大和ハウス工業株式会社

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取材協力:alterna

大和ハウス工業は、「アスフカケツ(明日の人・街・暮らしに不可欠)」な新事業として、駐車場1台分のスペースで無農薬栽培を実現できる「植物栽培ユニット」を展開。プレハブ建築のノウハウを生かした「農業の工業化」で、食の安心・安全を後押しする。

「agri-cube(アグリキューブ)」は、駐車場1台分のスペースがあれば設置することができるコンテナ式植物栽培ユニット。幅4.5メートル、奥行き2.3メートル、高さ2.5メートルほどの軽量鉄骨製建物の中に2列4段の栽培棚が置かれている。

種まき、育苗から収穫までを農業未経験者でも簡単に手間をかけずにできるよう養液循環・排水システムなどが組み込まれており、約30種類の野菜が生産でき、リーフレタスなら年間約1万株の野菜を収穫できる。

1955年、「建築の工業化」を理念に創業し、高度成長期における住宅不足の課題に応えるプレハブ住宅を開発してきた大和ハウス工業。近年は、「明日の人・街・暮らしに不可欠の次世代商品やサービスを」を合言葉に、積極的に新事業に取り組んでいる。

その一つのテーマとして挙げられたのが「農業の工業化」だ。同社が創業来培ってきたプレハブ建築のノウハウを生かしながら、だれもが野菜を生産できるユニットとして量産化できる植物工場の事業化に着手した。

「アグリキューブ」内部。左・宮垣慶子(総合技術研究所フロンティア技術研究室先端技術研究グループ)、右・井上繁人(総合技術研究所フロンティア技術研究室先端技術研究グループ主任研究員)

コンテナ式で「自産自消」が可能に

「agri-cube」は植物の栽培に必要な設備がワンセットになっている。内部に栽培棚と養液タンクが設置され、温度環境を一定に保つためにエアコンと換気設備を備える。太陽電池やエアカーテンも導入することが可能だ。

「アグリキューブ」の最大の強みは、コンテナ式というシンプルで小型の構造物の中に野菜栽培システムを収めたことだ。従来型のガラスハウスやビニールハウスを使った栽培方法に比べ、野菜工場は安定的かつ生産効率が高いが、コストが高くなる難点があった。そこで、低コスト化が可能なコンテナ式のメリットに着目した。

「駐車場1台分のスペースさえあればアグリキューブを設置していただける。レストランやホテル、コンビニエンスストアといった野菜を提供、販売する施設の隣接地に置いていただき、『自産自消』に近い発想で販売先を増やしていこうと考えた」(井上主任研究員)

隣接地に設置することで、いつでも採れたての野菜を供給でき、誰が生産したかをたどることのできるトレーサビリティの確保にもつながる。通常の農業と比べて簡単な作業で栽培、収穫ができる。土を使わない水耕栽培を利用しているため、力作業や専用の農機具も不要で、子どもから大人まで誰でも野菜の生産が楽しめる。

完全人工光型植物工場として屋内の閉鎖空間で栽培されるため、害虫や病気の心配がなく、無農薬栽培を可能にしている点も大きな強みだ。これによって、場所や季節を選ぶことなく「安心・安全」な野菜を、「安心・安全」な環境で生産できる。

住宅の技術生かし断熱性能確保

「agri-cube」Eタイプ。外観をカスタマイズすることもできる

10平方メートルという狭い空間の中で野菜を生育させるための最適環境をつくり出すために住宅建設で培ったノウハウが生かされることになった。

中でも最も苦労したのは断熱性能の確保だった。通常、住宅の場合、熱の出入りを防ぐため高気密、高断熱になるよう設計されている。だが「アグリキューブ」が住宅と大きく異なる点は、ユニット内に30ワットの蛍光灯が80本もつけられており、かなりの熱を溜め込んでしまうことだ。

「高気密化してしまうと熱が逃げず、常に室内を一定温度に保つためにはエアコンの負荷が大きくなり運転時のランニングコストの上昇につながる。ある程度の換気量と適度な気密性を確保し、最適な温度に保つため、建物の仕様や断熱材の種類、厚みを検討し、設計するのに苦労した」(井上主任研究員)

導入先は、社会福祉法人から企業、大学まで幅広い。あるプラスチック製品メーカーは、「新規事業として安心・安全な野菜を生産、提供したい」との思いから「アグリキューブ」の導入を決めた。介護福祉施設では食堂のすぐ脇に「アグリキューブ」が置かれており、入居者の食事に無農薬の新鮮な野菜を提供しているという。

