賃貸住宅経営セミナー「秋葉原会場」対談 吉崎誠二(一般社団法人不動産総合研究所理事長)×田副史武(大和ハウス工業 城東支社 集合住宅事業部 事業部長)
公開日:2019/02/28
建物ありきではなく、お客様の資産承継をサポートしたい
セミナーイベントの機会に、大和ハウス工業 城東支社 集合住宅事業部 事業部長である田副史武と、一般社団法人 不動産総合研究所 理事長である吉崎誠二氏が、城東地域における大和ハウス工業がこれから担うべきこと、個人、企業含めて、これからの不動産活用について、語り合いました。その模様を抜粋してお届けします。
多彩なニーズを持つ城東地域
吉崎:東京都23区の東部区域である城東地域の9区といえば、23区全体のなかでもかなりのウエイトを占めている一方で、北区と足立区の2区など、将来的にかなり早い段階から人口が減少し始める地域として知られています。そうしたエリアにおいては、長期的な目線で住宅を建てていかないと厳しいような気がしますので、ある程度長期的に受け入れられるような集合住宅を建てる必要があると思います。そういったご提案はされていますか。
田副:今までのようにどこでも建てればいいというのではなく、例えば、エリアを絞り、区の中でも生活に便利なところ、機能が集約されているような場所に建てると、当然人も集まってきます。また、これから先、高齢化社会になってくると、今まで郊外に住まわれていた方々が、中心地に集約されてきます。人の住むところもそうですし、買い物に行くところ、医療施設も同様です。逆に、そうではないところは、ニーズに合うかたちの提案を行う、そのように、これからエリア分けをした上で、様々な提案をしていかないといけないと思っています。
吉崎:その通りだと思います。今、日本中でドーナツ化現象が進んできています。中心地に人が集まってきています。東京は別としても、全体で見れば将来的に人口は減っていくのですが、中心地だけ見れば人口密度が上がっていく。日本中でその傾向が起こっています。例えば、北海道では、北海道全体から札幌に集まってきています。
田副:私が今担当しているこの城東エリアは、いわゆる都心と呼ばれるところもあれば、郊外型のところもあるという実に多彩な条件を持つエリアです。 ですから、マーケットとしては非常に魅力もあり、そういう意味でいろいろなバリエーションの提案ができるのかなと思っています。
吉崎:将来の人口動態を見ると、北区と台東区は真逆にいくようです。城東エリアが担当していそうなエリアをプロットして、人口動態予測を分析したのですが、面白いと思いました。日本のいろいろなバリエーションがこの管轄エリアにある感じです。そういう意味で非常にやり甲斐のある地域かもしれません。
図:城東エリア将来人口予測(2015年=100)
国立社会保障・人口問題研究所 『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計)」より作成
様々な状況に対して提案できるのが大和ハウス工業の強み
田副:私たちも様々なデータを見ながら提案を行っています。人口が伸びている地域にはどのような提案をするか、逆に、人口が減少していく地域に対しても提案を持っているのが大和ハウス工業の強みです。
当然、賃貸住宅だけではありません。流通店舗の情報、企業様の情報を含めて、複合してやるような話がこれからの提案のポイントになります。
吉崎:そうだと思います。一例をあげれば、斜陽産業の施設を賃貸業に変えていく、不動産業に変えていくというのが最近増えています。都心にしても、郊外にしても、そういった企業の使わなくなった施設跡地などを再利用した提案ができるのも、大和ハウス工業の得意領域ではないかと思います。経済的にも景観的にも再生できるわけですから、社会貢献にもつながります。
吉崎:最近の特徴的な事例は何かありますか。
田副:保育園の事例などは特徴的だと思います。こちらでは、保育園を必要とされる方は非常に多く、いくつもの事例があります。また、保育園単体ではなく、保育園の上に賃貸住宅を入れて提案するケースも出てきています。当然社会への貢献になりますし、地域のニーズに対して現在の不動産を活用するという、枠組みの中では非常に面白い取り組みだと思います。
共働きのご夫婦であれば、1階に預けてから出勤できますし、そこに、例えばコンビニエンスストアなどが同じように出店できるとすれば、生活も非常に便利になります。現在、建て替えや空きテナントになったところをそういったものに変えましょうと提案しているところです。
吉崎:法人での事例はいかがですか。
