お手伝いよりも勉強が大事とお考えの方もいるかもしれませんが、
家事をすることは、テレビやゲームでは得られない体験となります。
今回は教育コンサルタントの松永先生に家事と成長について伺いました。
昨今、社会で求められる能力は大きく変化しています。多くの職業が将来的に人工知能(AI)に取って代わられると予想されていますが、一般企業でも公務員でも、単に情報を処理するための人材は必要とされなくなるでしょう。代わりに、発想する力や主体的に行動する力が求められています。
子どもが主体性や行動力を養うために大切なのは、テレビやゲームでの経験ではなく、現実世界での具体的な体験です。家庭の中で洗濯、掃除、料理、買い物、片づけ、庭仕事、ごみ出しなど多岐にわたる家事に参加することは、すべて具体的な体験となって生きてきます。
「雨が降りそうだから洗濯物を取り込んで畳もう」「お腹が空いたから好きなものをつくるために買い物に行こう」「しばらく雨が降らないから庭木に水をやろう」「お母さんが帰ってくるまでに、シンクの洗い物を片づけておこう」。このように、状況に合わせて自分がすべきことを思いつき、実行に移せる習慣は一朝一夕で身につくものではありません。日々の家事経験を重ねることが、発想力や主体性、行動力を養ってくれるのです。
家事の第一歩は、自分のことを自分でするという習慣づけであり、一個の人間として役割を果たすことです。使ったものを出しっぱなしにすれば、次に使う人が困ります。片づけは家族の一員として、共同生活を行う上で必要な能力を身につけることでもあるのです。
また、40年以上の家庭教師経験から言えることですが、勉強ができる子どもの家は必ずと言っていいほど整理整頓ができています。もちろん、子ども自身も自分の持ち物をきちんと管理し、どこに何がしまってあるのかを把握しています。
整理整頓をすると、必要な参考書や道具をすぐ手に取れて勉強がはかどるというだけではありません。ものの整理整頓ができるということは、頭の中の整理整頓ができるということ。これは学問を体系的に学ぶ際に必要になる能力なのです。
子育ての目標の一つは、子どもが生涯の伴侶を得られるように育ててやることではないかと思います。家事の能力は、将来良い家庭を築くために欠かすことができません。共働きであればなおさらのこと、基本的な家事能力が求められます。この傾向はおそらく今後も続いていくでしょう。
自分のことは自分でこなし、考え、行動する自立した人間であること。いくつになっても絶え間なく成長し続ける人間であること。好奇心と感受性を失わず、やりたいことを見つけられる人間であること。こうした性質を備えた人間は、同性はもちろん異性からみても魅力的です。
勉強も大切ですが、家事習慣を通じてわが子が魅力的な人間へと成長できるように配慮してあげてください。
また、これも経験から言えることですが、お父さんが家事を積極的に行う家庭は、子どもの教育がうまくいき、成績が上がりやすく、受験に成功する場合が多いようです。お母さんだけでなくお父さんも家事を担うと、家の運営や子育てについて夫婦で会話ができます。二人の意見がきちんと子育てに反映されると、それだけ広い視野で子どもの成長を見守ることができるようになるでしょう。
私見ですが、男性と女性では家事の工夫の仕方に違いがあるようです。お母さんだけではできなかった創意工夫が、お父さんによって生み出され、創造的な環境となって子どもに良い影響を与える一面もあるのではないでしょうか。
「共働き家庭では、どれくらい夫が家事や育児に協力できるかが、子どもの成長に影響する」と私は考えています。
松永 暢史(のぶふみ)先生
教育環境設定コンサルタント。教育や学習の悩みに答える教育相談事務所V-net(ブイネット)を主宰。主体的な子どもに育てるための方法を提案している。著書に『賢い子どもは「家」が違う!』(リベラル社)、『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』(すばる舎)など。
子どもを育てる家づくりバックナンバー
2017年10月現在の情報となります。