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快適に暮らす

暮らしにいいものを探して vol.21暮らしにいいものを探して vol.21古材や古道具を
取り入れて楽しく
おおらかな暮らしを

長野県諏訪市にあるReBuilding Center
JAPAN(リビルディング センター ジャパン)は
依頼のあった家屋から古材などを
引き取り販売しています。
誰かが不要になったものを、
次に必要とする誰かへ…。
ものをつないでいく現場を訪ねました。

2024.7

リビルディング センター ジャパンを誕生させた東野唯史さん、華南子さん夫妻。古材が並ぶ店内で。

捨てられていく古いものを
今の暮らしに生かすこと

3階建てのレトロビルを丸ごと活用したリビルディング センター ジャパン。

上諏訪駅から10分ほど歩くと、通りに面した3階建ての建物「ReBuilding Center JAPAN」(リビルディング センター ジャパン)、通称“リビセン”にたどり着きます。建物の前には大きな古道具や石材などが置かれ、元気に作業するスタッフの姿が見られます。

建物に入ると、1階にはカフェとショップ、2階には家具や生活雑貨など古道具売り場、3階にはドアや窓などの建具や家具の売り場、奥にワークショップ用のスペースがあります。

「基本的にここから車で1時間圏内で、古材や古道具を引き取って販売しています。古材店と言っても一般の方には来にくいと思うので、カフェや古道具も置いて、皆さんに来ていただきやすい場所を目指しています」と東野華南子さん。夫の唯史さんとリビセンを運営しています。

カフェでゆっくりする人もいれば、数時間かけながらじっくり検討する人も。訪れた人がおのおの自由に過ごしている光景が印象的です。

「一般的な古道具店や古物店では美術的な趣味嗜好(しこう)で語られることが多いと思いますが、ここはそうではなくて、雑多なものがいろいろとあります。ある人にとっては全然価値がない、でもほしい人にとってはすごくほしい。幅があるんです。そういうことも含めて、見る人のそれまでの価値感をちょっと揺さぶるような経験、新しい発見ができる場所になるといいなと思ってます」

レスキューした古材を
必要とする人へ
きちんとつないでいく

“リビセン”は東野さん夫妻が2016年に立ち上げたセンター。きっかけは、空間デザインに携わりながら夫妻で日本全国を回っていた時期に、古い家が次々と解体され、古材が捨てられている現場に触れたこと。

「どんどん捨てられている一方で、古材を材料として海外から輸入している状況があって、なんだかもったいないなと思ったのがきっかけの一つです」。いつしか古材をレスキューする、救い出す!という感覚で当時から解体現場に赴いて引き取るように。リノベーションの際に活用した古材は空間になじみ、材料費も抑えられ施主さんにも喜ばれたといいます。

そうした経験を抱えて2015年、新婚旅行でアメリカ・ポートランドで本場の「ReBuilding Center」を訪れ感銘を受けたそう。帰国後に日本版のセンターを立ち上げたいと決意し、名前とロゴ使用を申請。快諾され、翌年にはオープンに至りました。

「本場の店の動画を見ていたら、たとえば、街のどこかの家で引き取ってきた窓が、次は別の通りの家の窓になっていて、それがすごく感動的だったんです。共感できた。資源をあっちこっちから持ってくるよりも、地域で循環していく方が環境負荷も低いし、無駄がない。自分の家の窓があそこでああやって使われてるんだ!って思う感覚も面白いなと思ったんです」

今では解体も含めて月に50軒ほど引き取りの依頼を受けるそう。レスキューするか否かは「自分たちが次の世代につなぎたいと思えるかどうか」で判断。木材なら無垢材など、なるべく自然にかえるものをレスキューすると決めています。引き取り後は一つひとつ手作業で掃除をし値段をつけ、ようやく店頭に並びます。

床板、棒材などカテゴリーに分けられ、メジャーなども用意されている。

古材が並ぶ一角。レスキューした建物ごとに管理して販売。年代や場所も明記。「スペースを使うし管理の手間はかかりますが大切なことだと思ってます」

古材売り場のガラス窓の向こうはカフェ。お茶を飲みながら古材を目にすることができる。

取材当日に運ばれてきた建具の掃除作業に遭遇。スタッフの皆さんの熱心な姿も印象的。

建具や家具、
生活雑貨などさまざまなものが
新しい持ち主を求めて並ぶ

店内にはホームセンターのごとくさまざまなものが並んでいます。ドアや窓などの建具、ソファや椅子などの家具から、木棚や木箱、籠、照明、食器、衣類、民具などまで。懐かしいものもあれば、いったい何に使うの?と思うものも。ものであふれているけれど、うるさくない、むしろ好奇心がそそられるのを感じます。

「量産品と違って同じものが同じ場所で買えるわけではないので、本当に出合いだと思います。あとは、机がほしいと漠然と思っていても、これは高さが違う、こっちは色が違う…と見ていくと自分にとって本当に必要な機能を見つめ直す機会にもなる。これがついてると便利なんだ!と逆にものからヒントをもらうこともあります」。自分の意図を超えたところで何かが起こる、そんな感覚が古道具選びの楽しさだといいます。

