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国も後押しする「二地域居住」とは?
公開日:2021/03/31
生活基盤を変えずに複数の地域で暮らすライフスタイルが登場しています。田舎暮らしはしたいけれど移住には不安があるという人の間で広まりつつあるようです。コロナ禍において定着してきたテレワークなどの「新常態」が追い風になっており、国も地方の定住人口を増やすため本腰を入れています。
促進協議会を設立、自治体と業者が集結
「二地域居住」は、都心部やその周辺で日常生活を送る一方、週末など休日を地方で過ごす生活様式です。少し聞きなれない言葉ですが、「プチ田舎暮らし」といったところでしょうか。わが国では一部の富裕層が避暑地や避寒地に自宅とは別の住まい「別荘」を持つことがありますが、二地域居住はこうしたリゾート地ではなく、農村や漁村など地方でもより生活を感じることができるエリアでの移住になっています。
出身地や好きな観光地などといった特定の理由はないが、少しくらいは関係を持ちたいと願う人々の総体を「関係人口」と呼ぶことがあります。2017年ごろから出てきた新しい言葉ですが、二地域居住を志向するのは、関係人口に該当する人々かもしれません。
少子高齢化が本格化し、人口減少が進んで地方では空き家が増加しています。また2020年に全世界で感染拡大したコロナウイルスの影響で、わが国でも自宅勤務(テレワーク)を導入する企業が急増し、都市部で暮らす必要性が少しずつ低下しています。加えて近年は自然災害が頻発しており、都会に暮らす人々の避難先として、もうひとつの居住先を考える人が増えています。
国は地方創生の観点から地方の人口増加を狙いに地方に移住したいと考える人を後押ししてきましたが、2021年3月に国土交通省が「全国二地域居住促進協議会」を設立。601の自治体と29の関係団体・業者が協議会への参加を決めています。協議会では、既に二地域居住が増えている自治体のノウハウを共有して関連施策や先進事例を紹介したり、二地域居住を望む人が住宅を確保できるよう、空き家バンクの活用方法などを発信していく方針です。
二地域居住にはメリットとデメリットがある
二地域居住には当然ながら長所も短所もあります。生活基盤を変えないで一定期間移住するので、始めやすいのが最大の利点でしょう。試してみて厳しそうならば撤退することも可能。試行錯誤できます。気に入れば将来の移住先として老後の計画に組み込むのもいいかもしれません。また通常、都心の自宅に比べれば広いので、保管倉庫としての役割も期待できます。
一方、2軒の自宅を持つのでそれなりの出費があることは覚悟しなければなりません。2カ所を往来する交通費はもちろん、自宅の維持費は約2倍かかります。放置すれば当然居住性は低下し、住む気持ちは失せてしまうでしょう。いつでも利用できるといっても、手入れもしないで放っておけばセカンドハウスの価値はなくなります。
また、二地域居住では、候補地は自宅から車で2~3時間の圏内がふさわしいといわれています。これ以上遠くなると交通費がかさみ時間もかかるので、長続きしないとの指摘があります。
ブリッジ不足の解消に専門人材登用へ
わが国ではこれまで、数多くの地方活性化策が登場しました。就農制度をはじめ、資金面での支援や移住者の子育てにおける負担軽減など、地方自治体は手立てを尽くしてきました。しかし必ずしも奏功したわけではありません。うまくいかなかった背景には、移住者と地域、自治体それぞれを結び付ける人の不在や適人者の欠如といった「ブリッジ人材の不足」という問題があったといわれています。
プランやアイデアは良いのですが、土地勘のないところで新しく生活を始めるには、具体的な支援が欠かせません。ただ家賃を下げたり子育て資金を支給したりするだけでは、移住者は定着していきません。活性化策自体が移住する人の気持ちから乖離し、地に足が付いていなかったのではないでしょうか。
国はこうした点を改め、2021年度から「地域プロジェクトマネージャー制度」を創設することにしました。この制度は、地域プロジェクトマネージャーと呼ばれるリーダーが地方移住者を支援する「地域おこし協力隊」と、5年以上の専門実務を経験している「専門家人材」とともにプロジェクトの進捗管理を運営していく制度です。
これまでの地方移住政策では、個々の支援が流れ作業に陥り、計画(プロジェクト)の進捗状況を見守る人を欠いていたために、計画の目標達成やその過程における問題の解決など、現場が直面する課題に真正面に取り組むことが難しかったことへの反省から生まれています。地域プロジェクトマネージャーは、介護福祉の現場におけるケアマネージャーに類似しているのではないでしょうか。介護の現場を理解し、利用者世帯の実情を把握した専門家であるケアマネージャー同様、地域おこしにおいても、現場をより良く取り仕切る専門人材が必要です。そして重要なことは、地域プロジェクトマネージャーが専門的職業として正当な待遇のもとで社会的評価を得ること。総務省では地域プロジェクトマネージャー1人の雇用経費をとして間650万円を上限に地方財政の特別措置として計上(1人あたり3年間を上限)する方針です。