴っていない企業広告や企業活動があるとの指摘です。
たとえば、環境や社会などESG要素に関して企業の社会的責任を明示したCSR報告書に、自然をイメージさせる写真を過度に掲載したり、企業のロゴや商品のラベル、パッケージに緑を配色して環境に優しいなどとアピールしたりすることなどが挙げられています。
世界的なハンバーガーチェーン企業の一部地域で2009 年、ロゴの色を黄色と赤から黄色と緑に変更したことがありました。ある米国自動車大手会社は低燃費を強調したモデルを販売しましたが、燃費は従来モデルと変わりませんでした。
また「オーガニックタバコ」などと称して販売していたたばこ会社がありましたが、たばこ自体健康に害があると、矛盾を指摘されました。
グリーンウォッシュが問題なのは、環境に良いとされながら、実際はその効用がないことにあります。環境に対する関心は日々高まっています。
省エネの家電商品は売れ行き好調です。健康に良いとうたう食品も売り上げを伸ばしています。しかし実態が伴わないとすれば、「環境」を利用して消費者の関心を悪用しているのではないか、との疑念が生まれてきても不思議ではありません。
グリーンウォッシュは、長い目で見れば企業にとって大きなマイナス評価につながり、取り返しのつかない事態を引き起こしかねません。虚偽の広告宣伝を行い、それを長期にわたって秘匿されていたとなれば、企業評価は急落し、経営危機にも陥りかねません。
急がれるESG投資の環境整備
ESG投資の普及拡大には、投資対象である企業がESGに対して適切な行動を展開すること
が不可欠で、そうした活動を実施する企業が増えることがESG投資を発展させる原動力になります。グリーンリカバリーは、そのような企業に対して向けられる国家的な政策の一環です。
一方、うわべだけのSDGsやESGであるグリーンウォッシュを排除して適切に取り組めば、健全なESG投資の市場が育成されていくでしょう。
ESGやSDGsはコロナ禍という異常な状況の中でブームの様相を呈していますが、ESG 投資の普及拡大には、実態を伴った取り組みと、的確な評価を行う監視機能など市場の環境整備が求められるのではないでしょうか。