2019年10月1日に予定されている消費税率の8%から10%への引き上げでは、住宅購入の総支払額が意外と膨らむことがあることを見てきました。それでは結局、消費税の引き上げ前と引き上げ後で、住宅購入はどっちがお得なのでしょうか。政府による住宅購入支援策や経済の情勢などを十分に考慮する必要があります。
どうなる駆け込み需要
消費増税は住宅購入にどのくらい影響を及ぼしているのでしょうか。
過去の事例を見てみましょう。1997年に消費税率は3%から5%になりました。国土交通省の調査によると、その前年の96年の新設住宅着工戸数は164万戸、前年比11.8%増と高い伸びで、これは駆け込み需要があったとみられます。その後は消費税引き上げに加え、大手金融機関の破綻など経済の混乱もあり、97年は15.6%減の138万戸、98年は13.6%減の119万戸と大きく落ち込みました。
消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年の前年となる13年は、新設住宅着工戸数はやはり堅調で、11.0%増の98万戸でした。そして、14年は9.0%減の89万戸に落ち込みました。
特に、持ち家の場合は、1997年は25.6%減、2014年は19.6%減と、増税の年に大きな買い控えが起きています。消費税が上がる前に少しでも安く買おうとする人が多いようです。
国土交通省調べ
駆け込み需要は今回も起きるのでしょうか。
ハウスメーカーなどでつくる住宅生産団体連合会の今年4月時点の予測によると、18年度の新設住宅着工戸数は94万戸と、ほぼ前年度並みを見込んでいます。今回の増税は前回の引き上げから5年しかたっていません。税率の引き上げ幅も2%にとどまりますから、これまでのところ駆け込み需要は以前ほど起きていないようです。
政府の住宅購入支援策は
政府はどうしようとしているのでしょうか。
住宅の購入は金額が大きいので、景気の動向を左右します。これまで消費税率の引き上げでは、政府の想定以上に景気にダメージが出ました。このため、政府は今年6月にまとめた「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で、住宅の購入については自動車と並び、「需要変動を平準化するため、税制・予算による十分な対策を具体的に検討する」との方針を盛り込みました。
増税後の住宅市場が冷え込まないように、購入者への何らかの支援策を打ち出してくるはずです。
具体的にはどのような案が考えられますか。
政府は年末までに具体策を固める方針です。まず想定されるのが、既存の住宅購入支援策の拡充です。
住宅ローン減税は現在、一般的な住宅を購入したりリフォームしたりした場合、10年間は年末の住宅ローン残高の1%分、最大年40万円の所得税が減ります。超低金利が続く中、金利支払い分に匹敵する所得税を払わなくて済むというローンの利用者には重要な制度ですが、これまでも見直しが繰り返されてきました。今回も議論の対象になる可能性があります。
住宅ローン減税は所得税をたくさん払っていない人にはメリットが小さくなります。そこで、収入が少ない人が活用できるのが「すまい給付金」です。現在は収入額の目安で年510万円以下の方に最大30万円支給されますが、消費税率が10%になった時は775万円以下の方に最大50万円支給される予定です。親や祖父母から住宅購入のために資金援助を受けた場合、一般的な住宅で現在700万円までを贈与税の非課税にする仕組みがありますが、消費税率10%の時は非課税枠を2500万円に引き上げる予定です。こうした措置でも、支給金額や対象範囲の拡大があるかもしれません。
経済ニュースに目配りを
地価の動向はどうでしょうか。
購入後に不動産の資産価値を大きく決めるのが地価です。もちろん、不動産は資産を増やす目的で購入するとは限りませんが、保有する不動産の価値がどの程度あるかは、人生設計に大きく影響するだけに、気にされる方は多いです。
土地取引の目安となる公示地価は18年、景気が緩やかに回復していることから、住宅地が全国平均で10年ぶりに上昇に転じ、前年比0.3%の上昇となりました。東京圏が1.0%、大阪圏が0.1%、名古屋圏が0.8%のいずれも上昇だったのですが、地方4市(札幌、仙台、広島、福岡)は3.3%上昇と、上昇幅が大きいのが特徴です。かつてのバブルのような勢いというわけではありませんが、首都圏から始まった地価の底入れは、一部の地方の拠点都市に広がっています。
