トレンド・CREコラム・サプライチェーン
国土交通省が進める「土地・不動産の最適活用による生産性革命」とは
公開日:2017/01/26
先進国の中で最下位が続く日本の労働生産性
国土交通省は、経済の生産性向上を図ろうと、「土地・不動産の最適活用による生産性革命」として、様々な施策を打ち出しています。
生産性向上は、これから人口減少時代に突入するに日本において、経済成長を果たすためには必ず取り組まなければならないテーマです。
労働人口が増加し続ける時代においては、一人当たりの生産高が維持されていれば、自然に生産高が増え、経済規模は大きくなり、生産性はあまり問題視されることはありませんでした。しかし、労働人口が減少していく時代においては、労働生産性を高めていかない限り、成長は期待できません。
国は、様々な労働生産性を高める施策を打ち出す中で、まだまだ未利活用地が残る日本の土地・不動産を有効活用することで、労働生産性を向上させようというのが、この国土交通省が進める「土地・不動産の最適活用による生産性革命」です。
生産性を高めるには、より多くの資源を効率的に活用することで、少ない労力でもより多くの生産高を上げる必要があるわけですが、現在活用できている資源だけでは、現在の生産高を成長させるには限界があります。そこで、まだ十分には活用できていない土地・不動産に目を向けたわけです。
現在、GDPは世界第3位の規模を誇る日本ですが、労働者1人当たりで生み出す成果(=労働生産性)として見た場合の数値は、高いとは言えない状況です。
2016年12月に、日本生産性本部から発表された「労働生産性の国際比較 2016 年版」を見てみると、日本の労働者1人あたりの労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、OECD加盟35カ国中22位(従来基準)、主要先進7カ国で最も低い水準となっています。
実はこの主要先進国内の順位は、1970年の統計から25年以上もずっと最下位の状況が続いています。
2000年以降の主要先進7カ国の労働生産性の推移を見てみると、イタリアや英国との差は縮小しており、フランスやカナダとの差もほとんど変わっていない状況ですが、主要先進7カ国で最も労働生産性の高い米国との差は広がっています。1990年には米国の3/4に近い水準でしたが、2000年代に7割前後に低下し、2010年以降は6割強で推移しており、差が少しずつ拡大する状況が続いています。
OECD加盟諸国の労働生産性(就業者1人当たり)(2015年/35カ国比較)
出典:日本生産性本部 OECD加盟諸国の労働生産性(就業者1人当たり)(2015年/35カ国比較)
国土交通省は不動産の流動化・証券化を積極的に推進
こうした状況の中、国土交通省は、土地・不動産の分野において、不動産の流動化・証券化などを通じて、需給のミスマッチを防ぎ、新しい需要を生み出すことの必要性を提言しています。
現在、土地不動産の活用状況においては、様々な課題があります。たとえば、都市部においては、建築施設の老朽化に伴う空き室の増加、Eコマースの隆盛に伴う物流施設の不足、高齢者施設の不足などの課題があります。
また、地方においては、地域活性化のための遊休不動産の活用、空き店舗の活用、公的不動産(PRE)の有効活用、人材の育成・活用など、さらに深刻な課題があります。共通して言えるのは、遊休不動産、空き室をもっと有効に活用できないかということです。
こうした課題に対して、国土交通省は特に不動産の流動化・証券化を積極的に促進しています。「2015年12月現在では約15兆円のJリートの資産規模を、2020年頃には、30兆円へと倍増したい」としています。
具体的には、不動産証券化の手続きの簡素化や規制緩和を促進するなど、リートなどへの支援を拡充し、様々な投資家からの資金調達を図っています。そして、施設の建築や整備、リノベーションを促進することで、新たな事業の創生や事業化スピードのより一層の加速を狙っています。
こうしたことによって、ホテルや旅館などの宿泊施設や、将来的なEコマースやサプライチェーンの変革を支える高機能の物流施設、そして、古い団地などを再生した高齢者向け住宅などのソリューションが生まれやすい環境づくりを促進しています。
地方においては、空き家再生対策として、小口の投資を集めるような制度の創設や、地域の金融機関、自治体の連携強化、人材育成支援などを通じて、サービス向上と新たな事業の創生を図っています。
たとえば、未利活用の不動産を活用した、公共施設の整備や空き地のイベントなどの活用、クラウドファンディングを活用した古民家の再生事業などへの展開を図っています。
次の図は、不動産をリートによって活用し、新たなサービスを生み出していくプロセスを描いたイメージですが、こうした、土地・不動産と国内外の投資家とを結び付け、ニーズに応える新たな事業の創生によって、利用者には利便性や満足を提供し、様々な周辺事業も生み出しながら、さらなる循環を生み出す仕組みをつくろうと、力を入れています。
(参考資料:国土交通省生産性革命プロジェクト第2弾)