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コラム No.82-1

CREコラム

不動産テック入門(1)誕生の背景を探る

公開日:2019/08/30

不動産とテクノロジーを掛け合わせた造語「不動産テック」が、いま注目を集めています。金融とITを融合した「フィンテック」の登場をはじめとして、さまざまな産業分野で先進の情報技術を使って新しい事業領域が生まれ、新規参入する企業が相次いでいます。
不動産テックが誕生した背景とその内容について考えます。

ITとの親和性に乏しい不動産業界

金融の新潮流であるフィンテックは、預金や融資、資金決済など公共性が高く厳しい規制の業界にITを駆使し低コストで新規参入する機会を生みました。いまのところ、メガバンクをはじめ既存の金融機関を脅かす存在には成長していませんが、金融ビジネスが行き詰まりを見せている現在、今後は新たな金融の担い手になる可能性を秘めています。
金融ビジネスは元来、ITと親和性がある産業です。送金や口座振替などの業務は為替ネットワークという通信網を介した資金の移動です。
お金に色はついていないので、どこからでも、金額に関係なくいくら送っても同じという特質があるからです。利用者が急増するにつれて大量の業務処理に耐えられるシステムの堅牢化と巨大化が進み、また利便性向上のため他の金融機関との共同オンラインなどのネットワーク化に対応するなどIT投資も巨額で、テクノロジーの進展に最も敏感な業界の一つです。
一方、不動産業界はITとの相性はあまり良くないといわれています。お金と違い、ひとつとして同じものはありません。土地や建物は基本的に持ち運ぶことができず、1か所にしか存在しないものです。不動産の現物はネットワークに乗る代物ではありません。このことは、不動産自体が、そもそも「低い流通性」という宿命を持っていることを示しています。不動産を購入したい人は、必ず現地に足を運んで物件を品定めします。IT投資も他の産業に比べて低く、街の不動産屋など規模の小さい業者がひしめいて、そこで働く人たちも概して年齢層が高い業界でもあります。

不動産業界でITの普及を妨げてきた要因の一つには、業務の複雑さも挙げられるかもしれません。不動産の用途は、オフィス・住宅・商業施設のほか、物流、介護施設など数えきれません。不動産に上物を建設するのか、既存の物件を管理するのか修繕するのかによっても違いが生まれます。顧客も個人と法人に分かれます。こうしたさまざまな要素を掛け合わせて、不動産の開発、管理・保守、建設、仲介、販売という数多くの業者が関わることにあります。またこれらを複数兼務する会社もあり、業務をシステム化するのは容易ではないでしょう。また、銀行のATM(現金自動預け払い機)のオンラインのように、個人も利用できる不動産のネットワーク情報がありません。不動産業者に限定した物件情報「レインズ(不動産流通標準システム)」はありますが、それぞれが物件を保有・管理するライバルであり、不動産情報は一般の利用者に必ずしも広く開示されているといえない状況です。そういう観点で見れば、逆にITを使った業務の革新で不動産業界に新風を吹き込む余地は残されている、との見方もできるでしょう。

市場活性化と生産性向上

わが国では、一生で最も高い買い物といわれる住宅の購入には新築を重視する傾向にあり、「新築信仰」は中古住宅市場の活性化を削ぎ、不動産市場の停滞を生んでいるとの指摘があります。また過疎化や少子高齢化、人口減少で空き家問題が深刻になっています。わが国の不動産事情は、来年の東京五輪に向けた建設ラッシュを除けば、総じて活気があるとは言い難いのです。国も対策に乗り出し、不動産売買や重要事項説明のインターネット解禁や不動産データの一元化などのインフラ整備に乗り出しました。
こうしてITの活用が不動産業界で受け入れられる土壌が作られると同時に、新たな業務領域が生まれていきます。それが不動産テックと一括りにして語られるようになってきた背景ではないでしょうか。

