「OK Google 」から始まる暮らし
──東京・渋谷にある大和ハウス工業の住宅展示場。 ここでは、スマートスピーカー「 Google Home 」を通して、イッツ・コミュニケーションズの「インテリジェントホーム」がさまざまなデバイスをコントロールする「ダイワコネクト」を体験できる。これからの新しい暮らしのシーンがどう変わっていくか、実際にみてみよう。
朝
枕元の Google Home に「OK Google、朝の準備お願い」と声をかけると、自動でカーテンが開き、コーヒーメーカーのスイッチがオン。アロマディフューザーも作動する。
1階のリビングに下りたら、ここでも Google Home に「OK Google、朝の準備お願い」と一声。
リビングのカーテンが開き、照明が点灯。気象ニュースや経路を確認することもできる。朝の準備をしている間に、キッチンでは朝食づくりをスタート。忙しい朝の時間を効率的に使うことができる。
外出する時は「OK Google、家を出る準備をお願い」といえば、カーテンが閉じ、消灯。ロボット掃除機が作動する。
帰宅時
自宅近く300mほどまで来ると、スマートフォンの位置情報を感知し照明とエアコンが自動でスイッチオン。玄関ドアを閉めると同時に、家中の電気がつく。
夕食はキッチンに置いた Xperia Touch が大活躍。キッチンのカウンターに映し出したレシピサイトを見ながら、お好みの料理をつくることもできる。
キッチンカウンターに夕食のレシピを映し出して調理スタート。
夜
「OK Google、シアターモードにして」──ゆったりとエンターテインメントを楽しむ時間の始まりだ。
プロジェクターが設置してある寝室のカーテンが自動で閉まり、シアターモードの照明にライトダウン。正面の壁には、映像を映し出すプロジェクターが自動で下りてくる。
就寝時
就寝時は「OK Google、おやすみ準備をお願い」と一言。プロジェクターが収納され、照明もオフに。 Google Home に「OK Google、7時に起こして」と一声かけて目覚ましのセットも完了だ。
家とスマートスピーカーがつながり、家事が効率化。充実したエンターテインメントが楽しめる暮らしが始まる。
スマートスピーカーの登場で、住まいのIoT・AI化が一気に加速しつつある。さまざまな住宅設備や家電が家とコネクトすることで、スマートハウスはどう進化していくのか。 Google Home を活用したコネクテッドホームを提案する大和ハウス工業・取締役常務執行役員の有吉善則氏に、スマートハウスが実現する新しい「住まい方」について語ってもらった。
エネルギー管理だけのスマートハウスは終わり
──IoT を活用したスマートハウス「ダイワコネクト」プロジェクトが2018年1月からスタートします。
スマートスピーカー「 Google Home 」を活用した家ですが、そのコンセプトについて教えてください。
有吉:ダイワコネクトのコンセプトは「戸建住宅がIoT・AIを活用し、日本の住環境の課題解決を目指す」です。そのポイントとしては3つあげられます。
まずは、お客さまがニーズに合わせて好きなデバイスを組み合わせて使える「コネクト環境の整備」です。
さまざまな企業とオープンイノベーションを活用しながら連携。生活シーンの各機器をつなげる仕組みを作っていきます。
次に、これまでの住生活提案のノウハウに加え、IoTやAIを活用した新たな生活価値を提供する「ライフシーン コンサルティング」を行います。
有吉善則 大和ハウス工業 取締役常務執行役員
1982年京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業、大和ハウス工業入社。集合住宅・戸建住宅の商品開発を担当し、2017年同社取締役常務執行役員に就任。
今のスマートハウスはエネルギーの有効活用が中心です。さらに我々はIoT、AIを活用して家事の効率化、健康管理、防犯、エンターテインメント、資産維持管理などのサービスを提案していきます。
3つ目が、住まう人と生活、情報を守るリスクマネジメントの強化です。情報セキュリティの構築、誤操作・誤作動による事故防止の安全対策、維持メンテナンスなどの対策をしていきます。
ダイワコネクト 3つのポイント
独自開発よりも Google を導入する決断
──「 Google Home 」というスマートスピーカーを搭載することのメリットはどこにあるのでしょうか?