「野菜の安定的な調達が難しいレストランオーナーからもたくさんの期待の声をいただいている。また、長旅のクルーズ船で航行中、安心・安全な野菜をいつでも調達できる供給源としても着目をいただいている」(総合技術研究所フロンティア技術研究室先端技術研究グループ・宮垣慶子)

小型の植物工場が広げつつある自産自消型農業の可能性。「食の安心・安全、低い食料自給率、後継者不足など日本の農業が抱える問題を農業の工業化によって解決していきたい」(井上主任研究員)と、アグリキューブの活躍の場をさらに増やしていく。

「アグリキューブ」を「生きがい就労」の場に

千葉県柏市の豊四季台団地で、高齢者に「生きがい就労」の場として「アグリキューブ」を活用した実証実験が2013年4月から始まった。

東京大学、柏市、UR都市機構の3者による「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」の事業の一環。同団地は1964年に入居が開始され、現在は住民に占める65歳以上の高齢者の割合が40%を超えている。

「リタイア後は悠々自適にと考えていても、実際にのんびりしていられる人は少ない。週に1-2日、1日2-3時間程度無理なく働いてお小遣いを稼ぎながら、かつ健康を維持できれば、いつまでも元気に暮らすことができる」と東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員の佐藤祥彦氏は事業の狙いを話す。

「野菜の緑が心に与えるプラスの効果、職住接近の事業が実現できる」と考え、「アグリキューブ」を2台導入。現在、農作業未経験の5人がいきいきと働いている。「今後は生産効率を上げながら、付加価値の高い野菜にもチャレンジして、事業として成立させることを目指して、研究を進めていく」と話している。

実際に豊四季台団地で活用されている「agri-cube」

野菜を育てた経験がなくとも、付属のマニュアルに従えば作業ができる。水耕栽培なので力仕事はない

生きがい就労事業参加者の声

実際に「アグリキューブ」を使用した生きがい就労事業に参加する方々に、感想をうかがった。

今後もチャレンジを続けたい
茂木 英郎さん(70歳 ※取材当時)

地方公務員(建築技術職)として36年間勤め上げ、退職後、財団法人の職員、会社顧問などをしていました。その後、IOGが開催する「就労セミナー」に参加したところ、植物栽培ユニットの取り組みを紹介され、昨年の東京ビッグサイトで展示されているアグリキューブを見てさらに興味を持ち、このプロジェクトに参加しました。
アグリキューブで行う作業は、「種まき」「移植」「定植」「収穫」「清掃」があります。そのほか、「種まき」から「移植」までの発芽の成育チェックや、「定植」後の養液濃度測定および給水補給作業など、作業時間は各工程でバラつきがありますが、週2~5回30分~2時間程度で5人のスタッフが手分けして作業しています。また、作業後にはメールで作業報告を行い、スタッフ内で情報も共有しています。
当初は素人の集まりでしたので、植物工場に関する講義や実習指導を受け、その後もアグリキューブの「作業手順書」「衛生管理マニュアル」などの各マニュアルで学習しながら、栽培に取り組みました。第1回目の栽培で、順調に成育した野菜を関係者に披露できたときは、大変安堵いたしました。今後もアグリキューブで栽培できそうなさまざまな野菜にチャレンジしていきたいです。他地域で栽培されている希少価値のある野菜なども探しています。

人とのつながりが広がった
中村 年雄さん(63歳 ※取材当時)

60歳の定年までソフト開発を行ってきました。その後3年間(~63歳)は無職でした。地域での活動など何もしていないと、人とのつながりがほとんどありません。人とのつながりを持ちたいと思っていました。
そんなとき、東大の「就労セミナー」のチラシがポストに入っており、最初は「東大のキャンパスを見てみたい」との気持ちで足を運びましたが、セミナーで講義を聞いているうちに働くことに興味を持ち、東大の「生きがい就労事業」に参加することにしました。
アグリキューブでの就労は、栽培ユニット内での作業が中心なので、露地栽培と違って軽作業ですし、体に負担が少ないです。野菜は日々成長していくのでそれを見るのが非常に楽しくうれしいです。作業時間も平均すると週に2日、1日1時間程度と短時間ですし、時間に拘束されないのもよい点です(自分の都合のよい時間に行ってもOK)。
また、就労セミナーや就労事業で知り合った人から、他の集まりを紹介してもらい、その活動に参加するなど、人とのつながりが一層増えました。今では、生活にめりはりがつき、健康面でもよい効果が出ていると思います。また栽培作業は肉体労働だけでなく、知能活動も伴うので、毎日楽しく仕事ができています。

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