技術研究トレンド
技術トピックス
既存建物の長期利活用、自然災害からの速やかな復旧などの観点から、近年、「インスペクション(建物診断・点検)」の重要性が増しています。
今回ご紹介する屋根点検システム「HACHIDORI®(ハチドリ)」は、インスペクション業務をAIや画像解析、ドローンなどのロボティクスといったテクノロジーで効率化します。その開発秘話や成果、今後の展開についてご紹介します。
近年、日本では空き家問題が深刻化しており、建物の長期的な利活用が求められています。そのためには、インスペクションを含む定期的なメンテナンスを丁寧に継続していくことが非常に重要です。大和ハウス工業は、これまで建物の定期的なメンテナンスに長年取り組み、知見と技術を蓄積してきました。
また、日本は世界の地震の18.5%が起こっているほどの地震大国であり(※)、その他の自然災害も年々激甚化・頻発化していると言われています。当社では、こうした災害が発生した際に、特定地域の家屋や建築物を集中的かつスピーディーに点検して速やかに被害を特定し、建物の復旧につなげる取り組みも行ってきました。
一方、ビルや集合住宅の高層化が進み、工場・流通店舗も大型化するなど、屋根・屋上の点検作業は工数が増え、難易度も上がっています。さらに、作業スタッフの高齢化や人手不足は深刻であり、各業務の省人化、省力化は喫緊の課題です。
加えて従来の屋根点検で使われる高所点検カメラ(ポールカメラ)は約10kgと重いため、取り回しや設置が難しく、屋根全体を撮影するためには何度も設置し直す必要がありました。敷地の状況によっては適切な位置にカメラを設置できず、必要な画像が十分に取得できないことも起こり得ます。
また、災害時には特定地域を集中的かつスピーディーに点検する必要がありますが、高所点検カメラでは多大な労力と時間がかかる上、被害状況によってはカメラポールの設置さえできないケースもありました。
こうした背景を踏まえ、大和ハウス工業はこれまで蓄積した知見と技術を活用し、建物の長期的な利活用の促進や、災害時の点検業務の効率化、建築業の現場課題の解決などを実現するために、ドローンによる屋根点検システム「HACHIDORI®」を開発しました。起案したのは、機械工学、ロボット制御工学、画像解析を専門とする3名の研究員です。
屋根点検システム「HACHIDORI®(ハチドリ)」
大和ハウス工業は、ドローンを使って誰でも簡単に屋根の点検が行えるアプリケーションを開発しました。その名は「HACHIDORI®」。ドローンと同じようにホバリングする姿が印象的なハチドリの名から命名されました。
ドローンによる屋根点検システム「HACHIDORI®」は独自の機能で操縦を補助し、さらに屋根点検に特化した画像解析機能によって高精度の点検作業を可能にします。
操縦はいたって簡単で、特殊なスキルや知識は必要ありません。事前に点検する屋根の位置情報と高さをアプリケーションに入力しておき、あとは現地の地上にドローンを置き、タブレットからアプリを立ち上げ数回タップするだけ。「HACHIDORI®」が高度・方角を含め、離陸から着陸までの全ルートを自動で生成して航行を制御し、屋根の全体画像から屋根に接近しての詳細画像まで必要な画像をすべて自動で撮影します。また、点検中にもっと詳しく見てみたい箇所があれば、ドローンの操縦をマニュアルに切り替えて任意の場所をクローズアップすることもできます。
撮影した画像と位置情報を紐づけて表示できることに加え、屋根全体の広範囲のデータを保管・整理し、経年による変化をいつでも見返すことができるのもメリットです。
屋根は経年とともに割れや欠け、変退色が発生し、場合によっては防水性能の低下につながるケースもあります。「HACHIDORI®」には、膨大な枚数の画像を学習させたAIによる精密な画像解析機能があり、ドローンが撮影した画像を読み込ませることで屋根の色の劣化状況や割れ・欠けを簡単に検知できます。これにより、誰でも高いレベルでの屋根点検が可能になります。また、今までのポールカメラでは確認できなかったような場所であっても、細かいところまでくまなくチェックできるようになるという点は革新的なメリットです。