有吉:ダイワコネクトの仕組みは Google Home を通して、さまざまなデバイスをイッツコムでコントロールするというもの。その最大のメリットは、音声認識。高齢者など、誰もが簡単に使えるユーザーインターフェイスです。
ディープラーニングで音声認識の精度もどんどん向上していくので、使えば使うほど便利になっていきます。
実は、スマートスピーカーに近いものは、我々も大学発のベンチャーと3年ほど前から研究を進めていました。
OK Google」の呼びかけに光って反応
想定していたのは、スマートスピーカーというよりはAIマイクのイメージです。照明などにマイクを埋め込み、音声認識とディープラーニングで、さまざまなデバイスをコントロールしたいと考えていました。
しかし、1年ほど前に事業部門からスマートスピーカーの活用という提案を受け、夏には Google Home を活用したプロジェクトがスタート。
時間とお金をかけて自分たちが開発するよりも、すでにある商品を有効活用するほうが効率的と判断しました。結果としてユーザーにとっても価格的なメリットが大きくなりました。
IT化のきっかけは阪神・淡路大震災
──大和ハウス工業は業界でもいち早く住宅のIoT化に取り組んできています。今回の「ダイワコネクト」に至るまでの背景を教えてください。
有吉:大和ハウス工業がIT住宅の研究をスタートしたのは1996年。きっかけは1995年の阪神・淡路大震災です。
固定電話、携帯電話が機能しない中、インターネットが災害時の通信手段として強みを発揮したことに着目。そこからIoT関連の研究をスタートしました。
2001年には携帯電話を使った電子錠やエアコンの遠隔操作ができる「留守宅モニタリングシステム」を発売。2005年には家で健康チェックができる「インテリジェンストイレ」も手がけています。
自宅で尿糖値・血圧・体脂肪・体重の4つの機能を測定できる「インテリジェンストイレ」
HEMSで「電力の見える化」を実現したスマートハウス
そういう中で、大きなエポックメイキングになったのがスマートフォンの普及です。タッチパネルで、さまざまな遠隔操作をすることが可能になりました。
もうひとつ、2009年に実証実験がスタートしたスマートハウスの登場も大きかったですね。
これは家庭で使うエネルギーを見える化する「HEMS(ヘムス)」を搭載したものです。無線の通信規格の統一化が進み、エコネットとして標準化しました。2011年にはいち早くスマートハウスのモデルを全国に3棟建設。これらの展示場を見ていただくことで、ユーザーのみなさんにスマートハウスのイメージを提示しました。
ちょうど2011年は東日本大震災の年。世の中のエネルギーに対する関心が高まる中、住宅にもエネルギーの発電・蓄電、省エネ化が求められるようになりました。家がエネルギーの地産地消のひとつとして考えられるようになったのです。
ただ、HEMSの場合、基本は「エネルギーの見える化」だったので、どうしてもユーザーへの訴求力が弱かった。そういう意味では、一般に広く普及できなかった部分もあります。
しかし、今回のコネクテッドなスマートハウスには、さまざまな可能性が広がっています。ユーザーにとっても投資対効果として、多くの利便性を実感してもらえると思います。
共働き世帯と高齢者に寄り添う家
──具体的にどういったターゲットに向けて、サービスを展開していく予定なのでしょうか?
有吉:ダイワコネクトのターゲットは、30代、40代の共働き世帯、高齢者、介護世帯などです。仕事や子育てに忙しい共働き世帯にとって、家事の効率化は大きなテーマとなります。効率化することで、自分や家族の時間が生まれることが、住む人の暮らしを豊かにしてくれるはずです。
また、少子高齢化が進む中、高齢者の暮らしを守る視点も必要です。
例えば、食事のケータリング、ヘルパーや遠くに住む家族とのコンタクトができる家というのは、以前から構想にありました。さらに今後は医療との連携、例えば自宅からホームドクターの遠隔医療を受けることなども実現していきたいですね。
住宅メーカーとしては、建物自体を見守ることも考えたい。どこかで雨漏りがしている、給湯器が壊れそうだなどの維持管理です。機器側にセンサーを組み込めば、それらの情報を発信することは比較的簡単で、壊れる前に予測することも可能です。これは機器メーカーにとっても、メンテナンスにとどまらず、継続して商品を使って購入してもらうというメリットになるでしょう。
ハードで勝負する時代は終わり
──今後、このスマートハウスをどのように発展させていきたいと考えていますか?
有吉:まず、第一に我々が注力するのは、住宅をどう管理するか、住む人をどう見守るかというコンテンツの提案です。スマートスピーカー市場の活性化に伴い、将来的にはユーザーのニーズに合わせた選択をする可能性もあるでしょう。
住宅業界は、まだまだ「オリジナルで差異化を図りたい」という意識が強い。しかし、もはやハードで勝負する時代ではありません。それよりもコンテンツの力が重要です。我々も、生活の中で必要とされる音声認識を学習するプログラムなど、住宅メーカーとしてのコンテンツを充実させていくつもりです。
ハードやインフラはできるだけ共通化し、コストを抑えていく。その代わりできるだけ多くの企業に参画してもらい、コンテンツで勝負していく。それがこれからのAIを活用したスマートハウスです。
実際、AIやテクノロジーの進化に合わせて、ここ5年ほどでIoTに対応したデバイス機器が家電を中心に急激に増加しています。クラウドでコネクテッドした家には、今後より多くの設備、家電、セキュリティなどがつながっていくはずです。
健康とセキュリティを最大限サポートする
有吉:私は住む人にとって究極の幸福は「健康であること」だと考えているので、それを最大限サポートしていきたいですね。例えば家事の効率化も、日常生活にゆとりを生み、健康な暮らしをサポートすることのひとつ。
もうひとつは、セキュリティです。高齢者など体力的弱者への人災的なセキュリティ、情報のセキュリティ。そして災害など天災へのセキュリティも考えていかないといけない。いくら普段便利でも、雷が落ちたら役に立たないというのでは、困りますから。
コネクテッドホームはスタートラインに立ったばかりで、まだまだ現状には満足していません。住宅メーカーとして、住む方が満足してくれるようなコンテツやサービスを作り上げ、新しいスマートハウスの時代を築いていきたいと思っています。
※ Google、Google Home は Google LCC の商標です。
※ Google Home でインテリジェントホームを操作するには、IFTTT(イフト:異なるプラットフォームを連携させるウェブサービス)と Google Home の初期設定 が必要です。
※NewsPicks『Google Home で住まいはどれだけAI化できるか(2018年1月5日公開)』より転載(取材:久川桃子 構成:工藤千秋 動画:安岡大輔 写真:北山宏一 デザイン:九喜洋介)
※2018年2月現在の情報となります。