PREコラム
注目を集める日本版CCRC
公開日:2016/09/30
POINT!
- ・「CCRC」とは継続的なケアを受けられる高齢者の地域共同体
- ・日本版「CCRC」は医療・介護・高齢化の問題を解決する手段の一つとして期待
現在、地方創生と都市部の介護人員不足という二つの問題を解決するための計画が、国によって進められています。これは、都市部に住む元気な高齢者が地方に移り住むというもので、いわゆる「日本版CCRC」と呼ばれています。
「CCRC」とは、Continuing Care Retirement Community(継続的なケアを受けられる高齢者の地域共同体)の略で、アメリカではかなり広がっています。高齢者は健康な時から地方へ移り住み、介護・医療が必要となる時期まで、継続的なケアや生活支援サービス等を受けながら生涯学習や社会活動等に参加するという共同体です。アメリカでの推定移住者数は約75万人。こうした共同体が約2,000ヵ所存在しているともいわれています。
最近では、知的刺激や多世代での交流を求める高齢者のニーズに対応する大学等と連携し、大学での生涯学習を行う「CCRC」が増加しているようです。
例えば、ニューハンプシャー州のハノーバーでは、NPO法人が主体事業者となり、約8万坪の敷地に約400人が居住する「CCRC」があります。平均年齢は84歳、健康状態によって部屋を変える仕組みです。
またダートマス大学が提携し、居住者はダートマス大学の生涯学習講座を受講することができ、政治や金融、環境、歴史などについてディスカッション型の双方向の学習スタイルで学ぶことができるようになっています。
アメリカでは、こうしたサービスは特に富裕層を中心に人気があり、身体の健康と知的好奇心の二つのニーズを満たすためのサービスとして広まっています。
日本においては、「日本創成会議」という有識者団体が、2015年に日本版CCRC構想の基本コンセプトをまとめ、政府は必要な法律の整備を行いました。
日本創成会議によれば、首都圏の1都3県では2025年までの10年間の間に75歳以上の高齢者人口が10年前と比べて約175万人増えるとし、その結果、医療介護の必要性が急増し、これに対応する医療介護サービスの確保が大きな課題となってきます。
この医療介護人材の不足が続けば、地方から東京圏への人口流入が加速的に増す可能性もあることから、地方で必要な医療介護サービスが受けられる日本版CCRCという制度は、東京圏の高齢化問題対策としても意義があるとされています。
50歳代の移住ニーズは高い?
一方、以前国が調査したデータによると、50歳代の男性のうち、約半数が「移住を検討したい」と考えていることからもわかるように、「都会から地方へ」の移住は、介護問題、地方創生、都会生活者のニーズ、いずれのニーズも満たす方策として検討されました(下図参照)。
東京在住の50代、60代の移住希望
出典:内閣官房「東京在住の今後の移住に関する意向調査(2014年8月)
積極的に取り組む地方自治体とこれからの課題
この日本版CCRCの政策に呼応し、意欲的に取り組んでいるのが、新潟県南魚沼市です。
まち・ひと・しごと創生総合戦略(平成26年12月27日閣議決定)によれば、2015年4月に、自治体、大学、介護・医療・金融等の事業者を交えた協議会を立ち上げ、「プラチナタウン」構想を推進。2016年度に移住者の募集を開始し、2017年度以降、約200戸の集合住宅に400人規模のアクティブシニアの首都圏からの移住を目指しています。近隣大学・病院と連携した教育・医療のほか、地域資源を活用したさまざまなサービス提供や介護予防での雇用創出を図ります。
また、茨城県笠間市においても、笠間版CCRCの導入に向けた事業を開始。住まい・学び・働く場を含めた多世代・多分野交流型のコミュニティー形成を検討。2014年度中に民間連携による庁内研究会を設置し、地方版総合戦略の主要施策としての盛り込みも検討しています。
こうした活動は、国の多額の交付金の影響もあり、全国の260以上の自治体が推進する意向を示しているようです。国としても日本版のCCRCを「生涯活躍のまち」と名付け、地方創生の大きな手段の一つとして位置付けています。
このように、すべての関係者にとって、いい事ずくめに思われるこの制度ですが、さまざまなところから異論が出ているのも事実です。
送り出す側、受け入れ側ともに、反対意見も多数あり、この制度が本当に医療介護サービスを実現でき、過疎化の進む地方を活性化できるのか、疑問を呈する意見も多くあります。
アメリカで人気となっている大学との連携も日本ではまだまだ不足しており、単なる高齢者住宅を地方につくったところで、さまざまな社会問題の解決にはならないでしょう。
健康な高齢者の雇用の問題を含め解決すべき問題はまだまだ残されており、今後の動向に注目が集まっています。