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平成28年度 「不動産証券化の実態調査」
公開日:2017/10/26
Jリートは10%増
国土交通省が5月にまとめた平成28年度の「 不動産証券化の実態調査」によると、平成28年度中に不動産証券化の対象として取得された不動産や信託受益権の資産額は1004件.約4.8兆円で、前年度に比べて件数・金額ともに2年連続して減少しました。
不動産の市場価格が上昇していることや、昨年に新規上場が相次いだJリートが公募価格を割り込むなど、厳しい取得環境に陥っていることが減少の背景にあるようです。
不動産証券化市場は、平成18年~19年に年間約8~9兆円の不動産が証券化されてピークに達しました。しかし平成20年のリーマンショックで市場は急落。一時は2兆円を割り込むなど規模が縮小しましたが、平成24年以降は4兆円マーケットに回復していました。
約4.8兆円の取得資産のうち、特定目的会社(TMK)などの、いわゆる証券化業務を専門に行う組織の「証券化ビークル」から取得された資産は約2.7兆円。逆に、証券化ビークルが譲渡した資産は約5兆円でした。
スキーム別に見ると、新規上場が目立ったリートが2.3兆円と前年度から10%増。不動産特定事業、TMKもそれぞれ増加傾向にある反面、税制や登録免許などの面で優遇措置が受けられる「GK-TKスキーム※」が2.1兆円から1.1兆円と半分に激減。これが取得減少の大きな原因になりました。
※「GK-TKスキーム」:合同会社(Goudou-Kaisha)、有限会社(Yugen-Kaisha)と匿名組合(Tokumei-Kumiai)の頭文字を取ったもの。運用する資産は、実物不動産ではなく不動産信託受益権となります。不動産信託受益権は不動産取得税が不要で、登録免許税も信託登記に関する額まで軽減できます。
表 スキーム別 証券化の対象となる不動産の取得・譲渡実績の推移
商業施設は3年連続でシェア上昇
平成28年度に取得された資産額の割合を用途別にみると、(1)オフィス(36.7%)(2)商業施設(16.8%)(3)倉庫(15.7%)(4)住宅(13.0%)(5)ホテル・旅館(11.3%)の順になっており、ヘルスケアは伸び悩んでいます。
平成26年度には45.5%と10年振りに40%超えを記録したオフィスですが、ここ2年は低調に推移。商業施設は3年連続の増加、倉庫は平成26年度から上昇に転じています。複合施設も堅調です。
表 用途別 証券化の対象となる不動産の取得実績の推移(用途別資産額の割合)
東京都の取得比率上るも、地方でJリートが堅調
取得資産を所在地別に見てみると、東京都の割合が高まっています。
取得件数で見ると東京都は382件で2年ぶりの増加、大阪府は逆に2年連続減少して130件、神奈川県も同じく減少して79件、愛知県は増加に転じて69件、千葉県も増えて68件、北海道は微増で47件の順となりました。しかしこの7大都市圏以外の地域が197件と前年度比27%減を記録したことで、東京都の取得度合いが却って目立つ結果に表れたといえるでしょう。
表 都道府県別の取得実績の推移
しかし、Jリートの地域別取得動向を見ると、3大都市圏だけでなく、地方都市まで広がっていることが分かります。地方では大型のショッピングセンターなどの商業施設を建設するための取得が伸びており、国土交通省の調査によれば、2012年度以降は物流施設やホテルでの取得も高くなっています。
表 Jリートの地域別不動産取得動向
※三大都市:東京圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)、大阪圏(大阪府、京都市、神戸市)、名古屋圏(名古屋市)地方圏:上記以外の都市
出典:不動産証券化協会提供データより国土交通省作成
3年後に市場規模倍増のアクションプラン
国交省は6月、「不動産投資市場の成長に向けたアクションプラン」を策定、2020年頃までにJリートをはじめとする不動産投資市場の規模を総額約30兆円に倍増させる目標を立てています。
リートが成長分野の施設を運用資産に取り込むことで整備を促すことが重要だと判断。
特に少子高齢化で需要が高まる病院や介護施設といったヘルスケア分野でJリートが組成しやすい仕組みとして不動産取得税の軽減措置を適用することなど、市場活性化のための環境作りを目指しています。
※グラフはすべて「平成28年度 不動産証券化の実態調査の結果」(国土交通省)より作成