不動産業界に風穴を開ける可能性も

次の表は、不動産テック協会が公開している不動産テックのカテゴリー(事業領域)とその定義です。たとえば「AR・VR」は、拡張現実(Augmented Reality=AR)、仮想現実(Virtual Reality=VR)の略ですが、例えばマンションの間取りを体感できる映像を提供したり、自分の部屋に家具を置いたときの雰囲気を仮想体験できます。スマホなど閲覧することで不動産物件を現地で確認するのと同様の体験ができるので、顧客を現地に案内する手間が省けます。こうしたサービスは月額数万円の予算で委託できるので、中小の不動産業者でも導入できそうです。大型の家具やインテリアを扱う業者も、こうしたアプリを導入すれば、顧客獲得の大きな武器になるでしょう。

フィンテックがまだ発展途上にあるのと同様、不動産テックも誕生したばかりの事業領域です。低コストで参入しやすいということは産業の活性化に繋がりますが、参入障壁の低さは、モラルを欠いた競争に陥りがちで業界の混乱を生みかねません。いわゆる「テック企業」は、どの産業分野においてもスタートアップ企業が多く、技術が経営に優先する嫌いがあります。公正かつ健全な産業として発展することが望まれます。
ただ、わが国の不動産業界は、海外諸国に比べて利用者に対する情報開示が遅れているといわれています。売り手である不動産業者は多くの情報を保有していますが、それを購入・賃貸する消費者は不動産情報を多く持っていません。個人の住居であれ企業が賃貸するテナントであれ、取引する際の情報量の差が顕著で「情報の非対称性」があるとの指摘が昔からあります。不動産テックは、こうした不動産業界に風穴を開けるものと期待されています。

不動産テックのカテゴリーと定義

カテゴリー名 定義
AR・VR VR・AR機器を活用したサービス、VR・AR化するためのデータ加工に関連したサービス
IoT ネットワークに接続される何らかのデバイスで、不動産に設置、内蔵されるもの。また、その機器から得られたデータなどを分析するサービス
スペースシェアリング 短期~中長期で不動産や空きスペースをシェアするサービス、もしくはそのマッチングを行うサービス
リフォーム・リノベーション リフォーム・リノベーションの企画設計施工、Webプラットホーム上でリフォーム業者のマッチングを提供するサービス
不動産情報 物件情報を除く、不動産に関連するデータを提供・分析するサービス
仲介業務支援 不動産売買・賃貸の仲介業務の支援サービス、ツール
管理業務支援 不動産管理会社などの主にPM業務の効率化のための支援サービス、ツール
ローン・保証 不動産取得に関するローン、保証サービスを提供、仲介、比較するサービス
クラウドファンディング 個人を中心とした複数投資者から、webプラットホームで資金を集め、不動産へ投融資を行う、もしくは不動産事業を目的とした資金需要者と提供者をマッチングさせるサービス
価格可視化・査定 さまざまなデータなどを用いて、不動産価格、賃料の査定、その将来見通しなどを行うサービス、ツール
マッチング 物件所有者と利用者、労働力と業務などをマッチングさせるサービス(シェアリング、リフォームリノベーション関連は除くマッチング)
物件情報・メディア 物件情報を集約して掲載するサービスやプラットフォーム、もしくは不動産に関連するメディア全般

出典:不動産テック協会Webサイト「不動産カオスマップ」を基に作成

フィンテックがまだ発展途上にあるのと同様、不動産テックも誕生したばかりの事業領域です。低コストで参入しやすいということは産業の活性化に繋がりますが、参入障壁の低さは、モラルを欠いた競争に陥りがちで業界の混乱を生みかねません。いわゆる「テック企業」は、どの産業分野においてもスタートアップ企業が多く、技術が経営に優先する嫌いがあります。公正かつ健全な産業として発展することが望まれます。

ただ、わが国の不動産業界は、海外諸国に比べて利用者に対する情報開示が遅れているといわれています。売り手である不動産業者は多くの情報を保有していますが、それを購入・賃貸する消費者は不動産情報を多く持っていません。個人の住居であれ企業が賃貸するテナントであれ、取引する際の情報量の差が顕著で「情報の非対称性」があるとの指摘が昔からあります。不動産テックは、こうした不動産業界に風穴を開けるものと期待されています。

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