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コラム No.116

CREコラム・トレンド

普及が期待されるランドバンク事業

公開日:2021/04/28

空き地や空き家の管理・流通・再生にあたる組織「ランドバンク」の事業が注目を集めています。高齢化や人口減少で有効活用されずに放置されている家や土地が各地で増加していますが、その多くが小規模な物件のため不動産取引が難しく、再利用がうまく進んでいるとはいえません。そこで登場したのが地方公共団体やNPO団体などが連携して運営するランドバンク事業者です。国もランドバンクの事業に対して財政支援を今後強化する意向です。

草の根運動が必要な空き家対策

近年は都市部の通勤圏内にまで広がっているのが空き地や空き家です。国は1991年の地方自治法改正や2009年の農地法改正などで、所有者不明な土地の明確化など対応にあたりました。
所有者不明の土地問題が行政上の課題になると同時に出てきたのが空き家問題でした。家主が長年にわたり不在となり、その間に建物は朽ち果て雑草が生い茂るなど景観だけでなく倒壊などの危険が発生。周辺住民への悪影響の点では空き地以上に深刻な問題になりました。2014年にいわゆる「空家法」ができ、空き家などに対する立ち入り調査や、所有者の固定資産税課税情報を利用した管理状態の悪い建物に対する助言・指導が可能になりましたが、行政の力だけで十分改善できるものではありません。より具体的な解決を目指した草の根運動が必要です。

そこで登場したのが、空き地・空き家の再利用活動を展開する地方公共団体やNPO団体などの組織「ランドバンク」です。自治体が宅地建物取引業者や金融機関などと連携して運営しており、空き家の所有者との間で上物の管理や、地震や台風などで被災した場合の修理・修繕などを行います。

草分け的存在の「つるおかランド・バンク」

鶴岡市は人口約12万人の山形県で第2位の都市。少子高齢化で空き地や空き家が増加し、旧市内の中心部は道路が狭く車での往来に支障があり、住環境に問題がありました。そこで2011年に市が民間業者、地域住民と連携して「鶴岡市ランド・バンク研究会」を立ち上げ、ここで蓄積した研究成果やモデル事業の実績を引き継いで創設したのが「NPO法人つるおかランド・バンク」です。わが国におけるランドバンク事業の草分けのひとつと言っていいでしょう。国土交通省が2020年度のランドバンク活用のモデル調査で選定した支援対象6団体のひとつです。つるおかランド・バンクは会員制で団体と個人、正会員・賛助会員に分けられ、会費と寄付で運営されています。

ランドバンク事業は、空き家の解体や前面道路の拡幅、あるいは改修による売却などを行います。空き家バンク事業は空き家情報のデータベース化による所有者と希望者とのマッチング、住み替え、二地域居住などの支援を担います。空き家委託管理事業は、遠方に住んでいる所有者の依頼により空き家を管理。定期巡回や室内掃除、除草など庭木の手入れを行います。月3,500円の「ライトコース」や月5,000円の「しっかりコース」などを提供しています。空き家コンバージョン事業は、空き家を有効利活用し、シェアハウスや高齢者交流施設、ギャラリーなどさまざまな用途に転用(コンバージョン)することを目的にしています。

専門家集団の「かけがわランド・バンク」

「かけがわランド・バンク」は2015年に任意団体「空き家活用マネージメントチーム」を設立。掛川市と民間業者などが参加し、市民参加型のNPO法人として2017年に設立されました。空き地・空き家の放置問題を解決し、地域の活性化につなげることを目的としています。掛川市は人口11万7000人あまり。静岡県内では人口第9位の都市です。江戸時代の農政家・思想家である二宮尊徳が提唱した報徳思想が普及した地として知られています。
かけがわランド・バンクは宅地建物取引士や一級建築士、土地家屋調査士など専門家が数多く参加していることを前面に出しているのが特徴です。事業内容はつるおかランド・バンクと同様、空き家の管理受託や空き家のマッチングなどを展開していますが、空き地・空き家の無料相談会を実施しているのが目を引きます。また空き家問題の啓蒙活動にも力を入れており、出張講座を実施しています。地域活性化策として、JR掛川駅から徒歩5分の地に「コワーキングスペースKAKEGAWA」を開設。空き店舗を利用して事務スペースを提供しています。駅に近い好アクセスで、賃貸オフィスに比べて低料金。提携駐車場は半額で利用できるなど、使い勝手の良さを追求しています。

既存の公園整備に依存しない緑化ツール「カシニワ制度」

「カシニワ」は、「かしわ(柏)の庭」と「かす(貸す)庭」をかけ合わせた造語。柏市は千葉県内第5位の人口約43万人が暮らす首都圏のベッドタウン。2005年につくばエクスプレスが開業するなど、今日まで人口増加が続いています。人口増加に伴う宅地開発で樹林地面積が年々減少し、また少子高齢化で適切に管理されない空き地などが増えました。しかし市の緑化計画は財政上厳しいため、従来の公園整備事業と異なる新たな「緑のオープンスペース」を増やして都市公園を補充することとしました。それが2010年にできたカシニワ制度です。

柏市内の市民団体が管理している空き地や樹林地などのオープンスペースや個人の庭を「カシニワ」と位置付け、それに対して行政や関連組織が支援します。カシニワの多くは私有地で、個人の庭を公開したり、借りている土地を地域の庭や里山としたりして提供されています。また空き地を利用してまちづくりにも活用。空き地の一部を借りて抜け道をつくったり、バスの転回場所や移動販売の停留場所として活用されたりしています。

このようなランドバンク事業は、地味な活動ではありますが、同じものは二つとしてない不動産の特性を考えれば、将来的に重要な役割を担っていくのではないでしょうか。

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