日銀の政策変更の影響は?2022年新設住宅着工戸数分析と2023年の見通し
公開日:2022/12/27
POINT!
・2022年の持ち家着工戸数は、前年同月比マイナスが続いた。住宅ローン金利上昇の兆しから、2023年も厳しい状況が続くことが予想される
・2022年の貸家着工戸数は、昨年に続き好調が続いた。2023年も今年並みの34万戸前後になると予想される
2022年の住宅市場は、持ち家(注文住宅)と貸家(主に賃貸用住宅)で明暗の分かれた結果となりました。持ち家は2021年12月以来前年同月比マイナスが続いており、一方で貸家は2021年3月以来1年半以上も前年同月比プラスが続いています。
賃貸住宅投資市場は昨年から引き続き活況で、2022年10月時点のキャップレートが東京・城南エリアでは3.9%前後(ワンルームタイプ:1棟)で推移、調査開始以来初めて4%を下回りました。
12月20日に発表された日銀の国債買い入れの政策変更(後述)が気になるところですが、活況が続いている状態です。
2022年の新設住宅着工戸数の状況と着地予測、そして2023年の賃貸住宅・貸家市場について考えてみたいと思います。(執筆時点:2022年12月21日)
2021年の新設住宅着工戸数はどれくらい回復したのか?
住宅市場を分析する基幹統計である「新設住宅着工戸数」は、毎月末に前月分が国土交通省から公表されます。本原稿執筆時点では、2022年10月分までの公表となりますが、2022年の状況がおおむね見えてきました。
2022年1~10月の新設住宅着工戸数は、総数71万9,908戸、持ち家21万2,008戸、貸家28万8,362戸、分譲(マンション・戸建の合計)21万4,645戸となっています。単純にこれを年換算すれば、2022年年間の総数は86万3,000戸、持ち家約25万5,000戸、貸家34万4,000戸、分譲約25万8,000戸となります。
図1:2022年の月別新設住宅着工戸数
国土交通省「新設住宅着工件数」より作成
図1は、2022年(1~10月)までと2021年合計の新設住宅着工戸数の推移を示しています。
2021年末のレポートでは、昨年の新設住宅着工戸数合計の着地の数字を、10月までの数字の推測から、「2021年は2020年を上回ることは確実で、86万戸前後で着地するものと思われます。いくつかのシンクタンクでは83万戸前後の予想でしたが、それは上回る見込みです」と予想しました。結果は85万6,484戸となり、おおむね予想通りとなりました。2023年分の予測は本稿の最後にしたいと思います。
物価の上昇はどれくらい?
我が国では、2022年の半ばから物価上昇が顕著になっています。
図2:消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)前年同月比の推移
総務省統計局「消費者物価指数」より作成
図2は、2022年1月以降の我が国の全国消費者物価指数(コア指数:変動の大きい生鮮食料品を除いたもの)です。これを見れば、4月には日銀が2013年以降目標としてきた前年同月比+2%を超え、直近の10月分では+3.6%となっています。
一方、2021年中は、「ウッドショック」といわれた世界的な木材価格の上昇により、我が国においても木材を多く使う住宅工事費が上昇しましたが、企業物価指数を見れば、2022年7月以降木材価格が少し下落基調にあることが分かります。
また、図3の建設工事費デフレーターを見ても、2022年3月以降、上下幅はあるものの、9月時点では3月とそれほど変わらない状況です。
しかし、2021年1月の時点からは、円安、エネルギー価格の上昇、そして人件費の上昇などが相まって、全体的に建築関連費用は上昇していると言えるでしょう。
図3:建設工事費デフレーターの推移
国土交通省「建設工事費デフレーター」より作成
持ち家着工戸数の状況
図4は、2022年1~10月の新設住宅着工戸数の「持ち家」の月別の推移と2021年同月比です。
図4:建設工事費デフレーターの推移
国土交通省「建設工事費デフレーター」より作成
昨年(2021年)は、2020年に大きく落ち込んだ反動に加えて、働き方・住まい方などライフスタイルの変化により、郊外へ住まいを求める方が増えました。都心のマンションを売り、郊外に土地を購入し、そこに自身の理想とする家を建てる、という方々です。そのため、建築費上昇にもかかわらず、前年同月比で大きく増えました。
しかし、こうした需要が一巡し、さらに建築単価の上昇、郊外の住宅用土地価格の上昇、また、年の後半は住宅ローン金利(とくに固定金利)の上昇が見られ、こうした要因が数字に大きく影響しました。
持ち家着工件数は、2021年12月から最新の2022年10月分まで、前年同月比で連続してマイナスとなり、とくに物価上昇と金利上昇基調が鮮明になった6月以降は2桁のマイナスが続いています。