画像解析によって得られた点検結果は、点検したその場でお客さまに視覚的に提示できるため、スムーズに補修の提案ができます。お客さまが直感的にわかりやすいよう、屋根の画像とともに劣化の程度を3段階のレベルに分けて表示しています。
色褪せ解析アプリのイメージ
開発ストーリー
ドローンによる屋根点検システム開発時の3つのポイント
建物の保守・点検を行う現場スタッフの意見を取り入れて開発
当社は「現場主義」をモットーの一つとし、開発に現場の意見を取り入れることを重要視しています。「HACHIDORI®」の開発においても、建物の保守・点検・管理を行う点検スタッフに直接ヒアリングを実施。点検スタッフの現場視点の要望に応え、屋根全体を横長かつ平行に撮影する、植栽が写り込まないようにする、シンプルな機能に絞り込むなど、画像の見やすさと操作性を考慮して「HACHIDORI®」の開発を行いました。
また、「誰でも屋根点検ができるようにしてほしい」という要望を受けて、ドローンの経験やスキルがなくても安全に操縦・点検できるようにアプリケーションを設計しました。
ドローンの選定プロセスでは、「現場に向かう車の中は機材でいっぱいなので、コンパクトなものがいい」という意見があったため、リュックサックにも入るような折り畳み式の機種を選びました。さらに、業務において安全にドローンを活用できるように、注意点などをまとめた運用規定を作成しました。
100棟以上の屋根をドローン点検し、膨⼤な画像をAIに学習させて精度向上
研究員も、現場に積極的に足を運びました。屋根の劣化や変退色を正しく判定するために、点検に同行するなどして100棟以上の屋根を撮影。膨大な枚数の画像データを収集し、開発に役立てました。
撮影した画像データは、本技術開発のために新たに独自開発されたAIに学習させ、解析しました。ディープラーニングを使って、より精度の高い劣化診断結果が得られるように磨き込みました。
画像解析機能の開発時に、当社が持つ知見を活用
数多くの建築物を手がけてきた当社には、屋根の色の劣化や割れ・欠けが発生しやすい箇所に関する知見が蓄積しています。これを画像解析に活用し、劣化が起きやすい箇所を効率よく点検できるように開発を行いました。
例えば、屋根全体を一望できるような構図で撮影し、方角の情報と合わせて劣化判断を行います。また、割れ・欠けがどのような形で発現するかという知見をもとに、ドローンの最適な飛行ルートを作成するように開発しています。
成果と今後の展開
屋根点検時間が1/3に!さらに、建築中や竣工直後の点検での活用を目指し開発中
ドローンによる屋根点検システム「HACHIDORI®」により、3階建ての集合住宅1棟の屋根点検時間は平均30分から10分と約1/3に短縮できました。点検時間の短縮により、修理見積もりや災害時の保険請求業務がスピーディーに進むため、お客さまの満足度向上につながります。実際に「HACHIDORI®」を使った点検作業スタッフからは、「とても簡単で驚いた」「今後も使いたい」との好評を得ています。
また、令和元年の台風15号被害(千葉県)では、集合住宅55棟の点検作業が「HACHIDORI®」を使うことでわずか10日間で完了。大型の事業施設における被害調査にも活用されました。今後の災害時にも「HACHIDORI®」を活用した点検作業を検討しています。
現在、屋根点検だけにとどまらず建設中の建物の検査や竣工検査、太陽光パネル検査にもドローンやAIを活用できるよう共同研究を進めている最中です。また、カメラ画像や3Dセンサーデータから自動で図面を作成する機能の開発についても検討を進めています。
大和ハウス工業では、AI、画像解析、ドローンなどのロボティクスといった先端技術を活用し、点検業務をはじめとするさまざまな業務を効率化、省力化するための研究を進めています。これからも、私たちは夢ある社会の実現に向けて、革新的な技術の社会実装に取り組んでいきます。
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