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コラム vol.532-3
  • 土地活用税務コラム

事例で検証する家族のための信託の活用方法(3)【ケース4】既に共有になっている収益不動産を信託し、専門家に管理運用を任せる

公開日:2025/02/28

ケース:委託者の願い

「委託者甲は、父から相続した収益不動産が兄弟と共有になっているため、近い将来に行う必要がある大規模修繕の費用の負担や、共有者が海外に居住していたり、相続などによって所有権がさらに分散することで当該不動産の管理運用が難しくなることを懸念しています。」

  • 制度の仕組み
  • ①信託財産 甲とその親族の共有となっている収益不動産
  • ②委託者 甲とその親族
  • ③受託者 一般社団法人(甲とその親族が社員・理事には専門家を入れる)
  • ④受益者 甲とその親族(信託財産の共有持分に応じて受益)
    受益者死亡の場合には、その受益者の相続人

共有不動産は、信託によって受託者である一般社団法人の名義へ所有者が変更されていますので、信託契約に従って一般社団法人がその不動産を適正に管理することとなります。

課税関係

(1)所得税
信託された資産及び負債から生じる収益及び費用は、受益者の収益及び費用とみなして課税され、受益者が信託された不動産から生じる所得を申告することとなります。しかし、信託から生じた不動産所得が損失である場合、不動産所得の金額の計算上なかったものとされます。そのため、信託から生じた不動産所得の損失は、当該信託以外からの所得(例えば、受益者個人が有する信託財産以外の不動産から生じる不動産所得など)と相殺・損益通算することはできません。

(2)相続税
委託者=受益者であることから、信託の設定に伴う課税関係は生じません。その後、受益者が死亡してその受益権を次の受益者が取得すると相続税が課されることとなります。

留意点

一般社団法人には出資という概念がないので、株式会社のような出資者が存在しません。一般社団法人の社員総会では、一般社団法人の組織、運営、管理その他一般社団法人に関する一切の事項等について決議をすることができます(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律35(1))。社員は、各一個の議決権を有することとされますが、定款で別段の定めをすることを妨げないと規定されています。
社員総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した当該社員の議決権の過半数をもって行うこととされています。 甲とその家族が一般社団法人の社員や理事に就任することで、共有不動産の管理・運用については、社員の過半数の賛成でもって決議することが可能となりますので、適正かつスムーズな管理・運用が期待できます。

ケース5:障がいを持つ子の生活の安定(遺言信託)

前回、前々回に引き続き、信託を活用する頻度の高いと思われる基本的な事例を基に、信託を活用すれば解決できる仕組みや課税関係を確認します。

ケース:委託者の願い

「委託者甲には、未成年で、かつ障がいを持つ孫乙がいます。この親(甲の長男)は金銭にルーズなため、この財産を親権者として管理すると勝手に食い潰すことが懸念されます。そのため、孫乙の生活の安定を最優先に配慮しておくために、甲の長男に財産管理をさせることなく収益不動産と一定額の金融資産を孫乙に残してやりたいと考えています。」

  • 制度の仕組み
  • 甲は、遺言書によって以下のような信託をします。
  • ①信託財産 収益不動産+預金2,000万円
  • ②委託者 甲
  • ③受託者 一般社団法人(社員は、甲、甲の弟、専門家)
  • ④受益者 乙(障がいを持つ未成年の孫)
  • ⑤信託の終了 乙が死亡した日
  • ⑥帰属権利者 受託者である一般社団法人

以上のような信託を設定するための具体的内容(上記以外にも信託の目的、具体的管理・運用・給付方法なども定めます)の要項を遺言の要式に従い記載します。

遺言による信託では、信託の効力が発生するのは死亡時であるため、生前に信託財産の所有権を移転する必要がありません。そのため、指定した受益者が委託者よりも先に死亡したり、委託者の気が変われば変更や撤回ができます。
なお、遺言による信託では、遺言執行者を指定しておくべきです。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続きを進める人です。遺言で財産を処分するときは、遺言執行者(弁護士などの専門家)を指定しておくとスムーズに進みます。

課税関係

遺言によって信託する方法です。そのため、甲が死亡した場合、乙は、遺贈によって財産を取得したものとみなされて相続税の課税を受けることとなります。その場合、乙は甲の配偶者又は一親等の血族以外の者であることから、相続税額の2割加算の対象となります。

留意点

(1)受託者
長期に渡る財産管理では、受託者が個人である場合に受託者が認知症になったり、死亡したりした場合に、次の受託者の選任などで支障が生じます。そのため、家族を中心とした社員構成の一般社団法人を設立しておき、その法人を受託者とすることが望ましいと思います。

(2)信託契約
老朽化等への対応、換金処分して受益者の生活資金や施設利用費を捻出するなど将来の様々な手当てをしておく必要があります。受託者の判断で自由にあるいは信託関係人の承諾を得て換金処分できること、新たに賃貸住宅等を新築することなどを定めることも必要と思われます。

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