貸家着工戸数の回復が鮮明に!移動年計で住宅着工戸数を分析
公開日:2021/05/31
POINT!
・新設住宅着工戸数を移動年計で見ると、月々の変動、季節変動に左右されない傾向がつかめる
・全国、東京都、大阪府すべての移動年計で、2021年から上昇傾向にあり回復の兆しがうかがえる
2020年度の新設住宅着工戸数
2021年3月の住宅着工戸数が同年4月末に公表されました。これにより、新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く出た2020年度(2020年4月~2021年3月)のデータが出そろったことになります。
2020年度の新設住宅着工戸数(総計)は約81.2万戸となり、昨年度から-8.1%となりました。そのうち貸家(主に賃貸用住宅)は約30.3万戸で、昨年から-9.4%となっています。
図1:新設住宅着工戸数 年度合計の推移(全国:総計)
国土交通省 建築着工統計調査報告より作成
図1は2012年度以降、年度単位での新設住宅着工戸数(総計)の全国合計推移です。直近では2期(2年度)連続で前年度割れとなっています。
図2:新設住宅着工戸数 年度合計の推移(全国:貸家)
国土交通省 建築着工統計調査報告より作成
図2は、図1から貸家の数字だけを抽出したものです。年度単位で、4期連続してマイナスであることがわかります。
しかし、2021年に入り、2月はほぼ前年並み、3月は+2.6%と、少しずつ回復のキザシが見え始めました。
そのキザシをはっきりさせるために、本連載ではあまり使ってこなかった分析手法を用いてみます。
移動年計とは
季節により変動がある統計数字には、単月の数字を見ても傾向がつかめないようなデータがあります。新設住宅着工戸数の推移もこうした例といえます。そのため、年合計(1月~12月)や年度合計(4月~3月)で傾向を分析するのが一般的です。しかし、それでは1年に1度しか集計できないため、1カ月ずつずらして年間合計を算出することで、月単位での変化が見やすくなります(毎月ごとの年間合計)。こうして求められたものを「移動年計」といいます。
また、前年の同じ月と比較する「前年同月比」を見ることもあります。しかし、2020年3月以降は新型コロナウイルス感染症の影響により、前年同月比の数字は極端に大きく上下することがあります。例えば、2020年の3月や4月は、初めて緊急事態宣言が発出され、さまざまな活動がストップしました。そのため、2021年3月や4月は、例年に比べてそれほど増えていなくても、前年同月比は「大幅増」となっている統計データもあります。
こうしたことによる見誤りを排除するために、ここでは「移動年計」を用いて、新設住宅着工戸数の変化を分析してみます。
貸家の移動年計の分析
ここからは、土地活用でポピュラーな貸家(賃貸住宅)の数値に絞って解説します。
賃貸住宅の着工戸数(全国合計)は、2018年半ばから前年同月比のマイナスが続いていました。しかし、2021年3月に31カ月ぶりのプラスとなりました。落ち込みが続いていたものが横ばいから回復基調になっていることが、図3からわかります。
図3:新設住宅着工戸数 移動年計(全国:貸家)
国土交通省 建築着工統計調査報告より作成
図3は、2020年4月以降の貸家新設住宅着工戸数(全国合計)の移動年計です。(2020年4月の数字は、2019年5月~2020年4月の合計値、以下同じ計算方式)このグラフを見ると、
ずっと落ち込んでいたものが、2021年年始から横ばいとなり、その後わずかに上昇していることがわかります。
これを東京都だけで見ると、図4のようになります。
図4:新設住宅着工戸数 移動年計(東京:貸家)
国土交通省 建築着工統計調査報告より作成
図4は、図3と同じ算出方法で、東京都の数字だけを抽出したものです。全国合計とグラフの動きが大きく異なることがわかります。新型コロナウイルス感染症の影響が大きく出た2020年4月~8月までの各月ごとの移動年計は、上昇が続きました。その後、2020年年末にかけて落ち込みますが、2021年に入ると急上昇しています。次に大阪府の貸家新設住宅着工戸数の状況は図5のようになります。
図5:新設住宅着工戸数 移動年計(大阪:貸家)
国土交通省 建築着工統計調査報告より作成
大阪府においては、多少波がありますが減少基調でした。しかし、2021年3月の年計では大きく上昇しています。
回復基調にあることは間違いなさそうですが、これが一時的な回復なのか、しばらく続くのかは、もう少し様子を見る必要があります。本格的な回復を期待したいものです。