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コラム No.17-3

PREコラム

西川りゅうじんの「地方公共団体《PRE》有効活用戦略」
~《PRE》の利活用が地域間競争を決する!~
Vol.3 《PRE》を民間の力で活かし《地方創生》を推進しよう!
~「PFI」による全国初の地域優良賃貸住宅が満室御礼~

公開日:2016/05/26

人口1万人強の山あいの過疎の町に全国から視察が相次ぐ

丹沢湖で有名な、神奈川県の最西端に位置する人口1万1千人の山あいの町、山北町(湯川裕司町長)に、全国各地の自治体、不動産・住宅・建設業界の関係者が続々と視察に訪れている。
「PFI」(Private Finance Initiative)による、全国初の地域優良賃貸住宅「サンライズやまきた」が竣工し、全戸が満室でオープンしたため、見学者が後を絶たないのだ。

日本でも、1999年7月、「PFI法」(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)が制定され、各地で成果を挙げてきた。
さらに、2011年6月の改正によって対象となる施設が拡大され、従来の公営住宅のみならず、中堅所得者向けの賃貸住宅(地域優良賃貸住宅)にも適用されることとなった。

そこで山北町では、この法改正を活用し、町と地域のまちづくり協議会と民間事業者が手を携えて計画を進め、全国に先駆けて竣工に漕ぎ着けたのだ。

東京都でさえ人口が減少し始めている少子高齢化の時代を迎え、山北町もつるべ落としのように少子高齢化と過疎化が進んで来た。
しかも、山北駅は列車の本数が限られ、無人改札駅しかなく、駅周辺は交通アクセスが良いとは言えない。

その町で、いかに賃料が好条件とはいえ、入居条件が子育て世帯または同居者に18歳未満の者がいる世帯に限るという高いハードルがあったにもかかわらず、42戸もの部屋が初日から満室御礼で施設がオープンしたことに、同じように過疎化に苦しむ全国の地方公共団体から驚嘆の声が上がっているのだ。

歴代町長が果たせなかった悲願「駅前町有地の有効活用」を実現

2014年3月25日、満室御礼で「サンライズやまきた」の竣工式が行われた。ウィークデーの火曜日にもかかわらず、山北駅前の施設周辺は3千人を超える子どもとお母さんを中心とする人でごった返した。

朝から、近年、山北駅では見られなかった光景が展開された。JR御殿場線で満員の列車が到着するたびに、まるで昭和の高度成長期の幼稚園の入園式か小学校の入学式のように、母と子が次々とプラットホームに降り立ったのだ。

また、オープニングイベント当日だけ一般開放された山北町役場の駐車場には、神奈川県内はもちろんのこと、静岡県や山梨県、東京都からの車が詰めかけ、入場待ちの行列ができた。 そのお目当ては、「PFI」による全国初の地域優良賃貸住宅として竣工した「サンライズやまきた」の満室オープンを記念して催された「やまきた大自然フェスタ」だった。

このイベントは、山北町からこの施設に関する「PFI」の受託事業者に選定され、施設の設計・施工・入居募集を行なったSPC(特別目的会社)の「やまきた定住促進パートナーズ」からの依頼で、私が企画プロデュースのお手伝いをさせていただき開催した。

地域の豊かな大自然を活かして、子どもはもちろん、大人やカップルも楽しみながら自然に触れられるお祭りとするべく企画した。竹や木で作った昔懐かしい竹馬やコマで遊べるブースを設け、山北ならではの山や湖や川の食材を使った特産品を販売するテントも軒を連ねた。

会場では、丹沢のクスノキからチェーンソーで緻密に切り出した、かわいいクマを連れた「かながわキンタロウ」と「SL機関車」の「チェーンソー・フィギュア」のお披露目も行った。

また、ヘルシーでカロリーが低いイノシシやシカのジビエのお肉と地元の新鮮な野菜や果物をぜいたくに使った、新メニュー「山北ジビエ揚げギョウザ」と「山北ジビエパスタ」を先着300名に無料でプレゼントした。

竣工時から満室になったのには、昨今の“田舎暮らし“人気も追い風となったに違いない。「自然に触れることで本来の自分を取り戻したい」「大自然の中でわが子をのびのびと育てたい」といった思いを持つ若い夫婦が増えているのだ。

湯川町長はフェスタ当日の挨拶の中で、「旧・東海道本線の機関区があった駅前にある町有地の有効活用は、歴代の町長がさまざまな方法を探ってきたが果たせなかった、町の悲願でした。それが、本日ここに数多くのご家族をお迎えし、PFIによる日本初の地域優良賃貸住宅として竣工の日を迎えられたことは感慨無量です」と、この日に至るまでの万感の思いを込めて挨拶した。

「鉄道の町」の名残を留めるSLを半世紀ぶりに動かす?!