このペースでいけば、2022年の「持ち家」着工件数は、25万戸台の前半で着地するものと思われます。
住宅着工件数(持ち家)の見通し
すでに住宅ローン金利は上昇の兆しにあり、加えて12月20日に日銀が発表した「長期国債の買い入れ金利の上限を0.25%→0.5%に変更」により、住宅ローン金利(特に固定金利)の上昇につながると思われます。また、12月の日銀金融政策決定会合では見送られた政策金利の上昇ですが、この先は上昇の可能性も示唆されました。そのため現在では大半の方が選択する変動金利は、「いつ大きく金利が上昇するか不安」な状況です。そのため、変動金利を選ぶ方が減少するでしょう。
こうしたことから、2023年の「持ち家」の着工件数は厳しい状況が続きそうです。
追い風要因とすれば、引き続きの住宅ローン減税、ZEH住宅への補助、などがあげられます。
また、「都内での新築住宅への太陽光パネル設置の義務化」が12月15日に成立しました。この先詳細が詰められるようですが、太陽光パネルの設置には現状では少なくとも100万円程度はかかるようですので、これが建築主負担となるようなら、「その前に」という駆け込み需要が発生するかもしれません(一部補助金が出る見通しで検討中のようです)。
2022年貸家の新設住宅着工戸数と2023年の賃貸住宅投資市場見通し
次に、貸家(賃貸住宅)について見ていきましょう。 2022年貸家の新設住宅着工戸数は、昨年に引き続き好調が続きました。
図5:2022年の月別新設住宅着工戸数(貸家)
国土交通省「新設住宅着工件数」より作成
図5は、2022年1~10月の新設住宅着工戸数「貸家」の着工戸数と前年同月比を並べたものです。
2022年の1~10月の合計は28万8,362戸(月平均2万8,362戸)でした。2021年の1~10月は26万9,335戸、2019年は約28万6,000戸でしたので、貸家の新設住宅着工戸数は、「新型コロナウイルス感染症の影響前の状況よりも良い」と言えるでしょう。2022年1年間の貸家の新設住宅着工戸数の着地は、34万5000戸前後と推計されます。
貸家は、土地活用としての賃貸住宅建築や賃貸住宅投資用としての建築です。2021年、2022年とも、賃貸住宅建築および賃貸住宅投資は、熱狂的な勢いが感じられました。
それを推し量れるのが、キャップレート(期待利回り)の低下です。一般財団法人日本不動産研究所の公表データによれば、ワンルームタイプの賃貸住宅(一棟)のキャップレートは、2022年の4月と10月を比較すると、全国主要都市(10都市)で0.1~0.3ポイント低下しています。都市別に見れば、横浜・大阪は横ばいでしたが、それ以外の東京都下、札幌、仙台、名古屋、京都、神戸、広島、福岡ではキャップレートが下がりました。キャップレートつまり期待利回りが下がっているということは、より低い利回りでも今後の期待から賃貸住宅への投資を行いたいという思いが高まっているということになります。最もキャップレートの低いエリアの代表格である東京・城南(目黒区・世田谷区中心)地域では、2022年4月調査4.0%から0.1ポイント下落し、1999年の調査開始以来、初めて4%を下回る結果となっています。
金融緩和政策の転換による影響は?
2021年末のレポートでは、「すでに米国ではテーパリング(量的緩和策縮小)が始まり2022年には利上げが予定されています。また英国などでは、2021年12月に利上げが行われました。このような流れが日本でも見られると金利上昇の可能性が出てきます」と書きました。
12月20日に日銀による「異次元金融緩和」の事実上の転換が発表されました。政策金利は変わらず、マイナス金利も維持、ETFとJREITの買い入れ、といった点に変更はありませんでしたが、長期金利の変動許容幅(新聞各紙の表記を引用)を0.5%押上げることになりました。具体的には、実際には10年物国債利回りを現在の0%~0.25%上限に誘導していたものを、~0.5%に誘導、つまり上限金利を上げることになります。
この政策変更により、不動産投資への影響は少なからず出るでしょう。10年物国債の金利、つまりリスクフリーレート(リスクが少ない金融商品から得られる利回り)として用いられる金利の上昇は、キャップレートの押上げ効果があります。そのため、今回の変動により、0.25%分のキャップレート上昇可能性(賃料が横ばいなら価格の下落)があります。
しかし数字だけを見れば、超低金利からわずかな金利上昇です。「今の賃貸住宅投資熱はこの程度の金利上昇では大きな影響はない」と考えるのが妥当なのかもしれません。こうして考えれば、伸び分が打ち消される形となり、2023年の貸家の新設住宅着工戸数は、今年並みの34万戸前後になると予測します。