ニューノーマル時代の不動産投資・土地活用 心構えとリスク管理
公開日:2022/02/28
POINT!
勝ち組投資家になるための5つの心構え
《心構え1》目的の明確化
《心構え2》不動産投資の特性を知る
《心構え3》費用対効果の検証(収支分析)
《心構え4》ハウスメーカーや工務店の信用度を確認する
《心構え5》入居者の自殺や殺人事件の発生「事故物件」への対応
「家賃は掛け捨て」「持ち家は資産」という通念を疑ってみる
不動産投資や土地活用に関心のある方なら、ロバート・キヨサキ氏の世界的ベストセラー『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)をご存じのことと思います。その当時、私も読みましたが、最も興味深かったのが発想の斬新さです。しばしば「家賃は掛け捨て」「持ち家は資産」といわれますが、同書では「持ち家は資産」というマイホーム信仰を独自の理論で否定していました。
「収益を生み出して初めて資産と呼べる」というのがロバート・キヨサキ氏の考え方だからです。「不労所得の源泉が資産」という論理展開です。
確かに、賃貸併用にでもしない限り、持ち家はお金を生み出しません。当然、マイホームにイ
ンカムゲインは期待できません。悲しいことに、わが国では住宅は築20年も過ぎると、建物の価値はゼロ同然に評価されます。同氏が「持ち家は資産」という日本型の発想を否定する理由が、ここにありました。
確かに、賃貸併用にでもしない限り、持ち家はお金を生み出しません。当然、マイホームにイ
ンカムゲインは期待できません。悲しいことに、わが国では住宅は築20年も過ぎると、建物の価値はゼロ同然に評価されます。同氏が「持ち家は資産」という日本型の発想を否定する理由が、ここにありました。
読者の皆さまは、どうお感じでしょうか。次のような意見はよく耳にします。
「所有権(持ち家)は賃借権(借家暮らし)と異なり、使用(住む)・収益(貸す)・処分(売る)の各権利が法的に認められている。そのため、当然ながら子どもに譲り渡す(生前贈与)ことができるし、相続財産として相続人に承継することもできる。立派な資産ではないか」という主張です。確かに、ごもっともです。その主張は決して間違ってはいません。わが国では所有権に絶対的な支配権が具備されています。
ところが、隣国の中国では事情が異なります。同国では所有権といいながら「所有期間は最長70年(居住用の場合)」という土地使用権が所有権と同義語として使われています。もし、70年超の使用を望んだ場合、更新料を支払わなければなりません。中国のすべての土地は国家所有または農民の集団所有に属するからです。事実上、共産党が一国支配する社会主義国の考え方が根底にあります。
同様に、貴族中心社会のイギリスも観念的に土地の所有者は王侯貴族とされています。土地使用者には「無期の保有権」(フリーホールド)と「有期の賃借権」(リースホールド)が認められており、前者のフリーホールドが日本の所有権に最も近い権利となります。このように、中国とイギリスでは日本でなじみが薄い「所有と使用の分離」という概念が広く浸透しています。ところ変われば考え方も大きく変わるわけです。
やや話がそれましたが、ここで申し上げたいのは社会通念をうのみにせず、疑う習慣の必要性を提起したいのです。何を持って「資産」と呼ぶかは、各人によって異なります。ご自身の直感や過去の経験則だけで判断せず、一度、立ち止まって考えてみてほしいのです。
人間は必ずしも合理的ではありません。感情に左右された行動を取りやすい生き物です。こうした事象は行動経済学でも明らかにされており、その人の性格や癖といった心理的な部分が、しばしば投資判断を惑わせます。社会はグローバル化し、情報過多となった現代において、これまでの社会通念が現在も万人に有効かどうかは疑ってみる必要があるのです。
そこで今一度、初心に立ち返り、自問自答してみてください。
「土地活用の一環として所有地に賃貸住宅を新築するのが今でも本当に最善の策なのか?」すでに30年家賃保証は信用できなくなっています。住宅市場は供給過多にあり、マーケットの需給環境は借り手市場に傾いています。もはや建てたら黙っていても居室が埋まっていく時代ではありません。
