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海洋環境にやさしく、おいしい!サステナブル寿司の世界【前編】
~環境に配慮した"サステナブル・シーフード"とは?~

後編:ポートランドで誕生!サステナブル寿司レストラン「Bamboo Sushi」

2017.09.28

多種多様な魚介類は、私たちの健康な身体づくりに欠かせない食材です。しかし、年々深刻さを増す地球温暖化をはじめ、過剰漁業や違法漁業などによって、地球の海洋環境は大きな影響を受け続けています。

そのため、私たちが食べることのできる水産資源の種類や量にもさまざまな配慮が必要です。水産資源の持続可能な調達をもっと推進させ、消費者意識を高め、"サステナブル・シーフード(持続可能な水産資源)"を選ぶという行為が、いま大切になってきています。

どうなっている!? 日本周辺水域の水産資源の現状

島国である日本の水産資源は、今どうなっているのでしょうか。

水産庁が発表する「平成28年度 我が国周辺水域の資源評価」では、法律に基づく漁獲可能量制度の対象魚種のうち50魚種84系群について資源評価がまとめられています。そこではマサバ(対馬暖流系群)、スケトウダラ(日本海北部系群)、ホッケ、トラフグなどは資源が「枯渇している」と評価され、こういった「枯渇している」魚種が全体のほぼ半分を占めているという危機的現状です。

4年前の統計データである『「平成24年度 我が国周辺水域の漁業資源評価」等』と比較すると、「枯渇している」と評価される資源が、約10パーセント近く増加していることがわかります。

日本の水産資源の現状

漁獲される魚ごとにその資源量が分類されて公表されています。

出典:「平成28年度 我が国周辺水域の資源評価」(水産庁)、「平成24年度 我が国周辺水域の漁業資源評価」等(水産庁・(独)水産総合研究センター)
※当サイトでは、元資料の用語「高位/中位/低位」を「豊富/ほどほど/枯渇」に置き換えています。

また、寿司ネタや刺身で人気の太平洋クロマグロは、2014年以降、IUCN(国際自然保護連合)が絶滅危惧種に指定するレッドリストに入っています。

このように水産資源が減少している背景として、過剰漁業や違法漁業などの漁にまつわる影響に加えて、地球温暖化の影響、マイクロプラスチックなどの海洋ごみによる生態系への影響、動植物プランクトンなどを含むバラスト水(船の船底に積む水)の放出による生態系のかく乱など、さまざまな事象が問題視されています。

今回取材したアメリカの寿司レストランにて。店と提携するアメリカ在住漁師が地元で捕ったサステナブル・シーフードのサバとマグロ。

サステナブル・シーフードって何?

水産資源の危機問題を解決するためにも、小売業や飲食店、消費者らが、海洋環境に配慮された漁業で獲られた魚介類である"サステナブル・シーフード"を意識していくことは日々大切になってきています。

近年では、"サステナブル・シーフード"であることを示す認証や基準も増えています。世界中の個々の水産認証制度を審査する国際機関GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative 世界水産物持続可能性イニシアチブ)の認定を得ている水産認証として、世界的に有名なMSCがあります。

ロンドンに本部を置くMSC(Marine Stewardship Council 海洋管理協議会)は、海洋環境や水産資源に配慮して獲られた天然水産物の普及に努める世界的な組織です。「持続可能な漁業」を推進するMSCでは、MSC基準を満たした水産物に対して国際的な水産物認証エコラベル(海のエコラベル)を表示できるようにしています。

このラベルを付けるには、持続可能な漁業を対象とした「漁業」の認証に加えて、「加工・流通過程の管理」のためのCoC認証(Chain of Custody)も含まれます。この「加工・流通過程の管理」の認証では、MSC認証水産物とそれ以外の水産物が混ざらないようにする管理システムの有無や、管理システムによって全てのMSC認証水産物の仕入れについて非認証水産物との仕分けが行われ、適切に記録されているという継続的な管理が求められます。

MSCラベル(海のエコラベル)を取得できているかどうかが、サステナブル・シーフードであるかどうかの世界的基準のひとつになります。その他、さまざまな団体による基準も存在しています。

サステナブル・シーフードを表す水産物認証ラベル

天然水産資源の漁業を対象としたMSCを始めとして、世界中にさまざまな認証ラベルが存在しています。今回紹介した、青色のMSCラベル(海のエコラベル)の付いた水産物は、国内のスーパーマーケットや百貨店などで販売されているので探してみましょう。

MSC(海洋管理協議会)

MSCラベル(海のエコラベル)

発足年・本部・オーナー/1997年 ロンドン MSC(海洋管理協議会)

アメリカ・ポートランドに誕生したサステナブル・シーフードの寿司レストラン「Bamboo Sushi」

アメリカ合衆国西海岸。メジャーリーグ速報でたびたび耳にする街・ワシントン州シアトル市から約230キロメートルの南に位置するオレゴン州ポートランド市。

この街は、「全米で最も住んでみたい都市」、「全米で最も環境に優しい都市」、「最も自転車で移動しやすいアメリカの大都市」、「全米で最もおいしいレストランが集まる都市」など、さまざまな評価を得ています。エコロジカルでクリエイティブな都市として知られ、クリエイターや若者を中心に移住者も増え続けています。