田副:まだまだ少ないのですが、墨田区などの工場が多いエリアでの事例はかなりあります。もともと家族経営的な工場が多く、資産承継の問題を含めて、そこからの業種転換というかたちでのご提案は、私がこちらに来てからはけっこうやっています。他にも、土地を保有されている印刷会社さんからのお話もあります。工場を含めると土地を4カ所お持ちの会社様で、社屋の建て替えと遊休資産の売却のご相談をいただいています。
吉崎:複数ある不動産をいかに組み合わせるかという、まさにCREらしい話ですね。また、小売業では特にスーパーなどでも同様のお話がありそうですね。地場の中小小売業例えばスーパー等も不動産を借りてやる人は少ないので、これからそういった相談が増えてくるかもしれません。
田副:これからは、そのような法人に向けても提案を続けていきたいと思っています。何度もお話していますように、場所によっては大きくニーズが異なりますので、きめ細かく対応していきたいと思っています。
建物ありきではなく、資産承継のためのやり方のひとつとして提案
吉崎:大和ハウス工業ならではのご提案が期待できそうですが、不動産の活用、あるいは資産の継承という課題に対して、基本になるデータなど、どのようなお考えを持って提案されていますか。
田副:特に個人のお客様に様々なご提案をするときではありますが、PDBと呼んでいる、パーソナルデータベースを活用します。資産の健康診断みたいなもので、不動産資産とキャッシュフローです。現在の不動産収入、年金などに加えて、その方のご年齢、お子さまの人数、法定相続人の人数。さらに、後継者の方が何歳で、何人いるか、どこにバトンタッチしていくか。個人の不動産資産を数字で見る、というところから入ります。
賃貸住宅を建てるということは、つなぎのタイミングでの資産承継のひとつのツールだと思います。ですから、今建てる人は、どちらかというと自分への恩恵というよりは、後継者、さらにそのお孫さんくらいのときに、不動産があることによってよかった、プラスになったと喜んでもらえることを考えてやる人が多いと思います。
ですから、そういった資産の分析から入っていきます。築30年くらいの物件で、まだ10年くらいもつのに、そろそろ相続対策のために建て替えますかといったような、もったいない話ではなく、それこそキャッシュフローで10年くらい回してあげたり、逆に、残しながらまた新たなものをつくり、いずれ10年後に壊すときの準備をしたり、今、私個人ではそのような営業アプローチをしています。
吉崎:お客様の立場に立って、本来の目的を見失うことなく、ご提案されていますね。そういう意味では、個人にしろ、企業にしろ、何かを売られるという心配はせずに、最初の段階からご相談いただければ、ということですね。
田副:これは私の個人的な考えでもありますが、他社さんの動向や商品はあまり関係ありません。
うちの考え、オリジナルのデータからお話しさせていただいてやっているので、提案させていただいている商品は、大和ハウス工業だからこの商品だということではなく、あくまで、そのデータをもとに、お客様のニーズに対して提案したものです。その分析データにもとづいた結果、たまたまこういう商品ですという感覚です。建物を建てるのが目的なのではなく、資産を継承するのが目的です。そのやり方のひとつとしてやっています。
私がアピールしたいところはそこですね。大和ハウス工業だからオリジナルのこれでということでもありません。結果として提案した商品は、他社さんもやっているかもしれませんが、もともとの考え方の出発点が少し違うというところをアピールしたいですね。
ですから、どれだけ正確に情報をいただくことができるかによって、ご提案する内容が決まってくるようなところはあります。最初から、「土地があるので3階建てが良いです」という話ではないということです。そこはこだわってやっていきます。
吉崎:そういう提案ポリシーは、企業においても同様に貫いていかれるのでしょう。企業における不動産活用の場合は、財務、経営状態、そして不動産の視点という3つの視点で考える必要があります。個人よりもさらに、最初から商品ありきではないということがいえます。
田副:基本的には個人も企業も同じだと思います。その着眼点が個人だったところの延長に建築があるという話というだけですし、法人の方がもっといろいろと活用手段が広がります。場所的にももっと中心地に近いところになることが多いので、リスクも少なくなります。それこそ賃貸住宅だけにこだわらずに、テナントなどの施設に話がいくような内容であればそちらを提案すればいいですから。
吉崎:都心区域から郊外区域までカバーする城東区域は、CRE活用戦略を提案される、とてもいいエリアだと思いますし、多彩なバリエーションが提案可能だと思います。その分、簡単な提案ではないと思いますが、社会貢献を含めたこの区域の発展のためにも、様々な取り組みに期待しています。
田副:しっかりとお客様のニーズをつかみ、お応えしていきたいと思います。