それだけに、これから不動産投資や土地活用をお考えの方には覚悟が求められます。失敗しても、すべて自己責任です。そうならないためには「そもそも目的は何なのか」「無茶な返済計画を立てようとしていないか」「地域特性に合った事業展開になっているか」など、明確な動機と綿密な投資戦略が欠かせません。
加えて、広い視野と柔軟な発想、そして景気や住宅市場の浮沈に動じない心構えが合理的な意思決定を促します。読者の皆さまが金持ち父さん(勝ち組投資家)になれるよう、以下に述べる不動産投資や土地活用の心構えを再確認し、成功への第一歩を踏み出してください。
勝ち組投資家になるための5つの心構え
それでは、ここから不動産投資や土地活用との向き合い方、具体的な心構えについて見ていきましょう。
《心構えその1》目的の明確化
読者の皆さまは「アドラー心理学」をご存じでしょうか。アドラー心理学とは、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー氏が提唱した「人間の行動にはすべて目的がある」とする考え方(目的論)です。どのような目的のために、その行動をしているのか、自分に問いかけることの大切さを説いています。目指すべき目的に焦点を当てて物事を考える必要性を訴えています。
さて、皆さまは、なぜ土地活用を検討しているのでしょうか。相続対策でしょうか、資産形成でしょうか、それとも事業承継でしょうか。いずれにせよ動機や目的が明確になっていないと、実現のためのロードマップが描けません。たとえば相続対策なら、二次相続も視野に入れた話し合いが不可欠です。すべて自分一人で判断せず、必ず家族全員で目的を確認・共有しましょう。目的の明確化がすべての出発点となります。
《心構えその2》不動産投資の特性を知る
投資全般に言えることですが、投資を始めるには「収益性」「安全性」「流動性(換金性)」の3つの物差し(評価軸)を比較する必要があります。不動産投資は株式投資や暗号資産(ビットコインなどの仮想通貨)の取引に比べて相対的に安全性は高いものの、流動性には劣る特性があります。定期預金や国債よりは高い収益性が期待できますが、現物不動産に投資しようとすると大金が必要になります。ミドルリスク・ミドルリターンと言われるように、中長期的なスパンで主にインカムゲインを狙った投資が不動産投資の基本です。
その実施には不動産取引の知識はもとより、建築や金融、法律や税金の知識も求められます。担当営業のセールストークに踊らされ、気軽に始められる投資ではありません。自ら知識の習得に励むとともに、専門家の力も借りながら「安全性」と「収益性」の“両立”を目指すのが理想の投資スタイルとなります。
《心構えその3》費用対効果の検証(収支分析)
理想の投資を実現させるにはどうすればいいのか?上述した安全性と収益性の両立という、一見、矛盾する難解な連立方程式を解くには、収支分析に裏付けられた綿密な投資戦略の策定が欠かせません。
賃貸経営の難点として、空室の発生や賃料の下落により収益が減るリスクからは逃れられません。経年劣化による外壁の傷みや住宅設備の故障など、建物の機能保全に対する修繕コストの発生も見込んでおく必要があります。しかも、すべて経営者である投資家本人が自らの判断と負担で対応しなければなりません。賃貸管理会社は、アドバイスはしてくれるでしょうが、過度な期待は禁物です。想定されるリスクを前もって洗い出し、収支計画に織り込んでおく必要があるのです。
また、不動産投資の価値尺度として「利回り」がよく使われますが、「表面利回り」ではなく「実質利回り」で計算するようにしましょう。不動産投資は収益構造が複雑なため、収支分析では一定の空室を損失として処理(計上)し、さらに建物の原状回復費用や税金を差し引き、住宅ローンを組んでいる場合は返済額も控除した純利益をもとに収支を分析する必要があります。毎月、口座に家賃が入金されるともうかっているような錯覚に陥りがちですが、「額面」ではなく「手取り」ベースで物件収益力を判定するようにしましょう。
《心構えその4》ハウスメーカーや工務店の信用度を確認する
視点を変えて、今度はハウスメーカーや工務店に対する信用度の重要性です。
