菊地 大山町は、明治期には約七万坪を越える大山園を擁し、紀州藩徳川賴倫が所有していたという歴史ある土地。隣接する「渋谷」駅周辺は百年に一度と言われる大規模再開発が行われており、発展しながらも大人の街へと変化していくのだろうという印象がありました。実際に街を歩き、大山町は 閑静なエリアでありながら、代々木上原に近くハイセンスなカフェやレストランが点在するファッショナブルな街でもある。そこにいかにして、今回の目的である「洗練されたマンションとしての新たな価値観の創出」を実現できるかから考え始めました。
花田 植物的な観点から⾒て、代々⽊公園や明治神宮などの⼤きな緑地が存在し、都⼼でありながら緑豊かなエリアです。そこで、植物は在来種を中⼼に使⽤するなど、街の緑とのつながりが⽣まれるようなレジデンスを作れたらという想いで携わらせていただきました。
佐藤 菊地さんのお話にもあったように、インテリアや街を歩く人々の全体的な感度の高さをすごく感じています。この舞台で我々(parkERs)がどうアプローチできるかを考えながら、現地を拝見しました。
村岡 大山町を歩いたとき、歴史があるだけではなく、新しさも含む住宅地だと感じ、先進性と伝統性をどう織り交ぜていこうか、といったところがはじめに思ったことです。
菊地 街の景観とモダンさを融合させたスタイリッシュなデザイン。重厚になりすぎず清潔さを感じられる色調。存在感のある素材を纏った都会的な性質にこだわったモダンデザイン。そして、男性的・女性的にとらわれず幅多く対応するデザイン。そういったところが大山町や近接する代々木上原における「洗練されたマンション」だと解釈しているのですが、今回のプロジェクトにあたり、力強さのような存在感を特に重視しています。ただその中でも、クールやシャープに振りすぎないように素材にこだわってやさしいイメージも持たせています。
菊地 外壁に使用しているのは、大理石ではなく御影石。グレーの御影石を選定するにあたり、様々なサンプルを取りそろえて議論しながら決めました。先ほどお伝えしたような存在感をイメージしながら、少し陰影を感じさせる御影石、そして黒が基調のせっ器質タイルを使用して、力強さとやさしさが調和するデザインを目指しています。
花田 外観の⾊味に映えるように、⽐較的緑が濃い植物を中⼼に選定しました。常緑樹を多めに配し、アクセントで花や実をつける樹種などを⼊れ⼩さな変化で季節を感じられるように計画しています。またシンボルツリーには常緑樹でありながら紅葉も楽しめるヤマボウシを。ゲートを通るたびに両サイドの植物たちの多様な表情を愛でていく。そんなライフシーンを想像しながら選びました。
佐藤 まずは建物内に足を踏み入れたときに、シンボリックな樹々が迎えるエントランスとアプローチ部分。ここでは、自然の風景を切り取ったような、アートの側面も持たせた植栽計画を企てています。アプローチを進む過程では、森や並木道を歩くときのワクワク感を演出。植栽の対面にミラーを設え、両側に植物があるように見せています。実際の緑とミラーに映る緑。その実物と虚構の境界線を曖昧にして、非日常感を生み出すことを意識しました。
佐藤 エントランスホールは、シャンデリアの部分が一番のアイキャッチ。この空間に誘引するために、垂れ下がる植物が2つ連なるようデザインし、エントランスホールのシンボル的存在となっています。次に、本物の石張りを用いてダイナミックにデザインした壁面に対し、テーブルはできるだけ自然そのものの形を活かしながら空間に落とし込めたらと考え、黒御影石を選定しました。天板部分はテーブルとしての機能を持てるように仕上げて、側面は石本来の美しさをそのままに。その対比も表現できたのではないかと感じています。
花田 エントランスホールの緑を計画するにあたって、屋外の植物とシームレスにつながる空間を⽬指し樹種を選定しました。例えば、室内の観葉植物といえば艶がある⼤きな葉のものがメジャーですが、我々(parkERs)は屋外にも植っているような葉の細かい⾃然樹形の樹⽊やマットな質感の葉をもつ樹種などを選定し、下草にも統⼀感をもたせるなどして、室内外の境界を曖昧にし、⾃然豊かな⼼地よさを体感できるよう構成しています。
村岡 parkERsさんとお仕事をするのは今回が初めてなのですが、打ち合わせの段階で、緑のある空間を専有部にも取り込めないかとお伝えさせていただきました。建物すべてを一体的に考えたとき、外構部の緑が迎え、共用部の緑が導き、そうして辿り着いた場所に、自分だけの緑が待っている。そんな風に、緑のある暮らしが日常になるようなプランにしたいと思ったのです。
花田 コンセプトの「GREEN to WEAR」を体現するような村岡さんの想いに大変共感し、専有部の計画にも参画させていただいております。緑を取り込む仕組みづくりとして、例えばバルコニーに入れる植栽は、室内から見たときにバルコニーの緑の潤いを感じられるようなものを。立ち上がる植栽と下に蔓が伸びる植栽、そしてそのふたつを合わせた3パターンをご用意し、その中からお客さまの趣味嗜好に合うものを選んでいただけるようにしています。
村岡 またそもそもの専有部計画として、北側に25m程度の歩道、南側には第一種低層住居地域と、高い建物が基本的には建ちにくい位置に本物件は建つので、その眺望を活かした建物の構造形式を目指し、逆梁工法を採用しています。どの住戸にも面積に対して開口が広くとられているので、そういった面も開放的な眺望を享受できる理由だと思っています。
佐藤 生の植物なので、成長を肌で感じながら家族間のコミュニケーションのきっかけにもなると思います。あとは屋外の植栽から共用部、専有部まで、住まわれる方が通る場所に緑が続くので、日常的に心地よさを体感いただきながら、気持ちの切り替えにつなげられたらいいのではないかと思っています。
菊地 建築に携わる中で、まず気を付けたのは素材、そしてデザイン。外観デザインにコーニスを何層かに取り入れたり、壁面に御影石を採用していたり、建物全体を立体的に見せて奥行を感じられるようにしています。特筆して言えるのはゲート部分。ご入居者に「自分の家に帰ってきた」ということを強く思っていただけるように、ゲート部分で結界を作ろうと企てました。けやき並木を歩いているとこのレジデンスの放つ存在感に気付き、高揚し、結界を跨ぐようにゲートを通れば、その先に自然の潤いが待っている。我が家の安心感に気が緩み、リラックスできるような空間が広がる住まい。その力強さとあたたかさの、一見相反するような二面性に、ストーリーを感じていただけたらと思います。
村岡 本物件のキーワードは「アートギャラリー」。大山町周辺に点在するアートギャラリーのような性格を持たせたいと思い、今回ARCHI SITE MOBIUSさんの建築とparkERsさんの緑を、ともに協議しながら組み合わせていき、かなり面白いものができたのではないかと自負しています。単純な新しさというより も、豊かさをもたらす新しさを求める方や、純粋に植物が好きな方にもご検討いただけたら嬉しいです。