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コラム No.141

CREコラム トレンド

原油価格高騰で加速する蓄電池ニーズ

公開日:2023/01/31

新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などの影響で原油価格が高騰しています。石油などを使う火力発電のコストが上昇する一方、再生エネルギーへの高まる期待から、災害時の非常用電源やEV(電気自動車)など用途の広い蓄電池に注目が集まっています。

需給の歪みで高騰する原油市場、火力発電7割のわが国

原油高騰は石油の需要と供給のバランスが崩れて(原油の)先物価格が上昇する状態を指します。先物取引は商品価格を長期間一定に保って価格変動リスクを回避するための売買取引ですが、ここに投機的な動きが入るなどして原油市場が混乱するといわれています。
原油価格が上がると石油を使って発電する火力発電のコストが上昇して電気料金が上がるだけでなく、原油を精製したガソリン料金が上がり、製造コストや輸送コストが上昇して値上がりの連鎖を生みます。2020年初頭から世界各地で顕在化したコロナ禍はその後一進一退を続けていますが、この不安定な状況に連動して原油価格が乱高下し、原油価格の需要と供給のギャップが解消されずに価格の不安定を招いているといわれています。
特定非営利活動法人「環境エネルギー研究所」によると、国内の2021年の電源構成(電力を作るエネルギーの種類で分類した発電設備の割合)は火力発電が7割以上を占めています(石炭26.5%+LNG(液化天然ガス)31.7%+石油2.5%+その他火力11.0%=71.7%)。火力発電は化石燃料を燃焼する際に温室効果ガスを排出し、地球温暖化に影響を与えているとされています。一方、原子力や再生エネルギーの電源は3割に届いていません(原子力5.9%+水力7.8%+太陽光9.3%+風力0.9%+地熱0.3%+バイオマス4.1%=28.3%)。

図1:日本全体の電源構成(2021年速報)

出典:特定非営利活動法人 環境エネルギー研究所「2021年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報)」(2022年4月4日)

SDGsなど環境保護意識の高まりなどで再エネの比率は年々上昇しています。国は2030年度に再エネの電源構成を3割台後半(2021年時点で22.4%)、原子力を20%程度(同5.9%)までに増やす目標を立てていますが、エネルギーの大半を火力発電に依存している現状を打開するのは容易ではありません。

電気も需給の一致が不可欠

前述したように原油は需給のバランスが乱れると価格が乱高下しますが、電気もまた違った意味で需給バランスの一致が安定供給の生命線といわれています。電気を作る量(供給)と電気の消費量(需要)が同じ時に同じ量であること(同時同量)が安定供給の必須条件。同時同量でない場合は電気の品質(周波数)が乱れて正常な電気供給ができないため安全装置が発動して発電所が停止し、大規模停電を招くことがあるといわれています。最近では2018年9月に北海道で発生した大地震による大規模停電(ブラックアウト)は電力需給のバランス崩壊が原因といわれています。

蓄電池の国内市場は2023年度1.2兆円の予測も

蓄電池は電力を充電したり放電したりすることができる「バッテリー」のこと。自動車ややノートPC、スマートフォンのバッテリーを想像するとイメージしやすいでしょう。特にEVの登場などで蓄電池の需要は急速に高まっています。また災害時の停電に備えた備蓄アイテムとしても活用シーンが増えています。
蓄電池が注目される背景のひとつに、太陽光発電の買い取り期間満了が2019年に始まっていることがあります。売電価格が下がる可能性があるため家庭内で備蓄して使用したほうが経済的との見方が高まり、蓄電池設備の設置が進んでいるのです。国内の家庭用蓄電池市場は2023年度に1兆2000億円規模になるとの予測が出ています。またEVの普及で車載用蓄電池の重要は拡大を続けていくと見られています。
さらにEVと家庭内に設置した蓄電池(太陽光パネルからの電気を取り込む)との間で電気を融通するシステムも開発されています。売電を機に太陽光パネルを設置した家庭で蓄電池の導入が増え、マイカーのEVと連動させて電気代を低減できる時代が到来しています。家庭内だけでなく、一般企業でもBCP(事業継続計画)の観点から蓄電池設備の必要性が高まっています。

2050年までのカーボンニュートラル実現を目指す国もこうした動きに呼応し、昨年10年ぶりに蓄電池産業戦略の中間報告書をとりまとめました。蓄電池の世界市場は車載用がけん引していくと思われ、EV市場の拡大で2030年には約33兆円。2050年には約53兆円規模になりますが、家庭や企業などでの定置用蓄電池市場も2050年には約47兆円と肉薄するとの予測を立てています。

図2:蓄電池の世界市場の推移

出典:経済産業省「蓄電池産業戦略」(2022年8月31日 蓄電池産業戦略検討官民協議会)

ただ蓄電池はニッケルなどのレアメタル(希少金属)を原材料として製造されており、埋蔵量や生産量は豪州や南米、アフリカのコンゴなど特定国に偏在し、原材料の一種である黒鉛は生産・輸入面で中国に大きく依存しているといわれています。また高純度のニッケルはロシアが主要生産国のひとつとされ、安定確保が大きな課題になっています。安定した価格と供給量が実現できなければ車載用、定置用ともに蓄電池の普及に繋がりません。現在は主流のリチウムイオン電池のほかに新時代の蓄電池の研究開発が進んでおり、世界で熾烈なシェア争いが展開していくと思われます。

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