コラム vol.068
地代賃料その他の金銭を巡るトラブル
執筆:弁護士 吉山晋市
公開日:2015/03/12
建物オーナーとしては、適正な地代・家賃を滞りなく払ってもらえることが土地活用、建物活用の上で最も重要な関心事となってくると思います。
では、以下のような事例について考えてみましょう。
事例 1-1
土地所有者であるAさんが土地活用のため所有している土地を貸すことにしました。しかし、権利金、敷金、保証金という言葉の違いがよくわかりません。
解説
まず、「権利金」の法的性質は、必ずしも明確ではありませんが、借地権設定の対価として支払われることが多く、いわゆる「礼金」と同じ意味でつかわれることが多いものです。「敷金」は、不動産の賃貸借契約の締結時に、賃借人の未払賃料などの債務を担保するために、賃借人から賃貸人に交付される金員のことです。「保証金」は、上記の敷金と同様の意味を持つことが多いのですが、契約内容により「償却」して返還しないこともあり、この場合には権利金と同様の意味を持つことになります。
事例 1-2
借主であるBさんが、地代が払えないから敷金から充当してほしいと言われました。Aさんは応じなければならないのでしょうか。
解説
借主から滞納地代を敷金から差し引くことを求めることはできるのでしょうか。この点、借主は、敷金を差し入れているからといって、地代の支払いを拒むことはできません。敷金は、借主が地代を滞納した場合の、賃貸人のための担保にすぎないからです。
事例 1-3
また、賃貸借契約を更新する際に、AさんはBさんに更新料を請求できるのでしょうか。
解説
「更新料」については、消費者契約法10条に違反するため請求できないのではないか、という問題があります。この点について、最高裁判決平成23年7月15日の判例があります。この判例では、「更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払いに関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』にはあたらないと解するのが相当である。」と判示しました。
もっとも、賃貸借契約期間、賃料の額に比して更新料の額が高額ですと、消費者契約法10条に違反する可能性があることには注意が必要です。
事例 2-1
長引く不況の影響で業績が悪化している借主Bさんから地代の減額を求められました。土地賃貸借契約には、賃貸借契約期間中、賃料を減額しない旨の特約が付帯している場合、土地所有者Aさんはこの特約を主張して地代の減額に応じないことはできるでしょうか。反対に、景気の好転により、公租公課の変動や物価指数に応じて地代を自動改定する旨の特約が付帯している場合に、土地所有者Aさんはこの特約を主張して地代の増額を求めることはできるでしょうか。
解説
地代を減額しない旨の特約があっても、地主は借主の減額請求を阻止できません。借地借家法11条1項は土地の価格の上昇もしくは低下その他の経済的事情の変動により、地代が不相当になったときは地代の増減を請求できると定めており、この規定は当事者の約定で排除できない強行規定と解されているからです(最高裁判決平成16年6月29日)。
反対に、自動改定特約については、「契約更新時に従前地代より5パーセント増額する」といった常に増額改定を強いるものは借主に一方的に不利益な特約として無効にあることがありますが、路線価や消費者物価指数の変動にスライドする特約については一概に無効とはいえず、地主は地代の増額を請求することができます。
事例 2-2
地代の額について争いになった場合、相当な地代を算出する方法はあるでしょうか。
解説
地代については、(1)利回り法、(2)賃貸事例比較法、(3)公租公課倍率法、(4)スライド法、(5)差額配分法といった算出方法があります。地代(家賃)の増減額については、当事者の話し合いによって決めるのが原則ですが、協議が調わないときは、弁護士会の仲裁制度、簡易裁判所での賃料増減調停、調停が不調に終わったときは賃料減額(増額)訴訟によって解決することになります。
なお、裁判実務や鑑定実務では、事案に応じて上記(1)~(5)の算出方法のうち複数の方法で算出された額から総合的に判断して算出します。