2016年3月18日もウィークデーの金曜日だったが、山北駅前には、大勢の子どもたちと鉄道好きの鉄ちゃんがあふれかえった。
「山北鉄道公園」に静態保存されていたSL(蒸気機関車)のD52を、何と半世紀ぶりに動かすことになり、その試運転と汽笛の試吹を行うこととなったのだ。

今や相当な鉄道ファンでなければ知らないことだが、山北町は、かつて、日本の大動脈だった東海道本線の交通の要衝として栄え、「鉄道の町」と呼ばれていた。
東海道本線は、1889年(明治22年)に新橋-神戸間の全線が開業してから、1934年(昭和9年)に丹那トンネル(静岡県)が開通するまで、山北駅がある現在の御殿場線を通っていたのだ。

山北駅で燃料の石炭を一杯に詰め込んだSLが縦列を組み、煙と蒸気を吐き出しながら、「何だ坂、こんな坂」と長い客車や貨車を牽引しつつ鉄路の山道を疾駆していた。

しかし、1968年(昭和43年)の御殿場線の電化に伴い引退を余儀なくされる。往時のにぎわいを唯一残すシンボルとして、D52は1970年(昭和45年)に現在地に移設された。そして、その翌年から鉄道公園保存会が中心となり、「山北鉄道公園」に静態で維持・管理されてきた。

国の交付金を獲得して「D52奇跡の復活事業」が出発進行

山北町では、子どもに夢を与え、町に元気を取り戻そうと、この長らく止まったままだったSLを動かす事業を企画した。
折しも、政府が2015年度補正予算に位置づけた、「一億総活躍社会の実現」に向けた緊急対応の地方創生加速化交付金として1,000億円が計上された。

山北町は、この機を逃さず、交付金を申請。内閣府地方創生推進室から、「定住トータルコーディネートシステム構築事業」(やまきた定住相談センター拡充事業)に500万円、「鉄道遺産を活用した元気なまちづくり事業」に2,355万円の交付金を獲得した。

そして、2015年12月、山北町地方創生プロジェクト「D52奇跡の復活事業」の補正予算案が町議会で可決。その後、準備を進め、ついに、試運転の日を迎えたのだった。
復活の整備を託された元・国鉄機関士の恒松孝仁さんが運転席につき、湯川町長が出発の合図を送った。50年の時を経て、汽笛に続いてD52がゆっくりと前進すると大きな歓声が沸き起こった。

民間の力をバネとし、鉄道と大自然の町に、新たな「地方創生」が出発進行の時を迎えたのだ。

《PRE》を民間の力で活かし、《地方創生》を推進しよう!

機関車と同じように、地域もじっと何もしないで止まっていると、錆び付いて朽ち果てて行くだけだ。
一方、「PFI」を活用して《PRE》を有効活用し始めた地方公共団体は、一たび動き出すと、ますますパワーアップ、スピードアップして行く。

《PRE》の利活用が地域間競争を決する時代が到来している。今こそ、《PRE》を民間の力で活かし、《地方創生》を推進しよう!

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土地活用ラボ for Biz アナリスト

西川 りゅうじん(にしかわ りゅうじん)

1960年兵庫県出身。一橋大学卒業。マーケティング戦略のエキスパートとして地域活性化に手腕を発揮している。「愛・地球博」の“モリゾーとキッコロ”や「平城遷都祭」の“せんとくん”の選定・広報、「福岡ドーム」のオープニング演出、「六本木ヒルズ」「日本橋三井本館」「京都駅ビル」の商業開発、「つくばエクスプレス」の沿線まちづくりなどに携わった。

総務省地域活性化センター「地域再生実践フォーラム」基調講師、市町村職員中央研修所「市町村アカデミー」特別講師、国土交通省道路工事改善マネジメント委員、経済産業省「地域の魅力セレクション」審査委員長、観光庁委員、全国信用金庫協会「商店街コンテスト」審査委員長、全国地域PFI協会理事長などを歴任。

現在、厚生労働省「健康寿命をのばそう」運動スーパーバイザー、神奈川県まちづくり委員会「マグカル・テーブル」座長、兵庫県参与、(公財)にいがた産業創造機構アドバイザー、日光市まちづくりアドバイザー、藤沢市駅前商店街活性化アドバイザーなどを務めている。

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