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Vol.3 とんがり屋根の石の家(南イタリア)

Vol.3 とんがり屋根の石の家(南イタリア)

イタリア・プーリア州の気候・トゥルッリの歴史

ブーツの形にたとえられるイタリア半島。プーリアはブーツの「かかと」にあたるサレント半島にあり、東はアドリア海、南はターラント湾に面した州です。この地方は、暖かく乾燥した典型的な地中海気候です。夏は日ざしが強く、日中の気温は高めで雨はほとんど降りません。一方、冬は温暖で雨が降ります。

山が少なく平野に恵まれたプーリア州は、古くから農業のさかんな地域です。地中海地方でよく栽培されているオリーブの生産量は、イタリア国内で第1位をほこります。また、ブドウやオレンジなどのかんきつ類も栽培されています。

プーリア州にあるアルベロベッロという街は、とんがり屋根の円い石の家・トゥルッリで知られています。トゥルッリの歴史はたいへん古く、紀元前8世紀にはすでにつくられていたと考えられています。古いものを壊しては新しい家を建てる、ということをくり返し行っていたことから、現在、16世紀以前の古いトゥルッリは見つかっていません。アルベロベッロにはトゥルッリが数多く残っていて、その美しい景観から1996年にユネスコの世界遺産として登録されました。

とんがり屋根の円い家・トゥルッリの特徴

とんがった円すい型ドームの屋根とまっ白な外壁が印象的なトゥルッリは、おもに石灰岩でできている家です。トゥルッリのある地域は、地下に石灰岩層が広がっており、石灰岩はいろいろな厚さに切り出して、建築材として使うことができます。この石灰岩を約60cm×40cm×30cmに切り出した切石を積み重ねて、トゥルッリの基本的な構造はつくられます。石と石の間をつなぎ合わせるようなモルタルは使いません。とんがり屋根のてっぺんまできれいに積み重ねて作っているため、家の内部から屋根部分を見上げると、石灰の切石がぐるりと円い輪のように連続している様子が見えます。とんがり屋根の外側は、何層にも重ねられたうすい板状の石灰岩でおおいます。何層も重ねるのは、家の内部に雨水がしみ込むのを防ぐため。そして、内部の切石と外の仕上げ石灰岩の間には、細かい石がつめられています。そのため壁が厚くなり、0.8~2mほどにもなります。

厚い壁にさえぎられていても明るい部屋

トゥルッリの厚い壁には外側も内側も白い石灰がぬられています。この白くて厚い壁は、紫外線を防いだり外気をしめ出したりして家を保温する役割をもっています。一方、厚い壁は外からの光を取り込みにくく、部屋は暗くなりがち。さらに暑さを避けるため、入り口や窓は小さく、少ないつくりになっています。それにもかかわらず、家の中に入ると明るく清潔な印象を受けます。これは、まっ白な壁が、暗くなりがちな部屋を明るく広く感じさせてくれるのです。

いろいろな役割を持つトゥルッリ

トゥルッリに似た建物は、地中海沿岸のいくつかの地域に見られます。このことからも、トゥルッリはこの地域独自のものではなく、他の地域の影響を受けて、今のような住居形式になったと考えられています。ギリシアの古代文明がさかえたクレタ島から伝わったとする説が有力で、「トゥルッリ」の語源は、ギリシア語で「ドームの形を持つ円形の建物」を表す「トロス」であるとされています。

古いトゥルッリの多くは、円い形をしていて部屋も1つか2つほど。これらのトゥルッリは畑の中に建てられていて、農家の小屋としての役割を持っていました。また、アルベロベッロの周囲では、いくつかのトゥルッリを合わせて、1つの建物にしたものが見られます。これらはブドウの収穫期だけに使う季節用の家や、定住型の民家として使われています。部屋が4、5室以上ある本格的なトゥルッリの民家は、外壁は円い形ではなく、直線的で規則的な形をしています。しかし、外壁の形がそれぞれ違っても、とんがり屋根と石の白い壁は共通しています。

POINT

  • その土地にたくさんある石灰岩だけで家ができるなんて、家の“地産地消(ちさんちしょう)”だね。
  • 厚い石の壁と、入り口や窓を小さくすることで夏涼しく過ごしているんだね。
  • 白い壁は日差しをはじき返すんだね。それに部屋の壁に白い石灰岩をぬることで、部屋が明るくなるんだね!

参考文献:丹羽哲矢「トゥルッリ,円い石の家―アルベロベッロ、イタリア」布野修司編『世界住居誌』昭和堂、2005年、220-221頁

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