CREコラム
注目集めるWELL認証(1)WELL認証とは何か
公開日:2021/09/30
働く人々の健康や快適な居住性を重視してオフィス空間の環境性能を評価するWELL認証が注目を集めています。コロナ禍でリモートワークなど多様な働き方が登場しているとはいえ、社会人にとって生活の多くの時間を過ごす職場の環境改善は、若年層の労働力不足の解消にもつながると産業界で期待されています。今回からWELL認証について考えていきます。
2014年に米国で誕生した評価システム
WELL認証は2014年に米国のデロス・リビング社が考案した空間性能評価システムで、WELLは「元気」「爽快」の意味があります。近年は適度な運動を伴う健康的な日常生活の意味がある「ウェルネス(Wellness)」、心身ともに良好な状態を表す概念「ウェルビーイング(Well-Being)」といった言葉をよく耳にする時代。健康志向はますます高まっています。
オフィスなどの建築物の構造と環境性能が、従業員の心身の健康をサポートしたりウェルネスに好ましい影響を与えたりするならば、生産性は向上します。同時に従業員のオフィスに対する満足度が改善されれば働いてみたいと思う人は増え、人材確保の面でも有利に働き企業価値は高まります。また物件自体の評価も上がり、不動産価値も同時に上昇する可能性があります。
多様な評価項目と厳しい審査
わが国でWELL認証の運営を担っている「GREEN BUILDING JAPAN」(GBJ)によれば、WELL認証の評価項目は「コンセプト」とその下に「必須項目」さらに「加点項目」があり、10のコンセプトで最大100点、最後の「イノベーション」を加えて合計110点満点になります。24の必須項目を満たした上で、98の加点項目をどこまで獲得できるかによって認証取得の可否と認証レベルが決まります。
審査の結果認証に合格すれば、Platinum(必須項目+加点項目80点以上)、Gold(必須項目+加点項目60~79点)、Silver(必須項目+加点項目50~59点)Bronze(必須項目+加点項目40~49点)のランク付けで評価されます。
認証を取得するには、WELL認証の統括機関「国際ウェルビルディング協会」(IWBI=(International WELL Building Institute)に登録することから始まります。その後、IWBIの担当者からコーチングを受けます。コーチングを終えると認証のために必要な書類を作成しIWBIに提出します。その次に書類審査があり、約1カ月間かかるといわれています。不合格の場合には再度書類提出からやり直すことになります。
書類審査を通過すると、評価対象のオフィスとなる建築物をWELL認証の認証業務にあたっているNGO団体であるGBCI(Green Business Certifi cation Inc.)の職員が現地検証に入り、最終審査を行います。基準をクリアしていれば現地検証から約2カ月後に認証を取得します。認証の有効期限は3年ですから、認証を継続して取得するには再認証が必要。従業員の心身の健康をサポートするわけですから、一過性のオフィス環境性能の改善では認証取得の意味がありません。不断の環境改善努力が不可欠といえるでしょう。
図1:WELL認証の認証プロセス
GBJによれば、WELL認証の登録件数は68カ国・9,833件、そのうち425件・30カ国が認証を取得しています。わが国では2016年以降に登録件数が増加。61件が登録されており、そのうち12件が認証を取得、7件が予備認証を得ています(いずれも2021年9月22日現在)。当然のことながら、建築関連業種での認証企業が多く、大和ハウス工業(予備認証)を含む8社が認証、または予備認証を取得しています。すでに注目度は高いものがありますが、認証取得の機運はこれから上昇していく段階といえるのではないでしょうか。
高まる「社会的評価」の必要性
近年は企業経営に対する評価軸が大きく変容しています。企業活動の評価はこれまで、自社の株価や投資家の動向を意識して証券市場における業績評価にウエートが置かれていました。しかし企業の社会的存在が注目を集めるようになり、企業活動は必然的にESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)を強く意識せざるを得なくなっているといえるでしょう。
売上高や利益など業績の結果だけでは企業の真の評価に結びつかないとの考え方が広まり、社会的評価の色彩が強まっているのです。ESGやSDGsに対する企業の取り組みやその成果は、財務情報のように定量的評価を下すことは容易ではありません。そこでこうした社会的評価を共通の尺度で判定する仕組みが必要になりました。それが「評価」「認証」「表示制度」など、社会的評価の新機軸の登場になったのです。WELL認証はこうした社会的評価のひとつといえるでしょう。
売上高や利益など業績の結果だけでは企業の真の評価に結びつかないとの考え方が広まり、社会的評価の色彩が強まっているのです。ESGやSDGsに対する企業の取り組みやその成果は、財務情報のように定量的評価を下すことは容易ではありません。そこでこうした社会的評価を共通の尺度で判定する仕組みが必要になりました。それが「評価」「認証」「表示制度」など、社会的評価の新機軸の登場になったのです。WELL認証はこうした社会的評価のひとつといえるでしょう。
企業に社会的な存在意義を求める機運が生まれた背景には、現代社会における価値観の多様化があります。精神的、肉体的に多少の無理をしても仕事に没頭し、より良い賃金を得る働き方から、こうした自己犠牲をやめて健康や幸福感といった「自分らしさ」を求めるワークスタイルを選択する人が増えています。働き方の価値観が変わってきたことで、企業は環境保護や人権、企業統治などに配慮するだけでなく、より良いオフィス変革を意識して、より良い人材を確保していかなければ持続的な成長が見込めない状況に置かれているといえるでしょう。