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コラム No.145

CREコラム トレンド

賃貸住宅融資が3年ぶりに増加

公開日:2023/05/31

賃貸住宅用の融資が3年ぶりに増加したことが国土交通省の調査で明らかになりました。コロナ禍による移動制限が続いてきましたが、徐々に緩和措置が取られ人流が元に戻り始めたことが背景にあるのでしょうか。

新規融資額は4,540億円増の2兆6,700億円

国土交通省は2023年3月、「令和4年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」を公表しました。同省は2003年度から住宅ローンを取り扱っている民間金融機関を対象に住宅融資の貸出状況を調査しており、今回の調査期間は2022年10~11月。公表調査のタイトルは「令和4年度」になっていますが、件数・金額などの結果は令和3(2021)年度の実績を示しています。調査対象機関は1,242、回答率は91.4%となっています。

国民の計画的な住宅取得を円滑に実現していくため、住宅ローン市場の動向を把握し、住宅金融政策の検討・立案を行っていくための統計データを収集する狙いから毎年調査を継続しており、今年で20年になります。
調査項目は、(1)個人向けの住宅ローン実績(2)賃貸住宅の建設・購入にかかる融資(アパートローン)の実績(3)住宅ローンの商品ラインナップ―の3点。今回は(2)の賃貸住宅を見ていきます。

2021年度の各年集計における賃貸住宅向け新規貸出額は2兆6,700億円、対前年比20.4%増。金額にして4,540億円の増加となっています。民間金融機関の業態別貸出額は地方銀行(48行)が8,485億円(対前年比15.6%増)と最多で、信用金庫(171)が6,866億円(22.2%増)、都市銀行・信託銀行など16行が4,282億円(81.8%増)、農協(462)が3,351億円(10.5%増)、モーゲージバンクなど(12)が1,190億円(12.8%減)の順となっています。各地で高い貸し出しシェアを誇る地銀が強く、地域金融機関では地銀に次ぐ勢力である信用金庫は伸び率で地銀を上回っています。伸び率ではメガバンクグループである都銀・信託が大幅に増加。モーゲージバンクは前年割れになっています。

図1:賃貸住宅向け新規貸出額の推移(各年集計)

図2:【業態別】令和3年度賃貸住宅向け新規貸出額

貸出残高(各年集計)は2021年度が35兆1,043億円。対前年比5.4%と微増。業態別の貸出残高も新規貸出額と同様で、地方銀行11兆7,619億円(5.8%増)とトップ。2位は都銀・信託で8兆1,201億円(3.1%増)、信用金庫6兆5,510億円(17.1%増)、農協4兆7,098億円(2.2%増)などとなっています。

図3:【業態別】令和3年度末賃貸住宅向け貸出残高

出典:国土交通省 住宅局「令和4年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果報告書」(令和5年3月)

2012年頃に始まった不動産投資の加速

わが国では2012年頃にアパート・マンションローンなど不動産投資向けの融資が急増しました。低金利局面が長期化して投資先が乏しくなっていった状況下、不動産投資は個人投資家や土地・不動産の相続に頭を悩ませる人々の間で関心が高まりました。2015年に相続税改正があり、最高税率が50%から55%に引き上げられ、基礎控除額が4割削減されました。それまで減税の改正だった相続税が初めて増税になったのは、高齢者が保有する資産を若い世代に早期移転するよう促して経済を活性化することにありました。
これを受けて、相続税の負担増を回避する土地の有効活用が注目され始め、都市部から通勤圏内にある郊外や多くの地方都市で賃貸住宅やマンションの建設が急増。不動産向けの新規融資も2016年には12兆円を突破して年間の新規貸出額がピークになりました。ところが、2017年になると6年ぶりに不動産の新規融資が減少に転じます。過熱する不動産投資に金融当局が警戒を強め、不動産融資の監視に力を入れ始めたのです。

そうした状況の中で出てきたのが、いわゆる「スルガショック」と呼ばれる不動産関連の不正融資でした。シェアハウスと呼ばれる安価な家賃の共同アパートが投資対象になり、地方銀行のスルガ銀行がずさんな融資審査を行っていた実態が明らかになりました。このため、各行は不動産融資の引き締めを一斉に始め、不動産融資の新規貸出額は減少していきました。
スルガショックではサブリース契約にもメスが入り、賃貸住宅の管理業務の適正化を求める声が高まりました。国は賃貸住宅管理業者に対してサブリース契約をする場合は、契約の相手方から説明を受け、契約内容や賃料減額などのリスクを十分理解してから契約するように注意喚起しました。

国内ではコロナ禍の2年目となる2021年頃から不動産融資の新規貸し出しは増加に転じています。巣ごもり生活の中で資産形成に対する興味が芽生え、不動産融資への関心が高まってきたとの指摘があります。不動産投資はインフレに強いといわれてきましたが、パンデミック(世界的な感染爆発)にも強いことを証明した格好となりました。

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