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コラム No.118

CREコラム・トレンド

デジタル改革関連法施行で加速する不動産DX

公開日:2021/06/30

デジタル庁設置法をはじめとしたデジタル改革関連法が2021年5月に国会で成立しました。不動産取引では宅地建物取引業法(宅建業法)の改正などが含まれており、不動産取引のオンライン化が進むと見られています。「VR内見」や「IT重説」などの活用を含め、不動産業務におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速しそうです。

不動産業界でもデジタル化の波が到来

これまでの宅建業法では不動産賃貸取引において、重要事項説明書(重説書)や不動産取引契約書の書面交付は宅地建物取引士(宅建士)の押印が必要でした。しかし今回の宅建法改正では、賃借人や賃貸人などが承認すれば、こうした書類を宅建士の押印なしで電子化して提供できるようになります。
不動産取引における電子化のきっかけは、2017年に本格運用が始まった重要事項説明のIT化、いわゆるIT重説です。重要事項説明とは、契約する前に宅建士が物件の借り主(または購入者)に対して契約上の重要事項について対面で説明すること。説明内容を記した書面が重説書です。この重説書をPDFなどにファイル化して交付、インターネットやテレビ画面などを通じて説明を行います。

IT重説は2019年10月に国土交通省が社会実験をスタートさせ、不動産賃貸業者などで取り扱うケースが増えていました。しかし宅建業法で重説書の書面交付を義務付けているため、説明はオンラインでできても事前に印刷した重説書を相手に郵送する必要がありました。今回の法改正で書面交付と押印の義務がなくなり、すべての契約取引がデジタル化されることになります。またマンション管理適正化法や借地借家法、不動産特定共同事業法、建設業法も同様に書面交付の電子化が可能になります。不動産業界では売買取引(売買取引は2021年3月から社会実験がスタート)を除いて実質的にオンライン契約が全面解禁になります。

コロナ禍が早めたDX

近年、フィンテックや不動産テックなど「〇〇テック」と呼ばれる業務のIT化が進んできました。現在は「テック化」から業務革新を目指すDX化が不動産業界で拡大しています。
不動産業務のデジタル化は、取引業者と利用者の双方にさまざまなメリットをもたらします。取引業者においては、(1)重説書や契約書など重要な資料の印刷・郵送・保管にかかわるコストを軽減できる、(2)契約当事者同士をオンラインで結ぶことにより面談時間の短縮が実現する、(3)ネットワークセキュリティを確保すれば契約の安全性が高まる、などのメリットがあります。契約書の電子化では近年「電子署名サービス」が充実してきています。どちらか一方が加入していれば利用できるので、取引業者が加入することで顧客に面倒な手続きを求めることがなく、導入が比較的容易です。契約の電子化では、これまで紙の書類で必要だった印紙税がかからないことも大きな利点です。
賃貸住宅への入居に際してはこれまで、希望者は勤務時間終了後の遅い時間か休日を削って物件先を訪れたり、不動産賃貸業者のオフィスに顔を出したりする必要がありました。現在はITの進展で現場に行かなくても実際に見るのと同じような体験を味わえる「VR内見」が登場。仮想現実(Virtual Reality)を活用したデータ加工技術により、スマートフォンなどを通じて物件の間取りなどを内見できるサービスが登場しています。
内見がデジタル化されることで、残るデジタル化の大きなハードルは書面契約でした。それが今回の法改正で契約書類などのドキュメントが電子化されるので、不動産賃貸業者のオフィスに足を運ぶ機会は、より少なくなります。新型コロナウイルスの感染拡大で対面の接触機会が減少したことも、DXを加速させたといえるかもしれません。

IT重説導入でデジタル環境の整備を狙う

不動産取引におけるデジタル化は、不動産のさらなる流通を図りたい国にとって最重要課題のひとつになっていました。今回の法改正で不動産業界の本格的なデジタル化が始まりますが、国土交通省はそのためにIT重説の普及に注力したい意向のようです。
国土交通省は2021年3月、IT重説の実施マニュアルを作成しました。IT重説の要件として、(1)双方向の情報伝達ができるIT環境、(2)重説書の事前送付、(3)説明前の相手方への準備とIT環境の確認、(4)宅建士証の画面上の視認を挙げています。

図1:不動産業課長通知においてIT重説に求められる要件

出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明実施マニュアル」(2021年3月)

業務のデジタル化は、便利でメリットが多い一方で注意すべきことも少なくありません。IT重説マニュアルでは、万が一のトラブル防止の観点から、実施に際してのポイントも明記しています。最も重要なのは借り主の同意と本人確認です。同意について規定はありませんが、書面やメールで残したりする方法が考えられます。また本人確認のためIT重説を行う前に運転免許証など本人確認の身分証明書提示を求めることを推奨しています。内覧を事前に済ませておくことも重要。前述した「VR内見」などオンライン内見の有効活用が求められるのとともに、入居後に「想像と違っている」「言った、言わない」などの行き違いを防ぐために、重説を録画し録音しておくことも必要とされています。ただし、取得した録画・録音記録については、「個人情報保護法」に基づいた適切な管理が求められているのは言うまでもありません。

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