Vol.4 風の塔の家(イラン中部)
イラン・中央部の気候と特徴
西アジアにあるイラン。その国土の東半分には、人がほとんど住んでいない砂漠地帯が広がっています。西半分はいくつかの山脈が連なる山の多い地域。人口のほとんどがその地域に集中しています。国土の大部分は年間の降水量が少ない砂漠気候、ステップ気候に属しています。
イランの中央部に位置するヤズドは、中国と地中海を結ぶシルクロードの交易で古くから栄えてきた都市です。周囲にはキャヴィール砂漠とルート砂漠があり、非常に乾燥しています。夏は日中40℃近くまで気温が上がる一方、冬は-20℃を記録するなど、夏と冬の気温の差が大きいのが特徴です。
雨は冬から春にかけて降りますが、年間の降水量はわずか20~100mmしかありません。生活に必要な水を確保するため、南西にあるザグロス山脈からカナートという地下水路をつくって水をひいています。ヤズドの街は、このカナートに沿って建物がつくられ、発展した都市です。
ヤズドの住民の多くがイスラム教徒です。イスラムの戒律(かいりつ・守るべき規則のこと)は女性が家族以外の男性に髪の毛や体のシルエットを見せることを禁じています。そのため、女性が外出したり来客に会うときには、チャドルと呼ばれる、ゆったりとした黒い衣服を身につけています。
風の塔の家の特徴
イラン中部・カーシャン地方の家
ヤズドの住宅地を歩くと、家と家の間に、土色の高い壁に囲まれた細い道路が通っています。道に立って上を見上げると、両側の壁をつなぐように所々、土のアーチがかかっています。これは両側の土の壁同士を支える役目をしています。土色の壁には木の扉がついていて、それが家の玄関口になります。
玄関を入ると、「ダルガー」と呼ばれる来客に応対するための空間があります。そのダルガーの先は、「ハシティ」という八角形の小さな部屋。1つの共有玄関の先に親類や兄弟の家族が住む別々の家がある構造の家も多く、このハシティからそれぞれの家やいろいろな部屋へ行き来できるようになっています。
ハシティから続く廊下は「ダラン」といい、それを抜けると、中庭があります。家は中庭を中心につくられていて、中庭の周りをぐるりと取り囲むように、いくつかの部屋が設けられています。中庭に面した各部屋の窓は一定の大きさでつくられているため、整然とした規則正しいリズムの印象を与えます。また、窓の数でその部屋の大きさもわかります。部屋は中庭よりも約1m高い場所になっていて、中庭に対して左右対称に配置されています。床にはカーペットがしかれ、床に座って生活しています。食事や家族との団らん、寝るのもすべて同じ部屋を使いますが、「女性専用の部屋」と「男性専用の部屋」というようにはっきりと区別されています。
風の塔の間取り(一例)
夏と冬で部屋を住み分ける
中庭には、ザクロやイチジクなどの樹木がたくさん植えられ、緑の多い空間になっています。夏の厳しい日差しを、樹木がさえぎり、木陰が家の中の暑さをふせいでくれます。また、涼しさを運んできてくれる池も設けられています。
中庭の南側は「タラール」と呼ばれる半屋外の部屋があります。直射日光が当たらず、暑さをしのげるため、夏に過ごす部屋や、お祭りの行事を行う場としても使われます。一方、中庭の北側の部屋はおもに冬用の部屋。このように季節によって部屋を住み分けることで、1年間の気候変化の中で快適に暮らす工夫をしています。
上空の涼しい風を家の中に取りこむ「風の塔」
中庭の南側にある夏の部屋「タラール」の上には、「バードギール」と呼ばれる煙突のような高い塔が建てられています。これは上空の涼しい風を家の中に取り込むための「風の塔」。バードギールから取り込まれた風はタラール、そして中庭を通って各部屋へと吹き抜けます。バードギールは、自然の風をうまく家の中に取り込む天然の空調設備なのです。ヤズドの街を見渡すと、日ぼしレンガの建築物が建ち並ぶ中に、いくつものバードギールを見つけることができます。暑く、乾燥した厳しい気候に建つ風の塔の家は、自然の力を上手に利用した究極のエコハウスといえるでしょう。
POINT
- クーラーを使わなくても、風をうまく家の中に取り込んで家中が涼しくなるのね。
- 夏と冬とで使う部屋が違うなんておもしろいな。
- 中庭にある樹木や池も、涼しさに役立っているんだね。
参考文献:森田一弥「風の塔の家 ― ヤズド、イラン」布野修司編『世界住居誌』昭和堂、2005年、186-187頁