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国土交通省が「事故」不動産の告知ガイドラインを公表
公開日:2021/10/29
入居者の死亡などで事故物件となった不動産の取引について、国土交通省はこのほど、入居希望者に事故物件であることを告知すべきかどうかの判断基準(ガイドライン)をまとめました。これ まで明確な線引きがなく業者任せでしたが、国が初めてルールを策定しました。
居住用不動産を対象に「人の死」の取り扱いを明確化
入居者が賃貸契約期間中に死亡するなどした貸室に新しく入居するのは、気持ちのどこかで引っ掛かりがあるものです。そのことを告知しないで入居契約を結べば後々トラブルの原因にもなり、あらかじめ告知すれば入居する人はなかなか見つかりません。事故死や自殺、殺人が原因となれば、大半の人はいわゆる心理的瑕疵を忌み嫌う傾向にあります。 事故物件の対応に関してはこれまで宅地建物取引業法で告知の必要を示していますが、明確なルールといえるものはなく、取扱業者の判断に委ねられていました。そのため入居後そのことが露見して借主が訴えることもありました。このような状況から国土交通省は2020年2月に「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を設置、2021 年9月までに7回開催して議論を深める一方、パブリックコメントを募集して一般から意見を聴取してきました。そして2021 年10月、居住用不動産を対象に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し公表しました。 ガイドラインは対象とする心理的瑕疵について、事故死や自殺、殺人など人の死に関する事象について取り扱い、生活の本拠として継続的に使用する居住用不動産に限定しています。
賃貸と売買で「告知」は異なる
賃貸と売買の取引形態によって取り扱いは異なります。事故死や自殺、殺人、原因不明の死亡などの場合は、売買契約では発生からの経過期間にかかわらず告知が必要ですが、賃貸の場合は過去3年以内に限定しました。言い換えると、3年以上経過した事故物件に関しては告知不要ということになります。心理的瑕疵は時間の経過とともに希薄になり、やがて消えるとの裁判例もあることから、3年を過ぎれば事故物件の対象外とする措置が取られたようです。 自然死の場合は原則告知不要です。日常生活の中での不慮の死、例えば転落事故や誤嚥(ごえん)などによる死亡も告知しなくても良いとされています。しかし借主が人知れず過去3年以内に死亡し長期間放置され、その結果、室内外に臭気・害虫などが発生して特殊清掃が行われた場合は、契約を結ぶかどうかの判断に重要な影響を与える可能性があると考えられるため、告知をすることになりました。
事故物件の告知ガイドライン
取引形態 | 殺人・自殺・事故死・原因不明の死亡 | 自然死(老衰・病死) |
---|---|---|
賃貸 | 〇(過去3年以内) | ×(過去3年以内に死者の長期放置、特殊清掃の場合は〇) |
売買 | 〇 |
ただ、自然死など告知不要の場合でも、事件性や周知性、社会に与えた影響などが大きいと判断される事案に対しては告知する必要があります。その場合、死亡発生の時期から経過した時間に関係なく、買主や借主から事故の有無について問われた場合や社会的影響の強い事件など、特段の事情があると判断されるケースでは告知することになります。この点はやや抽象的であいまいと思われるため、当局に判断を仰ぐ必要があるケースも出てきそうです。
事故を恐れ単身高齢者の入居敬遠も
心理的忌避は個人の内面に関わる性質のもので、平気な人もいれば心理的な負担を強く感じる人もいて千差万別です。このため人の死が取引の判断にどの程度の影響を与えるのか、その基準づくりは容易ではありません。不動産業者の対応もさまざまで、すべての事故を告知している業者もいれば、プライバシーにかかわる問題で告知にためらう業者も少なくありません。また入居中の事故を恐れて、たとえ自然死であっても告知対象になることを危惧して単身高齢者の入居を敬遠する傾向がみられるとの指摘があります。 近年は事故物件を中心に取り扱う不動産サイトも登場しています。検討会の議論ではこうしたサイトに対して「真偽が十分に確認されないまま不特定多数の人が自由に投稿できるのが問題。実際に、不正確な情報について削除を依頼し削除されたことがあった」との指摘がある一方で、「事故物件サイトが存在しているのは、知りたいことを不動産業者が隠しているとの疑念が消費者側にあるからではないか」(いずれも第1回検討会・議事概要から抜粋)といった意見もありました。 また、事故物件であっても上物を取り壊した場合の土地取引や搬送先の病院で亡くなった場合や、転落死における落下地点の取り扱いなどは、事故物件における不動産取引の実務の蓄積が不十分で今回のガイドラインでは対象外になりました。新たな裁判例や社会情勢、人々の意識の変化に応じて、今後見直しが行われるもようです。