社会動向 “生物多様性保全”の重要性
「気候変動」とも相互に影響しあう重要な環境課題
この50年間、地球の生態系損失は急速に進んできました。世界自然保護基金(WWF)が2022年10月に公表した「生きている地球レポート2022」によれば、1970年から2018年の約50年間で、自然と生物多様性の健全性を測る数値(LPI)が69%も減少したことが報告されています。
この生態系の損失は、地球温暖化や人類による自然資本の過剰消費が主な原因とされており、国際生物多様性科学政策プラットフォーム(IPBES)と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年に共同で発表した報告書では、生物多様性の損失と気候変動の進展は、相互に影響しあっている課題であると指摘しています。
したがって、持続可能な未来のためには、気候変動の緩和・適応策だけでなく、生態系への損害・損失の抑制にも同時に取り組む必要があります。また、2022年に開催された世界経済フォーラムにおいても、今後10年間の重要なグローバルリスクとして、気候変動の影響に続き「生物多様性の損失・生態系の崩壊」「天然資源の危機」が挙げられており、経済界においても、その重要性が認識されています。
生きている地球指数(1970年~2018年)
出典: WWF/ZSL (2022)より当社作成
グローバルリスクの長期的な重要度ランキング
(今後10年間に起こりうる影響(深刻さ)の推定)
- 1. 気候変動緩和策の失敗
- 2. 気候変動への適応の失敗
- 3. 自然災害・異常気象
- 4. 生物多様性の損失・生態系の崩壊
- 5. 大規模な非自発的移住
- 6. 天然資源の危機
- 7. 社会的結束の浸食と二極化
- 8. サイバー犯罪の拡大とサイバーセキュリティの低下
- 9. 地政学上の対立
- 10. 大規模な環境破壊事象
“ネイチャーポジティブ”に向けた世界目標
ネイチャーポジティブとは、自然生態系の損失を食い止め、回復に向けた取り組みを進めることを意味する言葉です。 2022年12月にモントリオールで開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、昆明・モントリオール枠組が採択され、2030年までにネイチャーポジティブに向けた緊急の行動を社会全体で起こすことを掲げた「2030年ミッション」や、その達成に向けた23のターゲットが定められました。
これらのターゲットには、生物多様性に配慮した空間計画や劣化した生態系の回復といった生態系保護に関する取り組みだけでなく、生産や消費のあり方を見直すといった経済活動の根本的な変革も含まれています。さらに、企業や金融機関に対しては、自社の事業活動が生物多様性に与える影響を評価し、情報を公開することが求められています。
(出所)環境省「次期生物多様性国家戦略要素(第1部)」より抜粋
業界における課題・対応策 日本は世界有数のホットスポット
日本は世界の中でも珍しい生態系です。温暖で多雨な気候、南北に長い列島に加え、3,000メートル超の高山まである複雑な地形を有しているため、日本に自生する約7,000種の樹木や草花のうち、約4割は日本でしか見られないものです。また、外来種の侵入が難しい島国であることから、古来より、独特の生態系ネットワークが築かれてきました。
しかし、過去50年間で、日本でも生物多様性の損失・劣化が進んでいます。建設業を営む企業にとって、既存の生態系を破壊することなく、守り、育てていくことは非常に重要な課題です。まずは開発による影響を適切に評価し、対策を講じることで、生物多様性の損失を最小限に抑える必要があります。さらに、重要地域の保全や里地里山などの身近な自然の活用、そして生物のつながりや配置を考慮した生態系ネットワークを形成し、生態系を回復軌道に乗せることが求められています。
また、気候変動の緩和や適応、社会のレジリエンスの向上のためにも、グリーンインフラ技術をはじめとした自然を活かした解決策を積極的に取り入れることが必要です。さらには、人々の心身の健康やストレス軽減(ウェルビーイング)の観点から、都市緑化や公園整備などへの取り組みを通じた暮らしの豊かさの提供も重要であるとされています。
対応策 大和ハウスグループが目指す姿
大和ハウスグループでは、生物多様性保全活動に関する自主基準として「生物多様性ガイドライン【開発・街づくり編】」を制定しています。大規模な開発案件において、6つの配慮項目とABINC認証を参考にしたチェックリストを活用しながら、在来の生態系を破壊しない開発を行っています。また、自然環境と調和した住まいや施設、まちづくりを通じて、まちに良質な緑を増やしています。都市部における野生動植物の生息地を確保し、有機的な生態系ネットワークの構築に貢献するとともに、人々に安らぎをもたらす良質なコミュニティの形成に努めることで、魅力あるまちづくりを推進します。