2階の古道具売り場。照明や家具、食器とここでもカテゴリーごとに見やすく工夫されている。

リノベーションや開業を予定して見に来る人も多いそう。「飲食店を開業する方が木材を選ぶのに、うどんのこね板など食にまつわるものにしたいと探しに来られたことがあって、そういうのはすごくうれしいですね」

また、商品には小皿の一枚一枚に至るまで値札にレスキューナンバーが記されているのが特徴。いつどこで引き取られたものかを聞くことができます。「トレーサビリティを大事にするのは、引き取ったものをきちんと使いたい人に届けるまでがレスキューだから。買う人がいないと捨てることになるから、きちんと売るということも大切なんです」

ガラスやうつわなど、レトロな食器もたくさん!宝物探しのような気分に。

懐かしさを感じる古いランプシェードもさまざまなタイプがそろう。

3階の建具売り場。窓枠やドア、古い型板ガラスなども。

古いものを自由に生かして、
楽しんで
おおらかに暮らすヒントも

古材や古道具をレスキューする仕組みをつくることに尽力してきた東野さん。古いものは決して敷居が高いものではないといいます。
「たとえば籠とか箱とか、もともと何に使われたかわからないものがありますよね。うちにも謎の金属の編み籠があって、お風呂で子どものおもちゃ入れにちょうどいいので使ってます。なんか便利なんです(笑)。そうやって自分たちに使い勝手がいいように使えばいい、用途が限定されてないから自由に解釈していい。専用のものっていうより汎用の楽しさ、おおらかさがある。古いものは案外、ずっとそこにあったように、暮らしになじみやすいんですよ」

まずは茶碗1個、あるいは何となく風合いに惹かれた板を1枚買ってみるだけでもいい、取り入れてみてほしいと提案する東野さん。「そこから自分の暮らしがどう変化するのかを楽しんでみるのもいいなと思います」

1階のカフェは、そんな古材を生かしたい人にヒントとなる空間。古材を使った手づくりのカウンターやテーブル、古い窓枠を使った壁や古材を貼り合わせた壁など取り入れ方の参考になりそうなアイデアも。さまざまな古材が混在していても、ホッと落ち着ける空間になっています。

カフェでは目に見える範囲はすべて古材を活用。カウンターの板張りは古材を削ったもの。古い引き出しなどをはめ込んで収納に活用。

手づくりのテーブルは古材を寄木風に組み合わせた天板が特徴。古い窓枠を組み合わせて壁に。

大胆に古材をパズルのようにはめ込んだ壁。威圧感はなく、いろいろな風合いが心地よく感じられる。左の白壁の中は、子どもたちの遊び場。

地域の表情も
リノベーションで変えていく

リビセンでは街の中で循環させるという当初のテーマに基づいて、地域での取り組みにも力を注いでいます。周辺には空間デザインやリノベーションを手掛けたり、リビセンの古材を使ったりした店や施設が10店ほど点在。古いものが生かされて、新しい表情を見せる様子を探して、街歩きを楽しんでみるのも面白そうです。

生活と芸術の本 言事堂

美術・工芸などの芸術書を中心に生活と暮らしの本を扱う古書・新刊書店。沖縄県・那覇から移って2023年にオープン。もともと個人病院や乾物店、社交ダンスの衣装店だった建物をリノベーション。古材や古い本棚を活用するなど、古いものたちの醸し出す空気感が心地いい。

リノベーションで昔からそこにあったような本屋さんに。

店主・宮城未来さん(右)とリビセンの東野華南子さん(左)。「駅前には本屋がなかったので本当にありがたい存在。本のレスキューもできるようになりました」と東野さん。

壁面には、さまざまな古い本棚や棚をはめ込んで収納できるように。サイズもさまざまな絵本がずらり。

生活と芸術の本 言事堂(ことことどう)

長野県諏訪市末広5-18
10:00~18:00 火・水曜休み
http://books-cotocoto.com/

AMBIRD Coffee&Tea

一杯のカップから生まれる暮らしの豊かさを考える、そんな人に寄り添う一杯を目指して自家焙煎豆のコーヒーを提供。東京から移住したオーナー・黒鳥伸雄さんが2019年にオープン。メニューの看板やインテリアの一部に古材が使われて落ち着く空間に。

県内外から訪れる人も多いという。コーヒーの香りが似合う外観。

AMBIRD(アンバード)Coffee&Tea

長野県諏訪市諏訪2-2-2
tel. 0266-75-5634
7:00~17:00 水曜+不定休
https://ambird.jp/

店舗にとどまらず、広く地域へと循環の輪を広げているリビセン。東野さん自身、たくさんの捨てられるものを見ているうち、ものを作る責任、買う責任を強く感じるようになったといいます。
「新しいものを買うことに結構、慎重になりました。古いものならまた誰かに引き取ってもらえると思えるし、いい材質のものであれば資産としても考えられる。生活スタイルが変わったときにどうするか、手放し方まで考えることが大事だなと思うようになりました」
リビセンからレスキューの輪に加わることで、ものの行く末を考える一つのきっかけになるのかもしれません。

ReBuilding Center JAPAN(リビルディング センター ジャパン)

長野県諏訪市小和田3-8
tel. 0266-78-8967
11:00~18:00 水曜・木曜休み

https://rebuildingcenter.jp/

前号はこちらから

倉敷美観地区へ【後編】倉敷民藝館で知る、用の美

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