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コラム No.113

CREコラム・トレンド

議論が本格化する「一人親方」問題

公開日:2021/01/29

建設業界で「一人親方問題」が注目を集めています。建設投資が停滞しコスト削減を図りたい建設事業者が大工や左官など技能労働者との間で社会保険の負担義務がない請負契約を結ぶケースが増加しているからです。担い手不足に悩む業界で人材確保に逆行しかねない事態として国を含めて大きな議論になっています。

コスト低減と担い手不足の二律背反

大工や鳶、左官など職人の世界は、一般に4つの段階があるといわれています。親方の下で「見習い」として出発し、技術を習得して「職人」になります。その後、育ててくれた親方から独立すると「一人親方」になります。彼らは職人として雇用される場合や、同じ立場で異なる職種の技能者と職人グループを作って工事を請け負うこともあります。最終ゴールである「親方」は会社組織のもとで職人を雇用し、建設工事を受注し業務を遂行します。

国土交通省の「建設投資見通し」によると、わが国の建設投資は1992年の84兆円をピークに減少基調となり、2010年度には92年度の半分程度にまで落ち込みました。その後、東日本大震災からの復興需要で回復傾向になっていますが、現在はその勢いは見られません。また、国土交通省の「建築着工統計調査」によれば、新設住宅着工戸数もこの10年あまりは停滞気味で、工場・倉庫などの非居住建築物の着工数は1980年と2019年を比較すれば、約4分の1に減少しています。

建設業界では工事件数の減少を背景に、建設コストの低減は常に大きな課題として存在します。一方で、建築工事に不可欠な熟練技能者は厳しい労働環境や少子高齢化などが原因で人材確保が厳しくなっており、担い手不足が深刻になっています。
国は建設業の労働環境を改善して技能者を確保するため、2012年から建設業界に対して社会保険の加入を推進。さらに2019年からは「働き方改革」の一環として長時間労働の上限規制や有給休暇の付加義務などを定めました。こうした改革に水を差す動きが「一人親方問題」として最近クローズアップされています。

契約形態の変更で社保負担を逃れる

建設業は重層的な下請け構造の下で成り立っています。建設需要が低迷すれば住宅など物件価格は低下傾向になり、工事受注者は利益を確保するためのコスト軽減策を取らざるを得ません。しかし職人の日当などは最低賃金など法定基準があり、容易に下げられません。そこでターゲットになるのが労災などの社会保険コストです。
社会保険は、雇用主が労働者を雇用し「賃金」を支払うことで発生し、義務付けられます。ところが職人を個人事業者とみなして請負契約を結べば「報酬」を支払う形になり社会保険の負担義務はなくなります。それまで社員として雇っていた技能労働者に対する福利厚生費の負担から逃れるために社員から外す形で「一人親方」に仕立てて社会保障コストを軽減しているケースもあると言われています。

図1:一人親方の構造要因

建設業は国内で最も企業数が多い業界だけに、高齢化社会の進展による後継者問題はどの業種にもまして深刻です。すでに2020年10月から建設業法の一部改正があり、長時間労働や短工期の禁止など労働環境改善の取り組みは始まっています。また国土交通省は2020年6月から「建設業の一人親方問題に関する検討会」を開催し、議論を重ねています。一方でこの問題は次世代の職人たちが志向する労働形態にも関係があるようです。

工事会社と職人のマッチングサイトも

わが国の産業を支えてきた終身雇用制度が徐々に形骸化し、非正規雇用が増加するなど労働形態は様変わりを見せています。建設現場で働く人々も例外ではありません。いまITを活用して仕事を受注する仕組みが注目されています。スマートフォンで職人の登録をすれば、工事会社や親方を紹介してくれるサイトがあります。工事受注者は仕事ができる職人の確保に懸命で、好きな時間に働きたいと考える職人も多く存在しています。こうした需給の隙間を狙い双方を結び付けて成長しつつあるのがマッチングサービスです。

大工や鳶、左官といった技能労働者はその道のプロ。これまで手掛けてきた職歴を公開して技能レベルを宣伝し登録しておけば、職人を探している工事会社との間で仕事を受注できます。こうしたサイトでは工事代金の受け取りや支払いを立て替えたり、労災の加入を手伝ったり、工具の修理依頼を行うことができるなど、至れり尽くせりのサービスを展開しています。

売上げの減少を経費の圧縮で補うのは、利益を追求する企業として不可避の戦術ですが、建設コストを削減すれば処遇の悪化を招いて担い手の確保は進みません。加えて若い世代の職人の中には、会社組織に縛られない処遇を望む人も少なくないと思われます。しかし建設業は職人の現場力なしには成り立ちません。特に近年は各地で自然災害が多発して家屋の被害が増加しているにもかかわらず、復旧工事に携わる専門技術者の数が不足して災害復興が遅れている現実があります。
一人親方問題で最も大事なテーマは、どのような労働形態であれ建設現場における技能労働者を持続的に、適切な労働条件のもと、確保することです。日本の建設業の発展のためにも、優れた職人を欠かすことはできないのですから。

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