また、都市圏から一歩外へ出ると農村地帯が広がり、地元のレストランではこの地域で採れた食材を地産地消として率先して使っています。そして今回、この街から生まれた「サステナブル寿司」という新しい食文化についてご紹介します。

街として"脱車社会"を決断した歴史をもち、街そのものは徒歩や自転車でも便利なようにコンパクトにつくられました。右上の写真は、公共交通機関の中心であるMAXライトレール。

ポートランドに店舗を構える「Bamboo Sushi」は、寿司レストランとして、MSC認証を得た水産物を全米で初めて使用した店舗です。

そのコンセプトに人気が集まり、2009年にポートランド市内にサステナブル寿司のレストラン「Bamboo Sushi SE」(SE=SouthEast)店がオープンして以来、現在までにポートランドに4店舗、デンバーに1店舗と、店舗数を増やしています。

サステナブル寿司は、まさに全米のスタートアップを象徴する街・ポートランドに誕生した新しい切り口の食文化ビジネスともいえるのです。

2016年12月にオープンした、ポートランドで最も新しい「Bamboo Sushi SW」店の外観。

「Bamboo Sushi」オーナーのクリストファー・ロフグレン氏

「地元漁師の方々とお互いに信頼関係を築けているから、このようなビジネスが実現できているのです」

そう語るのは、「Bamboo Sushi」オーナーのクリストファー・ロフグレン氏。サステナブル・シーフードを寿司ネタとして使った寿司をサステナブル寿司と呼び、ロフグレン氏が米国で初めて実践しました。「Bamboo Sushi」では地元オレゴン州とアラスカ州の漁師と提携し、MSC認証を維持するためのガイドラインに従って漁業をしてもらっているといいます。

さらに、モンテレー湾水族館、WWF(世界自然保護基金)、知的交流の場であるアスペン研究所とも海洋学的なデータなどの情報を随時提供してもらったりする協力体制にあるといいます。

「スタンダードなことを守ることで、MSCの認証を取得することができます。何も特別なことはありません。だから、どうか世界中のレストランにMSC認証について知ってもらいたいのです。私たちの『Bamboo Sushi』のお客様においては、安心して食べていただくため、さらに環境問題についてもっと気づきと知見を高めていただくために、MSC認証は必要であると私は考えています」

「Bamboo Sushi」と提携している漁師の乗る漁船。

「Bamboo Sushi」のメニュー。青色で記された「MSC Albacore」は、MSC認証を取得した漁業で獲られたビンチョウマグロという意味。

「私はもともと寿司が大好きでした。また、環境学にも学生時代から非常に興味があり、もともとは環境弁護士への道を歩む決意もしていました。『サステナブル寿司』という考えを提唱したのは2006年頃です。理由はシンプルで、大好きな寿司が『サステナブル』でない、また『サステナブル』を提唱する寿司屋がない、ということを知ったからでした」

「Bamboo Sushi」オーナーのロフグレン氏は、ご自身の環境への想いから、サステナブル寿司というものを誕生させました。

「ひと言で『サステナブル寿司』と言っても、そのベースになるものはさまざまありますが、世界中の海洋生物の種類や、その漁法、捕獲可能な数まで考慮した、海洋学的なデータに基づいてレストランで提供できるメニューを決めています。

魚種の全体数を把握するのはもちろんのこと、循環システムを傷つけない数を導き出し、その決められた数量以上は捕獲をしません。

たとえば、クロマグロなどの希少な魚は、どんなに人気であってもレストランでは提供しませんし、養殖のサーモンなども飼育されている河川を汚染しているケースが多く見られ、そのような魚は一切提供しないことで徹底しています。

左から、寿司メニューの全店統括のアディさん、コーポ―レートシェフのジンツーさん。

また、タコも長い間提供していませんでした。それは、漁法に問題があったためです。タコの捕獲では、網を引きずるため、海底に生息するサンゴなどを傷つけていたのです。こうした問題や最新のデータを把握しながらそれぞれの状況に対応することにより、初めて『サステナブル寿司』と呼ぶことができると考えています」

写真手前は「握り」メニュー(左から、ハワイ産バチマグロ、メキシコ産バス、マス、ノルウェー産サバ、メキシコ産ヒラマサ)。

こういった条件をクリアして仕入れている魚は、通年のものが多く、ハワイ産バチマグロ、天然のアラスカ産サーモン、養殖はニュージーランド産キングサーモンのほか、タスマニア産かアイスランド産になる海洋養殖のトラウトなどがあるそうです。

旬のある魚としては、ポートランダーに人気の地元産ビンチョウマグロで、20キログラム程度のサイズのものが7~9月第2週頃に味わえます。また、冬場にはダンジネスクラブなども登場します。

そして、これらの新鮮な寿司ネタと同様に非常に大切な要素のお米も、契約農家から仕入れたオーガニック米を使用しているといいます。

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