駅から近いなど利便性が高い物件が売り出されると、あっという間に完売することもあります。地価の上昇がこれからも続くと思えば、早めに土地を確保しておくのも一計です。
一方、日本はこれから本格的な人口減少社会を迎えます。総務省の住宅・土地統計調査によると、13年に日本全国で空き家の数は820万戸、総住宅数に占める割合は13.5%といずれも過去最高です。住宅が全体としては余る傾向にある中、地価が上がり続けるというのは疑問です。
駅から近いなど利便性が高い物件が売り出されると、あっという間に完売することもあります。地価の上昇がこれからも続くと思えば、早めに土地を確保しておくのも一計です。
一方、日本はこれから本格的な人口減少社会を迎えます。総務省の住宅・土地統計調査によると、13年に日本全国で空き家の数は820万戸、総住宅数に占める割合は13.5%といずれも過去最高です。住宅が全体としては余る傾向にある中、地価が上がり続けるというのは疑問です。
消費税は本当に10%になるのですか。
消費税の10%への引き上げが決まったのは、消費税が5%だった12年8月のこと。民主党(当時)の野田内閣は野党だった自民、公明両党などの賛成も得て、社会保障の安定的な財源を得る「一体改革」の一環として、14年4月に8%、15年10月に10%という2段階で引き上げを決めました。
自民、公明両党が政権に復帰し、12年12月に第2次安倍内閣が発足します。安倍内閣は8%の引き上げは予定通り実施しますが、10%への再増税は、景気への悪影響が懸念されることなどを理由に、14年11月は17年4月に、16年6月は19年10月にと、2回にわたって実施時期の延期を表明しました。
与野党の一部には、19年10月の引き上げにも3回目の延期を求める声があります。一方で、財政再建も待ったなしの課題です。19年度の予算案の編成と関係するため、年内には最終的な政治判断が下されることになりそうです。
ファイナンシャルプランナー
FPラウンジ代表 豊田眞弓さん
前回の2014年4月の消費増税時には、住宅ローン減税制度が拡充されたほか、収入が少なく減税の恩恵を十分に受けられない人には、最大30万円を給付する「すまい給付金」制度が創設されました。給付額は19年10月の増税時に、最大50万円に引き上げることが決まっていますが、住宅購入の関連施策がさらに拡充される可能性があり、これから年末にかけて政策決定の動きをよくみておきましょう。
過去、消費増税後に需要が落ち込み、住宅価格が下落したことがあります。現在はエリアによっては価格上昇が顕著で、建築資材や人件費の上昇といった価格を押し上げる要素も見られ、これからは絶対、下がるとは言えない状況です。住みたいエリアの動きをよく見て決めましょう。
「人生100年時代」となり、多くの人の老後は長くなるため、原則として住宅にお金をかけすぎない、かけるなら住宅資金の効率性を考えることも大切です。このため、購入したマイホームが老後の生活の支えになるような資産価値を保てるかどうかも選ぶ際のポイントになるでしょう。将来、この家で、この街で、長い老後を暮らしていけるか。消費増税を今後の住まい方を冷静に考えるチャンスととらえるとよいでしょう。
住宅ローンは、総返済額で比較して選びましょう。借入金と金利のほかに事務手数料や保証料の合計で見ることがポイントです。共働き家庭の増加とともに、夫婦で住宅ローンを組んで購入するケースも増えています。妻もずっと働き続ける場合は、夫婦で連帯債務型の収入合算をするか、ペアローンを組んでローン控除を2人で受けることをおすすめします。
- 豊田眞弓(とよだ まゆみ)
- FPラウンジ代表 ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、
子育て・教育資金アドバイザー、相続診断士 - 経営誌や経済誌のライターを経て、1994年より独立系FPとして活動。現在、個人相談業務をはじめ、講演などでも活躍。サイトなどに多数のマネーコラムを寄稿。ライフワークとして子どもや大人の金融教育にも携わる。6か月かけて家計を見直す「家計ブートキャンプ」も好評。親の介護・相続と自分の老後に備える.com主宰。著書に、「ひとり老後を快適に暮らす本」(アニモ出版)、「50代・家計見直し術」(実務教育出版)、「『住宅ローン』賢い人はこう借りる!」(PHP研究所)ほか。座右の銘は「笑う門には福もお金もやってくる」。
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※掲載の情報は2018年8月現在のものです。