生産緑地最新事情 ~都市部における生産緑地について~
公開日:2017/10/26
生産緑地については、2022年問題と言われて、昨年来色々と議論になっています。このことは、本連載でもコラムvol.190やvol.200、vol.202などで、取り上げました。
生産緑地は市街化区域にありながら、農地扱いとされて、一般の農地と同じように固定資産税や相続税が低い税額になります。
現在の生産緑地法が施行されたのは1992年です。生産緑地の指定を受けた土地は、税制面の優遇を受ける代わりに、30年間に農家として営む義務を負うことになりました。この30年の期限が終了するのが2022年ということになります。
このように生産緑地の多くは2022年に期間満了を迎えます(生産緑地全体の8割くらいと言われています)。期限切れの際、地主は利用を10年延長するか、市区町村に農地の買い取りを求めるか選べますが、もしも、農業を営むことを止める農家が増えれば、都市部などでは一気に宅地化(宅地転用)が進む可能性があります。
もしも、一斉に宅地が進めば、供給過剰になり住宅価格が急落するといった懸念もあります。とくに、この懸念は東京都内や首都圏、関西圏などで問題とされています。
東京都内ではどれくらいの生産緑地があるのでしょうか?
図1:東京都の生産緑地
都市計画区域 | 都市計画区域 | 都市計画区域 | 都市計画区域 | 都市計画区域 |
---|---|---|---|---|
東京都 | 計 | 27 | 3,296.4 | 11,556 |
東京 | 目黒区 | 1 | 2.6 | 17 |
大田区 | 2.3 | 16 | ||
世田谷区 | 95.4 | 531 | ||
中野区 | 2.4 | 11 | ||
杉並区 | 35.3 | 137 | ||
北区 | 0.3 | 3 | ||
板橋区 | 10.9 | 75 | ||
練馬区 | 189.4 | 668 | ||
足立区 | 33.4 | 217 | ||
葛飾区 | 28.0 | 204 | ||
江戸川区 | 63.9 | 273 | ||
八王子 | 八王子市 | 1 | 244.9 | 1,091 |
立川 | 立川市 | 1 | 210.2 | 384 |
東大和市 | 1 | 46.6 | 208 | |
武蔵村山市 | 1 | 98.8 | 346 | |
武蔵野 | 武蔵野市 | 1 | 27.8 | 84 |
三鷹 | 三鷹市 | 1 | 143.5 | 307 |
青梅 | 青梅市 | 1 | 137.3 | 727 |
府中 | 府中市 | 1 | 101.7 | 466 |
昭島 | 昭島市 | 1 | 49.1 | 221 |
調布 | 調布市 | 1 | 126.9 | 432 |
狛江市 | 1 | 33.2 | 140 | |
町田 | 町田市 | 1 | 236.9 | 1,088 |
小金井 | 小金井市 | 1 | 65.1 | 222 |
小平 | 小平市 | 1 | 174.4 | 380 |
日野 | 日野市 | 1 | 118.7 | 454 |
東村山 | 東村山市 | 1 | 136.2 | 339 |
清瀬市 | 1 | 177.3 | 265 | |
東久留米市 | 1 | 148.8 | 310 | |
国分寺 | 国分寺市 | 1 | 129.7 | 251 |
国立 | 国立市 | 1 | 46.7 | 147 |
福生 | 福生市 | 1 | 6.8 | 52 |
羽村市 | 1 | 32.8 | 176 | |
多摩 | 多摩市 | 1 | 28.5 | 146 |
稲城市 | 1 | 114.7 | 467 | |
秋多 |
あきる野市 | 1 | 71.1 | 400 |
西東京 | 西東京市 | 1 | 124.8 | 301 |
国土交通省「平成27年都市計画現況調査」より作成
図1は東京都下における生産緑地の面積と地区数を表したものです。(面積の単位はha)
東京23区においても練馬区や世田谷区はかなり広い面積となっています。
図2:世田谷区における農地と生産緑地の推移
※生産緑地平成10年データは、当年未掲載のため平成11年分を採用
世田谷区農業委員会 「平成28年農家基本調査集計表」より作成
図2は世田谷区における農地と生産緑地の推移です。これを見ると、世田谷区においては、近年、農地=生産緑地という状況になっていることが分かります。
図3:世田谷区における農家戸数の推移
世田谷区農業委員会 「平成28年農家基本調査集計表」より作成
一方、農家を営む方の戸数2000年頃までは右肩下がりで減少していましたが、近年は概ね横ばいという状況です。
近年の地価の上昇や後継ぎ問題などを考えると、「このあたりで農家を止めて、手放そうか」と思う農家の方も多いと予想されています。
こうした状況に対して、2017年に農林水産省と国土交通省は、都市部の農地「生産緑地」を維持するための対策に乗り出しました。例えば、自ら耕作しなくても、企業やNPOなどに貸し出しても地主の相続税を猶予する制度の導入を予定。
また、一般的に農地を借りる場合、農業委員会の承認が必要になりますが、生産緑地については、市区町村の承認を得られれば土地を借りられるようにするようで、貸し借りの仕組みを柔軟にして、企業やNPOが借りやすくなることで、農地(緑地)の保全を図ろうとしています。
このように、都市部では大きなインパクトのある生産緑地ですが、2022年まではまだしばらくあります。その間にどう制度改正されるのか、その動きに注目です。