今から13年前の2009年3月、埼玉県の注文住宅販売会社が自己破産しました。2002年に創業した同社はテレビCMの効果によって急速に契約数を伸ばし、2007年には約65億円の売り上げを計上するほどでした。しかし、広告宣伝費と行き過ぎた営業拠点の拡大が裏目に出てしまい、次第に資金繰りが悪化。リーマンショックによる住宅不況が追い打ちをかけ、破産を余儀なくされました。
同社は破綻状態であることを認識しながら、契約者から前払いで工事代金を詐取していました。ある施主は「工事代金を5%割り引く代わりに、前金を多めに支払ってほしい」と話を持ち掛けられ、総工費2000万円から5%の値引きで請負契約を締結。そして、工事費の7割を前払い金として支払った途端、同社は破産しました。
工事は未着工のまま泣き寝入りという最悪の結末です。計画倒産を疑われても仕方ないでしょう。
注文住宅は投資・実需を問わず、その契約形態が「請負契約」となるため、「売買契約」を対象とした宅建業法のような業者規制がかかりません。宅建業法では宅建業者が自ら売り主となる場合、売買代金の2割を超える額の手付けの受領を禁止しています。ところが、請負契約には同種の規制はありません。第三者機関が前払い金を保全する仕組みもないのです。つまり、施主は工事業者を信用するしかないわけです。ここでご紹介したのは、こうした制度上の盲点を突いた行為でした。
同じ悲劇を繰り返さないよう、今では損失補てんや代替工事業者の紹介など、「住宅完成保証制度」という支援体制が整備されています。
建物が完成する前に工事業者が破綻した場合、工事は中断し、再開にも時間がかかります。また、新たな工事業者を見つけたとしても、倒産した業者から支払った前払い金を取り戻すのは容易ではありません。そこで、こうした万が一に備え、建物の完成をサポートしてくれるのが住宅完成保証制度です。
今後、請負契約にて建物工事を依頼する際は、その業者が信用できるかどうか、ぜひ気に掛けてください。企業規模や知名度ばかりに目を向けず、建築実績や口コミ、さらにアフターサービスの充実度なども参考にしながら、良きパートナーを見つけましょう。
《心構えその5》入居者の自殺や殺人事件の発生「事故物件」への対応
最後は「事故物件」への備えについてです。
もし、ご自身が所有する賃貸アパートで入居者が自殺したら、その後、オーナーとしてどう対処したらいいでしょうか。警察庁の自殺者数統計(速報値)に基づく厚生労働省の発表によると、昨年(令和3年)1年間の自殺者数は2万830人でした。3万人を超えていた一時期と比べると減少はしているものの、さらに減り続けるかどうかは分かりません。突然の訃報に残された遺族の心痛は察するに余りあります。
実は不動産実務において、賃貸住宅などの室内で借家人が自殺や病死、あるいは殺人事件(他殺)が発生した場合、その後の取引時における「事故物件」としての告知の要否が問われ続けてきました。無論、事件・事故の存在が売買や賃貸借契約に悪影響を及ぼすことは容易に想像できるのですが、実際、こうした嫌悪事案が不動産取引にどのような影響を与えるか?その評価を一律に判断するのは困難でした。宅建業者の裁量に任さざるを得なかったのです。
そこで、毎年2万人超の自殺者数が続くなか、過去に居住者らが死亡した事故物件において、宅建業者が取るべき対応を取りまとめたガイドラインが作成・公表されました(「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」)。
各業者が一般的な基準として当該ガイドラインを参照・適正に対応することで、今後、心理的瑕かし疵を起因とするトラブルを少しでも減らそうという狙いです。
引用:令和3年10月 国土交通省より
ここで知っておいてほしいのは、賃貸借契約に限って嫌悪事案の発生からおおむね3年間を過ぎた場合、その事実を告げる必要はなくなります。オーナーへの過度な負担により、例えば単身高齢者の入居を敬遠するといった弊害の発生を抑止したい考えです。
繰り返しになりますが、所有する賃貸住宅などで自殺や他殺、事故死(火災による焼死など)が発生した場合、その後、オーナーとしてどう対処したらいいのか。突然の事態に慌てなくて済むよう、リスク管理に努めてください。
健全経営のためには明確な動機と綿密な投資戦略、そして景気や住宅市場の浮沈に動じない心構えが必要です。知識武装は有効なリスクヘッジとして機能します。本コラムを参考に、勝ち組投資家の仲間入りを目指してください。