テレワーク継続で、どうなるオフィスビル事情
公開日:2024/02/09
2023年5月の「5類移行」でコロナ禍による行動制限が緩和されたことに伴い、「働き方」に変化が起きています。コロナ以前の勤務形態に戻す企業がある一方、テレワークの継続や会社勤務との併用など、多様な「働き方」が出てきています。このためオフィスビルに求められるものが変わってきているとの見方が出ています。
多様化するオフィス形態
テレワークと出社を組み合わせた新たな勤務スタイルである「ハイブリッドワーク」を採用する企業も増えています。
企業サイドは、労働生産性が維持できればオフィススペースの縮減や交通費低減などのコスト削減に繋がるので、リモートワークによる労働環境は否定すべきものではないとの認識が定着しつつあります。一方でコミュニケーション不足などを理由に原則出社に戻す動きもあり、多様な働き方を提供したいと考える企業にとって、難しい局面に立たされています。そのような状況下で新しく生まれているのが、自宅やサテライトオフィスなどと会社のオフィスを組み合わせた「ハイブリッドワーク」という新たな労働形態です。
ハイブリッドオフィスのほかにも、受付や電話代行、キッチンなどを併設した執務スぺースを提供する「サービスオフィス」、複数の企業やフリーランスが共有して使う「シェアオフィス」、シェアオフィスのオープンスペース版ともいえる「コワーキングスペース」など、新たな形態のオフィス空間が続々と登場しています。長期の利用では割高になる反面、短期的な利用ならばお得で利便性の高いオフィス空間といえるでしょう。企業の利用目的に応じたタイプを選ぶことできます。
オフィスビル稼働率は底堅い?
行動制限の緩和によって、人の往来は回復傾向にあります。訪日客も戻ってきて観光地は賑わいを見せてきました。わが国最大のビジネス中心地である首都東京では、ビジネスパーソンの出勤が当たり前の風景になりつつあります。テレワークの普及が進んでオフィスが供給過剰になる「2023年問題」への懸念が出ていますが、いまのところはオフィス回帰の流れが続いてテナントの稼働率は底堅さを見せているようです。
森トラストが2023年6月に公開した「東京23区のオフィスビル供給量調査」(2022年12月時点調査)によると、2022年の大規模オフィスビルの供給量は49万m2に留まり、過去20年で最も少ない供給量を2年連続で更新。2023年は130万m2、2025年は141万m2と一定規模の供給になる一方で、2024年は69万m2、2026年は66万m2、2027年は74万m2と供給は絞られる、と予測しています。ただし、2003年からの推移を見ると、供給量は需給バランスの関係で3年前後の間隔で上下動を繰り返しており、今後の推移も過去と比較すれば、必ずしも大きな変化といえないかもしれません。
図1:東京23区の大規模オフィスビル供給量の推移
出典:東京23区の大規模オフィスビル供給量調査 '23(2023年6月30日 森トラスト株式会社)
ただ、こうしたオフィスビル供給の上下動の背景には、ハイブリッドワークが新たな働き方の一部になっていることを同調査では挙げています。テナントに入居する企業は、社員を本社に集めるための魅力的な機能や、希薄化が懸念される企業文化の発信など、ハイブリッドワークのもとで新たな課題を抱えています。このため、こうした課題を解決できるオフィスに需要が集中していると分析しています。
東京の「一極集中」は根強い
2021年の東京都の人口は、コロナ禍で26年ぶりに減少しました。2015年から人口流入が上昇し2019年は推定1400万人と過去最高を記録しましたが、2021年に落ち込みました。東京の一極集中は終わった、などと喧伝されましたが、2022年後半から東京の人口は増加に転じています。都心部のオフィス人気も依然として高く、三菱地所リアルエステートサービスが2023年12月に発表した東京主要7区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・品川・江東)のオフィス空室率(延床面積3,000坪以上の賃貸オフィスビル991棟対象、2023年11月時点)では、2023年7月に7.05%まで上昇したものの、その後は6%台をキープ、直近で6.42%となっており、安定した稼働率を維持しています。
オフィスビルに求められるものが変化している
多様な働き方の変化は、オフィスに求められる条件を様変わりさせている、との指摘があります。優秀な人材の確保や企業のステイタス向上、環境への配慮など、オフィスの存在が単に仕事場としての位置付けから対外的な信用度、好感度の改善のための手段として考えられるようになっているのです。
また社内コミュニケーションの強化や、新規事業開発の発信基地などイノベーションを生むための空間を実現させる動きも見られます。またオフィスビルの1階を地域住民に開放したり、商業施設を併設したりするオフィスビルも目立ってきています。新型コロナウイルス感染症の5類移行を機に、オフィスビルは多様なニーズを求められ変容しているようです。