CREコラム
CRE戦略としてのオフィスクリエイティブ・オフィスの具体例
公開日:2016/07/28
企業が保有する不動産を有効に活用し、企業の価値を上げることがCRE戦略ですが、現実に商品やサービスを生み出し利益を上げ、企業の価値を上げるのは、何といってもそこで働く人材です。
そしてその人材が持つ能力や才能がいかに発揮されるように環境やシステム、プロセスを整えることができるかということは、企業の持つ本質的な課題の一つです。
人材が持つ能力をフルに発揮してもらうためには、様々な要因がありますが、その一つに、「オフィス」があります。快適で、アイデアが次々と生まれ、組織内のコミュニケーションが活性化し、業務プロセスが円滑に進むようなオフィスが理想的だと言えるでしょう。
オフィスづくりには、借りるにしろ購入するにしろ、不動産が必要となります。したがって、広い意味で捉えれば、企業が持つ不動産を利用したオフィスを持っているのであれば、すでに「CRE戦略」を行っていることになります。
オフィスの質が働くスタッフのモチベーションや業務効率に作用することは周知の事実ですが、昨今ではさらにその考えを発展させ、イノベーションにつながるようなオフィスづくりが提唱されています。国においてもイノベーションにつながるオフィスづくりを提唱し、経産省は、イノベーションを起こし、企業の生産性を大きく上げるようなオフィスを「クリエイティブ・オフィス」と呼び、企業での取り組みを支援しています。
今回のコラムでは、『感性が育ち、創造が始まる クリエイティブ・オフィス 創造する組織を構築する環境づくりのための4つの物語』(出典:(社)ニューオフィス推進協議会、監修経産省)の内容を参考に、実際にクリエイティブ・オフィスづくりに取り組んだケースを紹介します。
働き方を一新し、大企業病から脱却
企業が成長し、大きくなるにつれ、いきすぎた縦割り組織による部門間の断絶や、多すぎるヒエラルキー階層による弊害、融通のきかない制度による硬直化など、いわゆる「大企業病」に陥る企業が少なくありません。この大企業病の解決策の一つとしてオフィス改革があります。
革新的なオフィスづくりによって部門間や階層間のコミュニケーションを活性化させ、企業内にある壁を乗り越えることは可能です。
以下、『感性が育ち、創造が始まる クリエイティブ・オフィス』の内容を要約してご紹介します。
地方に本社を構える部品開発製造業の会社の新しい経営陣は、自社の行く末を案じ、単に顧客の要求通りの製品を生産する「受注型」ではなく、高付加価値製品を提案し、新規顧客・新規市場開拓もできるような「提案型」へと、方向性を大きく変えるべきだと考えました。
創業当時は、ひとつ屋根の下で、風通しの良い職場で商品開発に取り組んでいましたが、会社の成長過程で組織が膨らみ、業務内容が各部門に専門化し、部門間に壁ができるという「大企業病」に陥りつつあったと言います。
そこでオフィス改革に取り組みました。創業50周年をきっかけに、若手社員を中心とした新社屋建設プロジェクトを立ち上げ、社内の積極的な情報共有とコミュニケーション活性化を促す「一つ屋根の下」コンセプトを実現するオフィスをつくりあげました。全部門長を一箇所に集めたり、蜂の巣状のデスクレイアウトを採用したりすることで、部門を超えたコミュニケーションが生まれ、セクショナリズムが軽減されたと言います。
新しいオフィス環境では、研究所・工場のみならず、本社も付加価値創造を期待されていることを、社員が感じ取り、モチベーションが向上しました。従来は身なりに頓着しなかった社員も、新しいオフィスに似合うスーツを着こなして颯爽と歩き回る姿が見られるようになったそうです。
合併企業の悩みをオフィス改革で解決
企業の成長に加えて、企業同士の合併も、お互いの制度がぶつかり合ったり、心理的な壁が存在したりすることで、スムーズなコミュニケーションができにくい環境が生まれがちになります。
そもそも合併とは、お互いの会社の長所・短所を補完し合い、相乗効果を生み出すために行うことであるにもかかわらず、こうした壁は、相乗効果を生むどころか、むしろマイナスに働いてしまうことすらあります。
『感性が育ち、創造が始まる クリエイティブ・オフィス』では、合併によって生まれた企業が、グローバル企業として発展するために、これまでにない研究所をつくりあげるために「クリエイティブ・オフィス」づくりに取り組んだ例を紹介しています。
前述の事例同様、内容を要約してご紹介します。
合併により誕生したある製薬会社は、グローバル企業として、医療ニーズにあった高質な医薬品を患者のもとにはやく届けるために、文化の違いや業務プロセスの違いを解消し、お互いの強みを生かした研究開発ができるようになる必要がありました。
そのためには、専門分野を超えた研究者同士の活発なコミュニケーションから得られるアイデア・気づきを起こさせる環境づくりが重要だと考えました。
経営陣は、このアイデアを進めるためにプロジェクトチームを結集し、より良い製品をよりはやく生み出す「グローバルレベルの研究所」を目指しました。
既存建物を利用しつつ、研究施設とは別にそれらを連結する形で居室棟・厚生棟を配置し、多くの研究者のワークステーションを一つの棟に集めるという画期的な構成のオフィスを企画、構築したのです。その結果、研究者同士のコミュニケーションが活性化され、2社間の壁も解消し、知識やアイデアの結集につながりました。また、オフィス空間やICTツールを活用したコミュニケーションにより、プロジェクトの課題や問題が「見える化」し、プロジェクトのスピードアップが可能となりました。